episode11 : 裏ダンジョン
「"グハッ"」
エターナルゴブリンの苦しそうな表情を最後に、魔物の声が聞こえることはなくなった。
あれだけいたはずのゴブリンも一切見当たらない。
操られていたメンバーも、その場に倒れたものの意識を失っているだけで外傷はなかった。
「……はぁ。これでクリア……なんだよな?」
一安心したからか、緊張と焦りで忘れていた筋肉痛が再び身体を襲ってきた。
が、この程度の痛みならもう慣れた。
軽く肩を回して深呼吸。
「うっ……うぁ」
「赤崎さん!大丈夫ですか」
「……っ、つ、九十九……か。何が起こった?俺は、うっ頭が痛い」
よろよろと立ち上がる赤崎さんを慌てて支える。
「無理に立ち上がらないでください。ボスは倒しましたから、ここでも休めるはずです」
肩を貸しつつ、無理に立ち上がろうとする彼を何とか説得する。
ちょうど近くに座れそうな丸太が残っていた。
精神魔法は肉体に直接害はないが、精神攻撃は時に物理攻撃よりも疲労する。
それは著しい体力の低下にも繋がるため、いつ戦闘が起こるか分からない覚醒者には最悪の状況だ。
「……お前が倒したのか」
「逃げ出した……、と言ったら信じてくれますか?」
「……ふっ、そうだな。他の奴らは信じてくれるだろう」
やれやれと、彼の口からため息と笑みが同時に零れ出た。
「一度ならず二度までも命を救って貰ったわけだ。感謝してもしきれないな、これは。俺が一番早く目を覚ませて良かった」
「ありがとうございます」
秘密は守ると、そう受け取る。
昨日は真剣な表情で忠告までしてくれた。
感謝すべきは、むしろこちらの方である。
「……まだ他は目を覚まさないか」
「みたいですね」
俺は赤崎さんの隣に腰を下ろし、ただ静かに時が流れるのを感じていた。
もうじきこのダンジョンは崩れ去る。
ボスがいなくなると、ダンジョンは消えるのだ。
――ステータスは帰ってから見よう。
「九十九、その力について、……聞いていいか」
そんな静寂を、赤崎さんの気遣うような声が破る。
俺は思考を中断して彼に意識を向けた。
「話せないのなら構わない」
「いえ、赤崎さんには話してくべきでしょう。戦闘を一度見られていますしね」
まだ、確証のない力。
むやみに話すことは出来ない。
けれど、約束を守ってくれている以上、彼に知る権利がある。
「まぁ、正直なところ、僕も詳しくは分かっていませんけど」
俺は他の人らに意識がないことを確認して、やや小声で昨日の朝の出来事、それから今までの事を伝えられる範囲で赤崎さんに話した。
秘密にしたのは、セーブと"無限迷宮"のこと。
それ以外の、表示について、レベルやステータスに関しては隠していない。
「ゲームみたいな画面に、レベル……か。正直、お前の力を見ていなければ信じなかった話だ」
「ですよね」
俺が逆の立場なら信じないだろうし。
「だがまぁ、状況は理解した。結果として俺はその力に助けられた。結局不思議な力だったとしても、使うか使われるかはお前次第ってことだ」
何となく腑に落ちたようで、赤崎さんは笑って頷いた。
「その点、お前なら大丈夫だろう。力に呑まれることは無さそうだ」
「……嬉しいです」
「なんだ?お前が思っているよりも九十九、お前のことを信用してるんだ。だってそうだろ。お前は
……赤崎さんはたまに意味深なことを口にする。
過去に何かあったような口ぶりは、弱い者、強い者を明確に区別していることに関係しているのかもしれない。
「はは、少し恥ずかしいことを言ったな」
自分の発言に照れた彼は、誤魔化しついでに立ち上がって周囲を見渡した。
「にしても、こいつら全然起きないな。……いや待てよ?そもそもダンジョンはいつ崩壊するんだ?」
「そういえば、何も起きませんね。もうボスを倒してからだいぶ経ちますし」
会話に夢中で気にしていなかったが、本来はボスを倒したら速やかな撤退が求められるはずだ。
