episode02 : 一度目の回帰
『セーブポイントがあります。
セーブしますか? はい/いいえ』
せ、セーブ……?
セーブって、あれだよな?ゲームでよくある、その地点での全ての情報を保存しておくための……もの。セーブポイントってのは、死んだ時にやり直しもできる場所的な?
いや待て待て。ここはゲームじゃない。現実だ。死んでる時点で手遅れだし、こういうのには大抵ペナルティがある。ゲームだと……、所持金の半減とか。
とにかく、よく分からないものには迂闊に触らない方がいい。ここはいいえを押して無かったことに……
「おい、何してるんだ5級!!置いて行くぞ!」
「は、はいっ……あ」
前方で呼ばれ、咄嗟に手を挙げた。
そして、その手は見事ボードの『はい』に触れる。
(やべ、間違えた。けど……、なにも、起こらない……か。ボードも閉じたし、見なかったことにしよう)
触らぬ神に祟りなし。知らぬが仏。余計な事件に巻き込まれのだけは避けないと。
「キエェェェ!!」
「〇×〇△〜〜!!」
洞窟を進むと、数匹のゴブリンと遭遇した。お互いに会話をしているようだが、人間に魔物の言葉は通じない。
日本人が外国人に早口の英語で捲し立てられている感覚に近い。何を言っているかさっぱりなのだ。
もし言葉が通じるのなら、今の世界はもう少し違った環境だったのかもしれない。
「オラァっ」
先陣を切った赤崎さんが、握った長剣でゴブリンの首を切断する。いきなり襲われるとは思ってもいなかったのだろう。
片側のゴブリンは悲鳴をあげる前に魔石となった。
「&〇×〜っ?!」
目の前で仲間が殺される姿を見て、もう一匹のゴブリンは叫びながら奥へと逃げ帰る。
「……あちらの方向に巣があるのでは?」
「ああ、どうせなら仲間の元へ案内してもらおう」
さすが、6級のダンジョンで3級の覚醒者は強い。圧倒的に。
――ピロン。
『ゴブリンLv6を倒しました。経験値10を手に入れました。九十九涼のレベル : 1→3。残りのポイントは6です』
またも俺の目の前に現れた青白い表示。避けては通れない何かなのか。
これが何を意味しているのかは分からないけど、朝のポイントはもう振ってしまったわけだし、ここで躊躇する意味もない。
筋力(STR)に+4、素早さ(AGI)と防御(VIT)に+1ずつ振り分けた。
振り分けたところで目立った外傷はないし、特別何かが変わった様子もない。もしや、本当に俺が生み出した幻覚……?
「ボケっとするな5級!もう先に進んでるぞ」
「えっ?あ、すまん」
同じ5級なのにこの格差。俺が
そのままゴブリンが逃げて行くのを、距離を開けて追いかけていった。何分か歩いていたら、やがてゴブリンの集落のような空間へとたどり着いた。
歴史の教科書で見かける昔の人類に似た、木々や藁を上手く使って生活出来る住居が連なる、やたら人間らしい場所。そこではたくさんのゴブリンが日常生活を送っているのを視認できた。
「ほぅ、ゴブリンの集落か」
「赤崎さん、どうしますか」
「隊を分けて奇襲をする。ゴブリン共を一網打尽だ!」
正面から戦うよりも、効率、リスク共にいい選択だと思う。けれど、この時の俺たちはまだ、――この集落に隠された
場所を移動し、暗く狭い、不安になる通路を計8名のグループで進む。元々11人でのレイドだったが、3級は一人、赤崎さんのみであったため、こちらに人数を集めた形だ。
俺は一番後ろで自分より上の実力者の背中を追っていく。しかし、俺はそんなことよりも気にしていることがあった。
――ピロン
『ゴブリンLv2を倒しました……』
――ピロン
『ゴブリンLv6を倒しました……』
――ピロン
『ゴブリンLv7を倒しました……』
どうやら赤崎さんの方では小さい戦闘が行われているようで、俺の眼前に何度も討伐の報告が表示されていた。
これだけ離れているのに経験値が入る仕様?
