第二十三話 駒鳥の籠2ー悪魔のコレクション
黄金のところへ情報収集にやってくれば、オークションのポスターが貼ってある。
ポスターには弓そっくりのイラストが描かれていて、一同は言葉を失ってポスターと黄金を見比べた。
「どうせあなた方のことだから、張っておいたのよ、取り返したいのでしょう?」
「なんだあれ、どうなってるんだ!」
疾風が叫べば、黄金は耳を痛めたのか耳元を押さえて首を振る。
「悪魔のコレクションを、オークションするんですって。ねえ、存。あれは貴方の娘なのでしょう? だとしたら今回は難しいとおもいますわ」
「どうしてだ、どうしても取り返したいんだ」
「悪魔との取引は元来なかったことには出来ません。貴方が変化したのなら尚更、それは契約からの影響。ここはオークションに参加するのが筋です」
「幾らくらい……必要だろう」
「今回は悪いけれど。あたくしもあの子欲しいわ。青い糸の生命力、研究すれば永久に若さが追究できる。肌質も変えられる。あたくしも競り相手になりますわ」
「……山ほど必要ってことか」
「きっとあたくしならまだいいほう。もっと酷い買い手もいますわ」
オークションの招待状は、そうっと金の糸が垂れてきて疾風に手渡された。
存には契約の干渉上手渡せないのか、疾風に預けると疾風は日付をじっとみつめる。
「でも、以前預かっていて盗まれたお金があるでしょう。あれを、お渡しします。これであたくしたちは義理も恩もない関係よ。上も下もないわ」
「うおっ、増えてる!?」
スマホアプリで確認した疾風がぎょっとすれば、黄金は「盗まれた分の名誉復活よ、取り戻したわ!」と憤りながら、存へ顔を向ける。
「もう、お前も。何にお金を使いたいか、きめてるのでしょう」
「旅行とかフルーツセットとか、時計コレクションのギフトセットとかじゃない……弓はずっと。ずっと何も望まず側にいて、尽くしてくれていた」
「ふふ、お前と金で殴り合うの楽しみよ」
一同は現実に戻されれば、精一杯悪魔との取引を仕入れ、期限まで金を稼ぎ続けた。
そうして手元には十五億を控えて、当日を迎えた。
*
会場のドレスコードはスーツで、一同はスーツに着替えるとオークション会場に向かう。刺繍で縫った魔方陣を広げて、とん、と疾風の錫杖を置いて先を回せば辺りは一瞬で会場に変化し、数々の悪魔がいるなか指定席に既に存在していた。
「見ろよあいつら。阿吽だ」
「元首なし騎士に天狗。悪魔と妖怪か」
「あの人間のお守りも大変そうな」
周りの人外がひそひそと囁いている。
寄ってきた魚耳のバニーガールへ招待状を手渡せば認められた様子で、飲み物を問われる。
遠くを見れば粉雪もいて、粉雪の隣は誰かはまだ来ていない様子だった。
「一緒にでたほうが金があわさっていいんじゃないのか」
「粉雪には粉雪の考えがある。もしオレ達が駄目だったときの手段だ」
「襲うつもりか」
「違うよまさか。伝手があるんだ」
粉雪は存にだけ何をするか伝えていたので、空席を存はじっと見つめればそのまま黙する。
「さて、お越しの皆様!」
かんかーんとギャベルを打ち鳴らして、開始の合図が始まる。
「私のコレクションをこよなく愛していってください!」
ギャベルを打ち鳴らす悪魔は場で説明する。
「その場にある薔薇。青い薔薇は1億、赤い薔薇は百万、黄色い薔薇は十万です。競り合いのときに、札を上げながら薔薇を花瓶に入れていってください。花瓶からは本数がホログラムされます」
悪魔の言葉に品のある演出だと人外たちは悦んだ。近くにあるバニーガールの籠から花をとっていくシステムらしい。各テーブルには一人ずつバニーガールが待機し、テーブルは五十席ほどあった。
「では始めます! まずはクレオパトラの魂!」
どよめく人外に存はそっと、遅れて粉雪の席へやってきた人物へ手を振る。その者はあかんべえと仕草をした。
*
「では本日の目玉商品です! 異能の少女!」
鎖で繋がれ、真っ青のドレスに着飾られた弓が現れる。
