事件の行方と出会い

 ルカの父、ルークは魔法の研究者だった。魔力量を増やすことはできるのか、属性はどうやって決まるのかなど、魔法全般に関する研究を行っている。


 産まれた子どもに魔導具をにぎらせ、魔力量の測定と属性・適性判断をするのだが、ルカの魔力量は桁違いだったという。魔導具が壊れ、魔力が暴走してしまったほど。

 ラルゴやガルドレインの助けでなんとかその場をおさめることができたが、ルークはその日からよりいっそう研究に力を入れるようになった。


 そんなとき、研究仲間たちがルカの膨大な魔力に関して興味をいだくようになる。それを偶然聞いたガルドレインは、ルークに注意するよう告げていた。ルークは所有者を守る魔石をラルゴに作ってもらい、ルカの首にかけておいたらしい。


 そして丁度ルカが一歳になる誕生日の前日、事件は起こった。


 研究員たちはルークの家を訪れ、ルカを被験者として魔法実験を行いたいと交渉をした。もちろんルークは拒否する。自分の子に危害を加えるなんて考えられないことだ。

 反対を続ける彼に対し、しびれを切らした研究員たちは実力行使に出た。ルカを取り合うように争い、家はどんどん荒れていき、やがて倒壊し始めた。


 さすがに危険だと判断した研究員たちは、家の外へと出ようとした。ルークもだ。けれど、間に合わないことを瞬時にさとる。ルークはルカを強く抱きしめ、落ちてくる天井の下敷きになった――


 ガルドレインは一気に話すと、ルカに視線を向ける。自分の両親が亡くなっていることは知っていたが、その真相までは知らなかったようだ。ボロボロと涙をこぼし、震え、自分の肩を抱きしめた。

 ミンスはそんなルカを心配そうに見たあと、自分のローブを脱ぎ、彼女にかけた。ルカはそれを握りしめると、ブーっと音をたてて鼻をかみ始める。


「おい、鼻水つけんなよ……」とミンスが小声でこぼす。

「ふー、すっきりした。ありがとミンス」

 そう言って泣きながら笑うルカ。その顔につられてミンスの表情も少し和らいだ。ルカはそでで涙をぬぐったあと、ガルドレインに顔を向ける。

「それで……父は亡くなったんですね」

 ガルドレインは当時を思い出しているのか、辛そうに顔をゆがませ、うなずいた。


「私も丁度その場にいてね。魔石を持っていたから助かったんだ。でもそこで、君を抱きしめたまま動かないルークを見つけた。ルークはルカのことしか考えていなかったから、自分の分の魔石は用意していなかったんだよ……」

 ミンスとルカは首にかけられた魔石をさわった。ミンスの魔石はまだ一度も発動していないため輝きを放っているが、ルカのものは色あせてしまっている。


 すると、コンコンと扉を叩く音がした。ガルドレインがすっくと立ちあがり、応対する。使用人のマキナだ。

「坊ちゃん、お話はできましたか?」と彼女は言った。

「ええ、だいたいは」

「そうですか」

 マキナは微笑ほほえむと、机に紅茶とお菓子を置く。

「私はマキナと申します。長年フェルベス家で使用人をしております」

 彼女がミンスたちに自己紹介をし、部屋を出ていくと、ガルドレインは扉を見つめたまま説明を加えた。

「私が幼いころからお世話になっていて、ラルゴやルークとのこともよく知っているんです」


 一息つくと、ガルドレインは話を戻した。

「それで……事件発生後に事情を話すと、ラルゴがルカを引き取ると言い出したんだ。俺は反対したんだが、翌日に家を出てどこかへ行ってしまってね。彼は本当にまっすぐで、何事にも物怖ものおじしないんだ。あの行動力には驚かされてばかりだ」

「そうだったんだ……」とルカ。


「で、肝心かんじんのラルゴは今何を? ルカと一緒に住んでいるのかい?」

「バイスで一緒に暮らしています。ラルゴが武器屋でわたしが探索屋です。今度ぜひ会ってください!」

「……わかった。必ず会いに行くよ」


 ガルドレインは紅茶を一口飲んだあと、ミンスに水を向ける。

「ミンス様は、昔ルークに会ったことがあるんですよね」

「知っているのか?」

「はい。ルークが、王子に会ったって楽しそうに話していましたから。でもなんでわざわざルークを探していたんですか?」


 今の俺を見てほしくて。あのときのお礼が言いたくて。でももう会うことは叶わない。力強く言葉にすると、ミンスの心の中にもき上がるものがあった。一粒の涙が頬を伝う。ルカがその様子をじーっと見つめてきたので、ミンスは恥ずかしそうに視線を外した。


 ――その後、ガルドレインからルークの墓地の場所を聞き、ミンスとルカはフェルベス家をあとにした。一気に疲れが出たのか、ルカはぼーっとしている。


「ルカ、階段気をつけろよ」

 ミンスがそう言って振り返るが、時すでに遅し。あ、これは転ぶな、とミンスが思った瞬間「風流ふりゅう!」と声が聞こえた。ルカの体が少し浮くと、ミンスの横をものすごい勢いで通り過ぎる人影があった。


「はー、危ないところだった。大丈夫ですか?」

 安堵あんどの声をもらし、ルカの体を支えた人物に、ミンスは目をまたたく。

「うわ、ライムート、なんでここにいるんだよ」

「はぁ~? アレクが知らせてくれたから急いで探しにきたんですよ! 話が終わるまでコルと外で待ち伏せしてました」

 すると、コルネリアが慌てて走ってくるのが目に入る。ミンスは彼女に手を振り返した。


「それで、君は大丈夫なの?」

 ライムートは再びルカに視線を戻したが、当の本人は顔を真っ赤にして固まっていた。「か……」とかすかに声が聞こえ、ミンスがき返す。

「か?」


「格好いい……」

 ルカはライムートを見つめたままつぶやいた。

「ぅええ?」

 あまりにびっくりしたのか、ライムートからも間抜けな声がこぼれ、咄嗟とっさに左腕で顔を隠した。


 見つめ合うルカとライムートを、残りの二人は肩をすくめて見守っていた。

「なんだこの状況」

 ミンスはコルネリアと顔を見合わし、笑った。

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