数分としないうちにダンジョンの崩壊が始まるから。
「おかしいですね――」
『ボスの撃破を認証しました。"裏ダンジョン"の生成を開始します』
俺が疑問を持ったのとそれが表示されるのとがほぼ同時だった。
「う、裏ダンジョン?」
「どうした九十九!何かあったのか?」
慌てて駆け寄る赤崎さんを他所に、ダンジョンが動き出す。
地面が揺れ、天井から石が落ちる。
建物は揺れによって所々崩壊していく。
「なんだ?!何が起きて……」
「赤崎さん、動かない方がいいかと」
――ゲームでよくあるじゃないか。
ダンジョンのギミックを解くと、さらに奥へ進めるようになったり、ボスを倒すと新しいエリアが解放されたり。
その先には、より強いボスや装備が眠っていたりする。
「おいおい……、どういうことだよ」
俺と赤崎さんは、突如出現した
いや、俺が驚いたのは目の前の表示に対してか。
『裏ダンジョンの生成が完了しました。
"ゴブリンの遺跡"Lv50』
自分よりレベルの高いダンジョンに、心震わせていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「こ、これは……」
「新しい道、ですかね。俺の表示には裏ダンジョンだと書かれてます」
「うら……、ダンジョン。つまりここよりレベルも高いってことだよな」
「ですね。少なくとも今の俺のレベルよりは高いです」
「2級か、それ以上の難易度に匹敵するってことか。俺たちの手には……違うか。
言い直した彼の視線は俺に向けられる。
「挑戦したいんだろ?そんな顔してる」
「でも……」
「無理はして欲しくない。けどま、俺に止める権利はねぇ。何より、この裏ダンジョンはお前の手柄だ。どうせここを出たら上のやつらに横取りされるんだったら、試しに入ったって文句は言わないさ」
それはつまり、赤崎さんから見ても、俺が挑戦することに"無謀"は感じないということ。
「その変わり、無理だと思ったら直ぐに戻ってこい。これだけ俺と約束しろ」
「分かりました。絶対帰ってきます」
「聞いたからな。……行ってこい」
「はい!」
俺は赤崎さんが出した拳に拳を合わせ、新たに出現した裏ダンジョンへの穴の先へ走り出した。
洞窟の中は薄暗く、頼りになるのは松明の光のみ。
元のダンジョンの中には光源に困らないほど松明が設置してあったが、ここにはその一つもない。
誰もこの道を使っていないということだ。
「慎重に行こう」
――広域鑑定
鑑定を使って敵の奇襲を警戒しつつ、俺は着実に前へと進んだ。
同じ景色が数分と続き、いつまでこの道が続くのかと疑問を持ち始めた頃、俺の広域鑑定が一つの反応を示した。
『エターナルゴブリンLv49』
またボス?
そう思ったのもつかの間。
『エターナルゴブリンLv48、エターナルゴブリン47…………etc』
「なっ?!」
一匹でも強い魔物が複数。それも、集落に辿り着く前でこれだ。
さらに前進すると、驚愕な事実が表示された。
『エターナルゴブリンLv50、レッドオークLv56、レッドオークLv53、ゴブリンキングLv60』
なんでここにオークが?!
しかし、その事実で逆に腑に落ちた部分もあった。
なぜあそこにオークやエターナルゴブリンがいたのか。それはこの裏ダンジョンが影響していたのだ。
……もし、もしの話だ。
裏ダンジョンの集落から溢れた魔物が、表のダンジョンに溢れてきたのだとしたら。
それは、溢れるほど
「さすがに厳しいか……」
無理だと思ったらすぐ帰ると約束――
「無理じゃない。なに勝手に決めてんだよ」
まだ挑戦すらしていない。
挑む前から諦めるなんて、弱者のすることだろう。強くなりに来たんだ俺は。引き返してたまるか。
「ふぅーー。一体ずつ確実に仕留める」
余計な緊張を息と一緒に吐き出して、俺は魔物の表示された方向へと歩き出した。
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