episode13 : 俺だけチートなスキル

「うおっ、危ないな」


 長い浮遊感が終わると、相変わらず雑な着地で地面へと落ちた。

 回帰が終わった……と見るべきだろうか。


「奥に見える光はゴブリンの集落だよな」

 一応、確認も兼ねて鑑定使って……


『鑑定しました。エターナルゴブリンLv68』

 そうか、転職クエストは継続するのか。

 レベルは上がったままってわけ……か……


「おい、待て誰だ!」

『…………私ですか』

「お前以外に誰がいるってんだよ!」


 俺の問いかけに反応した声、それに連動する表示ボード


『ポイントを使用して、鑑定が進化しました。

 私は賢能。自立型スキルです』

「自立がた?これがスキルの効果だって言うのか。って、うわっ!本当にポイント全部無くなってる。100以上はあったと思うんだが!?」


『余ったポイントはこちらで割り振って起きました。 

 現在の九十九涼のステータスを表示します』


 やや無機質な声。

 しかし明確に自我を持ち、完璧な意思疎通ができている。俺の質問にしっかりと答えているのだ。


【――九十九涼Lv50(無職)――】

『HP/658 MP/198/198

 STR +80(+10)

 VIT +35

 DEF +31

 INT +20

 AGI +54(+20)


 所持スキル

疾走Lv3 自然回復 不屈の精神Lv2

賢能Lv3 空中歩行Lv1 料理上手

影渡りLv1 急所突Lv1 領域保存 自動保存


 称号効果

強者への報いLv2  格上相手にステータス上昇

強者への挑戦 格上相手に与えるダメージ+50%

初めての回帰 STR+10

聖樹の加護 物理ダメージ-10%

低層の覇者 AGI+20


 耐性

状態異常耐性Lv2』


「oh……強すぎるかも」

『あなたの努力の成果です』


 よく見ると、余ったポイントも上手い具合に俺の戦闘スタイルに合った振り分けが行われている。

 俺のスキルだと言うのは本当なのかもしれない。


 俺よりも俺のステータスのことを熟知しているのだから。


「まぁいい。詳しい話は帰ってからだ。それよりも今は目の前のクエストに集中しよう」


 俺を殺したゴミ共に復讐の時間だ。

 新しいスキルも手に入れ、ステータスも振られた後だ。少なくとも前よりは確実に強くなっている。


「えーっと、賢能って呼べばいいか?」

『はい』

「賢能は自動で鑑定できるんだよな?」

『その他、対象のステータス表示、弱点の表示、及び一部スキルの自動使用を行えます』


 あーあ、ぶっ壊れだ。

 実質脳みそがひとつ増えたようなもの。

 下手をすれば魔法まで同時併用できてしまうかも……


『できます』

「俺の心を読むな!!」


 なんだか気勢を削がれるな。

 落ち着いて行動できるからそれはそれでいいのかもしれないが。


「んじゃま、鑑定よろしく」

『――鑑定』


 空間の入口にいたゴブリンの数体が表示され、首元と脇腹あたりに赤いレティクルが見える。

 あれが弱点って訳だ。


――影渡り


 俺は自分の足元にあった影に潜り、今の鑑定を目印にゴブリンの足元まで移動。


――急所突


 的確な一撃。すぐさま影に潜り直す。

 奇襲どころか、すぐ近くにいたゴブリンですら何が起きたのかわかっていない完璧な暗殺が成功した。


 影渡りで唯一の弱点であろう敵の位置の把握が困難であることを、賢能によって補える今の状態は控えめに言って無敵だった。


 もういっちょ、――急所突


 加えて急所突のクールタイム短さも便利だ。

 約1秒、影に潜れば再度使用可能になる。


『――鑑定』


 ゴブリンが集まってこない。

 入口の兵士が倒されたことに気がついていないようだ。


「そういや、倒した表示されてないな」

『表示しますか?』

「あの表示消せるのか」

『はい』

「んじゃ、クエストの進行度が50になったら一度表示してくれ」


 倒す度に出てたあれ、実は意外と邪魔だったんだよな。元から消せたのか?

 それとも賢能の機能か……


『私の能力です』

 心の声にいちいち反応すんな!