経験値入手の条件は何なのだろう。
『九十九涼のレベルが3→9へ上昇。残りポイントは21です』
ただ指定の場所まで移動する間に、こんなにもレベルが上がってしまった。ゲームならぶっ壊れの領域だ。
この際だからと、STRとAGIに半分ずつ振り分けてみる。相変わらず目立った変化はなく、目の前のボードにも俺のステータスが表示されているだけ。
「おい5級!!ぼーっとすんな!もうすぐ指定の場所だ」
4級の年上に呼ばれ、慌ててボードを消し前を見た。
妙に広い空間で、集落を上から一望できる。先程いた場所も見えるため、ここが指定された場所で間違いないようだ。
「赤崎さんからの合図があったら俺達も行くぞ。ここが稼ぎ時だ。暴れまくってやる!!」
気合いは充分。下のゴブリン達もこちらの存在に気がつくことなく、のんびりと生活している。奇襲の条件としてはこれ以上ない好条件だった。
――
あまりに事が上手く行き過ぎた故、俺らがその異変に気づいたのはそれから数十分が経過して、既に手遅れとも言える状態になってからだった。
「……なぁ、リーダーの合図、……遅くないか?」
この狭い空間。こう何分も移動の時間に差が出るとは思えない。まして、あちらには3級がいるんだ。
「どうする、ゴブリンだけなら俺たちでも倒せるとは思うが」
しばらくの沈黙の後、
「とりあえず探しに行ってみよう!!それからでも遅くは…………?」
立ち上がった4級の男性が突然倒れ込む。
そして、続く言葉が発せられることは無くなった。
「き、……きゃぁぁぁぁぁ!!!」
後頭部には鋭い矢が刺さっている。
女性覚醒者の悲鳴が洞窟にこだまする。俺は慌てて振り向くと、そこにはゴブリンとは比較にならない巨体。全身が緑色で、紅く光る瞳からは背筋が凍る程の殺気。
「お、オークだとっ?!しかもこの数……」
ゴブリンが5級でも一体なら倒せるとすれば、オークは3級が複数人いてようやく倒せる魔物である。
それが確認できるだけでも8匹。
「まさか赤崎さんもっ」
そう叫んだ顔見知りが死んだ。
「よくもっ貴様らあぁぁぁ!!!」
立ち向かった青年が、一振りで死んだ。
赤い鮮血が宙を舞う。
また一人……、また一人と、目の前で人が死んでいく。まるで蚊を潰すような感覚で。
「うっ……、うおぇぇぇ」
血の匂いと死の気配を感じとった体が拒絶反応を起こして吐き出す。もう全員やられたのか……?
のっし……、のっし……と近づいてくる足音が一つ。俺の前で立ち止まると、その巨大な手で首を掴まれ体が宙に浮かぶ。
「ぐっ、かはっ……」
息が詰まる。苦しい。痛い。痛い。嫌だ……、死にたくない。なんで、こんなことに……。
「がっ」
――せめて。
――せめて、お前だけでもっ
もう死ぬと頭が理解した時。
全てがどうでも良くなった俺は、一矢報いてやろうと、なけなしの力を振り絞って手に持っていたナイフを振り抜いた。
ゴキッ
同時に、俺の首が砕ける音。ナイフがどこへ当たったのかも分からないまま、意識が闇へと消えていく。
最後に俺は……、勝てたのか?
そんな思いと一緒に、暗闇へと落ちていく最中
――俺は微かにその音声を耳にした。
『オークLv31を倒しました。経験値を470手に入れました。九十九涼のレベルが9→23へ上昇。残りのポイントは70です。
新たなスキルを獲得します。
――疾走
――自然回復
――不屈の精神
新たな称号の獲得。
――"強者への報い"
――"初めての回帰"』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます