episode12 : 試練
長く暗い通路をさらに奥へ進むと、数時間ぶりに設置された明かりを見つけた。
『セーブポイントがあります。
セーブしますか? はい/いいえ』
こんな場所にもセーブポイントがあるのか。
大きな集落が予想される空間の手前。
――もちろん"はい"だ。
もしもの保険にセーブしておく。
セーブをして少し緊張が解れるのを感じ、俺はそのまま光の方向へと足を向ける。
案の定、先が指先程しか見えない巨大な空間が広がっていた。
もちろん強そうなエターナルゴブリンを添えて。
「一匹しかいない。チャンスだ」
――疾走
通路の壁際で突っ立っていたゴブリンの喉元に剣を突き立てる。突然の奇襲に加え、反応できない速さでの攻撃に、抵抗するまもなく絶命する。
「"何者ダ!!"」
「"奇襲!キシッ」
近くにいたゴブリンの仲間が騒ぎ立てるが、動揺していて戦闘態勢に入りきれていない。
疾走のスキルが継続しているうちに、もう二匹を倒し切る。
『エターナルゴブリンLv48、Lv46×2を倒しました。経験値14053を手に入れました。九十九涼のレベルが47→50へ上昇。残りポイントは205です』
ん?
レベルが3しか上がらなかった。
約5000で5も上がったのに、もうこれだけ?
『レベル上限により、転職が可能です。
転職クエストを開始します』
「転職?あぁ、上限ってのはそういうことか」
昔のRPGゲームなんかでよくある展開。
職業を授かることで、さらに上の強さへとパワーアップできたりするやつ。
ってか、クエストなら受ける選択肢とかあっても良くないか。今裏ダンジョンで戦闘真っ只中なんだが。
「"イタゾ!!侵入者だ!"」
ほら見ろ。
続々と集まってきやがった。
『転職クエストの影響で、ダンジョンのレベルが上昇します。Lv50→Lv75』
「はぁぁぁぁっ?!嘘だろそれはっ!」
あ、付け足しときました――みたいな後付けで俺を殺しに来てるのか?
75じゃ到底勝てるはずがない。
「"ヤレっ!!カカレ!」
「"ニンゲン、侵入者、コロス"」
――鑑定
『エターナルゴブリンLv74、エターナルゴブリンLv71』
「ちくしょうっ、ふざけろ!」
理不尽の押し付け。
わざわざダンジョンに入ってから起こらなくてもいいじゃないか。せめて前もって情報を提示してくれよ。
「"コッチだ!周り込メ"」
俺はゴブリンに囲まれ、引き返すことも出来なくなった。
いや、引き返せたとしても、この量のゴブリンを外に解き放つ訳にはいかない。
逃げながら一匹ずつだ。
――疾走
レベルが上の魔物相手で称号のバフ効果に、素早さのステータス、さらにスキル疾走の影響のおかげで、このレベル差相手でもスピードはこちらが上だった。
向かってくるゴブリンたちの間を縫って、確実に仕留められるレベルの低いゴブリンを探し出す。
『エターナルゴブリンLv64』
「いたっ!」
前衛に隠れて弓を引くゴブリン。
――空中歩行
俺は己のスピードを活かして前衛を飛び越える。
「なぁ、弱者をいじめて楽しいか?」
左手でゴブリンの小さな顔を掴み地面へ押し倒す。
そのまま逆手に持ち直した剣を首元に押し当てた。
「俺の経験値になってくれ」
あとは腕に力を込めて剣先を押し込む。
もはや何度経験したか分からない、ぐにゃっとした肉を貫く感覚。
『エターナルゴブリンLv64を倒しました
転職クエスト進行度1/100』
絶命して霧散したゴブリンから大きな魔石が出現。
俺はそれを拾い上げてインベントリにしまい、ゆっくりと立ち上がった。
「次はどいつだ?」
溢れ出る殺気に一瞬怯むゴブリンたち。
「魔物でも死は怖いんだな」
……簡単に人を殺すくせに。
――火炎球
広い空間であれば、派手な爆発も問題は無い。
パシュッ
爆発の煙幕の奥から、躊躇なく顔面を狙った矢が放たれる。
顔を左に逸らして交わしながら、俺はその矢を手掴みで握りしめ投げ返した。
『エターナルゴブリンLv69を倒しました。
転職クエスト進行度2/100』
「"コノニンゲン、強い!!"」
「"囲メ囲め!!複数で攻撃シロ!"」
――疾走
クールタイムの終わった疾走で、走ってくるゴブリン3体の横腹に斬撃を入れた。
……さすがはレベル70。
皮膚が固く、小さな切り傷が残るだけ。この程度じゃ倒せないか。
こちらは有効な一撃を持っていないのに、視線の先ではゴブリンたちが次々と合流していた。
「"グガァァアァァァァァアァァァァ"」
その中には、ひときわ異彩な殺気を放つレッドオークも紛れている。
――鑑定
『レッドオークLv79』
レベルたっか!!
あれに近づかれたら間違いなく――死ぬ。
「こっちから行こ――
「"ヤレっ!!"」
「ヤバっ……」
敵に囲まれた状況で一瞬でも意識を1つに奪われたのが悪かった。
背後からの強襲。
振り返った時にはもう遅かった。
「カハ……ッ」
左脇腹をナイフが掠める。
よろけた脚に矢が突き刺さる。
背中に棍棒の強い衝撃が走る。
「よ、くもっ……」
痛みで脳がバグりそうだ。
足も手も、動かしている感覚がほとんどない。
「し、ね……」
それでも残された力を使って、左を通り過ぎたゴブリンの後頭部目掛けて剣を振るう。
『エターナルゴブリンLv65を倒しました。
新たなスキルを獲得
――影渡り
影の中を自由に移動できます。
対象に影がある場合、影を通じて攻撃もできます。
――急所突
相手の急所に攻撃を当てることで、本来のダメージを5倍にする。
レベルがプレイヤー以下だと一撃で倒せる。
スキルが進化しました
――疾走Lv3
転職クエスト進行度 3/100』
「"グッ、シブトイ!!早く仕留メロッ"」
その号令でゴブリンがいっせいに動き出す。
四方八方から迫る剣も、こちらは攻撃を受けてできた傷からの出血で思うように動けない。
グサッ
しかし、剣より早く遠くから飛来した太い矢が、俺の腹を穿いた。
「――っ」
俺は意識が薄れていくのを感じる。
……あぁ、死ぬのか、俺。
HPがみるみる低下していく。
次の俺に……、託し、て………………
「まだ、だ。まだ、俺はっ!負けてないっ!!!」
次の俺?甘えたことを言うな!
俺はまだ生きている。
ならばやれることがあるはずだ。
『スキル――不屈の精神が発動します』
もはやゼロになるしかなかったHPが、残った。
『HP/1』
その表示は、紛れもなく俺が生きているという証拠。まだ戦える意志の現れ。
――影渡り
ここで生き残った。
ならばすることはひとつ。
「この中で一番強いやつを殺す」
俺は影渡りでレッドオークの背後へと移動した。
影の中に入った俺を、ゴブリン達は一瞬見失う。
――急所突
完全な奇襲に確実な手応え。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
刺した剣を全力で横に薙る。
全身が痛い。
聞こえてくるのが俺の叫びか、オークの叫びが分からない。けれど、俺はやりきった。
『レッドオークLv79を倒しました
転職クエスト進行度8/100』
「は、はは……はははは」
みたか、
散々煽ってきた弱者にやられる気分はどうだ。
「"ヤレぇーー!!!"」
チェっ、今回はここまでか……。
グサグサと、倒れた俺に剣の雨が降り注ぐ。
しかし、不思議と痛みはなく、むしろやり返した爽快感が胸の中を踊っている。
「ま、た……な。ごみど、も…………」
俺は最後まで盛大に煽って、意識を失くし……死んだ。
そして最後に聞こえたのは、例の音声。
――前に一度聞いた、その表示の声だ。
『超過経験値分のポイントを還元。既存のポイントの使用権限を申請――承認。
ポイントを使用し、スキルが進化します。
――広域鑑定→賢能Lv3
――不屈の精神Lv1→Lv2
新たなスキルを獲得。
――領域保存
セーブポイントを作り出す
――
賢能が自動で保存を行う』
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