 影渡りを解除して、静かになった空間の入口を眺めやる。ゴブリンがいなければ静かなもので、集落からの物音がよく聞こえる。


 このまま孤立しているやつを一匹ずつ狙う方が安全だ。


 だが……


「どうせ暗殺するなら、ボスから狙うよなそりゃ」

『――広域鑑定

【――ゴブリンキングLv80――】

HP/340

STR 70(+20)

VIT 40(+10)

DEF 45(+25)

AGI 24(+10)


 所持スキル

威圧Lv3 土魔法Lv4 打撃Lv3 従属Lv5


 称号

王の威厳 ゴブリンキング 統べる者』


 さすが、ゴブリンの王なだけある。

 ステータスは俺よりも高い。スキルや称号も強そうなものばかりだ。


「にしてもさ、ステータスの表示が少なくないか?」

 MPが無いし、魔法を覚えているのにINTもない。せっかくステータスは優秀なのに、少しインパクトに欠ける。


『対象に存在しないステータスは表示されません』

「え?じゃ何か。あいつはMPなしで魔法使えるってことか?!」

『はい』


 インパクト以上にアホくさかった。

 魔法は消費するものがあるから強く設定されてんだよ。代償なしでポンポン放てたら、それはぶっ壊れだろ。

 ――俺も大概だけど。


「はぁ、持久戦じゃ勝てそうにない」

 無論、元々持久戦をするつもりもないが。


「奴の周りにはどのくらい兵がいる?」

『先程の鑑定結果、エターナルゴブリンLv74×3、レッドオークマジシャンLv75』


 4匹ってことは、さほど護衛は多くない。

 先に数を減らすことにしよう。


――影渡り


 鑑定の表示を頼りに敵の足元まで忍び寄る。

 勢いで倒し切るのもいいが、ここは奇襲を徹底しよう。


 どこぞやで拾った石ころがまたしても役に立つ時が来た。

 俺は影の中から適当に石ころを放り投げる。


 影の中では音が聞こえないが、表示の位置で大体どんな反応が成されているか想像がつく。


 石を投げた方向とは逆にいたエターナルゴブリンとレッドオークマジシャンを狙い、俺は影からこっそりと這い出でる。


――急所突


 思った通り、いくらオークとは言えど魔法タイプは装甲が脆い。一撃で倒せる。


――影渡り

――急所突


『スキルのレベルが上昇

 急所突Lv1→Lv2』


 他にバレる前にゴブリンの方も倒し切った。

 急所突の力は偉大だ。レベルが高いと確定一撃とは明言されていないものの、通常の5倍のダメージで生きていられるやつは少ない。


 実質ほぼ即死。

 しかもレベルまで上がった。


『魔石を回収します』

 あら、賢能さん有能。

 余計な手間をかけずにゴブリンキングに意識を移せる。


――急所突


 強者は弱点すら少ないらしい。

 心臓と首筋にしか判定がなく、それもかなり小さい。身体はでかいくせに、せこい奴だ。


「"な、ナンダ!!ぐっ…………誰ダ"」

「"敵襲!敵襲ダァッ"」


 首筋にダメージは与えたものの、死へと至らしめるには急所突一発では足りないらしい。


「"キングサマをお守りしロ!!"」

「"……イナイ?!"」


 二匹しか生きていないことに今更気がついた護衛。


「まずはお前からだ」

「"ひ……ッ"」


――疾走

 特大の殺意を乗せた斬撃を、怯えるゴブリンにプレゼントフォーユー。


――急所突


 エターナルゴブリン二体を即殺し、落ちた魔石をゆっくり拾い上げる。


「"貴様……、何者ダ。ニンゲンの力デハ、ナイナ"」

「へえ、魔物なのに会話に応じようって心意気だけはあるのか」

「"…………"」


 護衛のゴブリンが目の前で殺されたというのに、一切の動揺が見えない。

 むしろ、こちらへ質問を投げかけるだけの余裕が伺える。


 質問、というより疑問。


――と。


 人間に対して悪事を働こうとしているかもしれない。

 しかし、このゴブリンたちは何もしていないのだ。


 …………何も?

 それは嘘だ。考えるだけでも殺意が湧く。

 弱者を嘲笑うその態度が。


「お前らはじゃないか」


 そう言って、俺は地面を駆けた。

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