弓はおどおどとした視線で会場内を見渡せば、見知った顔に気付いた。存は表情で激怒を伝えておくと、弓はびくびくとした。
「この少女は、私と契約者のとある干渉により、青い糸を血液から生み出します。この少女を傷つければ青い糸が出てきます。その糸はどんな傷でも防ぎます!」
どよめく場内に存は薔薇を握りしめる。
「勿論何をしても宜しい、慰み者だろうと、煮て食おうとお好きに。人間です。ではまず、一億から!」
「二億!」
「三億!」
「五億」
札を上げ興奮した者達が薔薇を花瓶に入れていく。存も参加し、五本の薔薇を花瓶に差し込めば、凜とした声が響く。
「二十億」
黄金だ、遠くで黄金が札を上げ青い薔薇を花瓶毎抱えて差し込んでいる。
挑発するように黄金は存へと笑いかけた。存はまずいと感じた、予算を完全に超えている。
これ以上は金がない。奥の手を使うしか無かった。合図として、粉雪にウィンクする。
粉雪は一緒に居た者へどつくと、その者は肩を竦めて真っ青な薔薇を次々と差し込んでいく。
「札あげといてくださいよ。百億でどうかな」
その者――独水の声にアルテミスが反応した。アルテミスは独水に気付かなかった様子であった。
「なっ……」
黄金はスマホアプリで資金を確認すれば予算オーバーなのか、諦めていく。
独水は機嫌良く花瓶の花を調整している。
「花瓶にはこれ以上刺さらなさそうだね? 参ったな、一兆は用意してあるのに」
「どうやってそんなに!?」
「僕は商売の天才でね、何をしても金がわくんだよ。諭吉がヤンデレで困るくらいに」
それ以上の買い手はつかず、ギャベルがかんかんと鳴り響けば、独水は得意げにスーツの襟を正した。
独水は壇上に下りれば弓を受け取り、弓を抱き上げるとそのまま存のテーブルへ座る。
「もう二度と手放さないように」
「本当に手伝ってくれるとは思わなかったな」
「それもあるけど。ついでだから人助けしておこうか、追加のサービスいる?」
「なんだ」
「信じてやってみるかい?」
「……あんたのことだから、突拍子もないんだろうけど。いいよ、やってみてくれ」
存は弓を解放してくれた相手に反するつもりもなく。独水は存から悪魔の口座を聞き出した。
オークションが進む中、独水はスマホアプリをひらひらと見せた。
「はい。三人分振り込んだから。これでお前たちは自由だ」
「なんでそんな……やたらゴミみたいに金を扱うじゃないか」
「ずっとゴミだよ、要らない。要る人が持てば良い、
独水の言葉に、存は眼を瞬かせた。
オークションのギャベルが響く頃合いには、オークションは終わりを迎えていた。
*
「弓、怒ってます、おれは」
「と、とうさまあ」
「あたしも怒ってるよ」
「か、かあさま!」
弓はぶるぶると震えながら、アルテミスの後ろに隠れる。
アルテミスは弓の両親二人をまあまあとなだめながら、弓を背中へ庇った。
「ま、まあ何とかなりそうだからいいじゃないですか!」
「……ほんとうに、このまま終わるならいいんだけどねえ」
「なんだよ、何か言いたげですね?」
「なんでもなあい、ばいばい」
「独水!」
存は独水の背中に声をかける。独水は振り返って面倒そうに存を見やれば、存はじっとみつめてから頭を下げ深く深くお辞儀をした。
「必ず返す。何をしても、真面目に働いて返す。不器用だからって、人間の仕事から逃げ出さないよ」
「……粗大ゴミ受け取ってくれたのに、粗大ゴミ返したいなんて変な奴。払いきれないでしょう?」
「変なのはあんただ。普通はゴミじゃないんだ」
「それでも。僕にはゴミだったよ、あんなもので欲しい物なんか手に入らなかった」
「……独水」
「君たちが現れた時に見たい物が見られたから。そのお礼だ。何度もお礼したくなるくらいに、お気に入りだったんだ僕の人生の中で一番。もう二度と見られない観劇だよ」
どういう感情なんだろうね、と笑いながら独水はそのまま去って行った。
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