第7話 魔獣再来
「あ、あの……」
走り出したリオンたちを追いかけてテントを出たルルーナが僕に声を掛ける。さすがは
「慌てないでください。状況が分かるまではここにいた方がいいかもしれません」
僕は不安そうなルルーナさんにそう声を掛け、リオンたちの後を追う。だが14歳で体力的にもひ弱な方の僕ではとても彼らに追いつけない。
「試してみるか」
僕は
「もしかして……」
走りながら冒険者カードを懐から出す。ギルドで登録して
「
いつの間に……もしかしてさっき
「考えるのは後だ」
これならある程度強力な魔法も使える。リネアさんの助けにもなれるだろう。それに今はとにかくリオンたちに追いつかなくては。
ドオオン!
また爆発音のようなものが轟き、森の木々を震わせる。草むらを掻き分け、リオンたちの後を追ってしばらくすると視界が開けた。
「うわっ!」
森を抜けた先は村の入り口だった。そこで飛び込んできた景色に僕は思わず声を上げる。
「
僕の眼前にいたのは体調3mほどもある白い狼だった。その額には一本の長い角が生えている。
「エリオット君、離れていたまえ!」
剣を構えたリオンが僕の方を見やって叫ぶ。彼の周りを見ると荷車が二台倒れていて僕たちが運んでいた木箱が散乱している。リオンの分隊の騎士たちが数名、剣を構えて
「こいつもあの
魔獣にとってよほど美味い餌とみえる。だがこの状況はまずい。リオンはモンスターの目撃例があってここに来たと言っていたが、このクラスの魔獣が出るとは想定していなかっただろう。見る限り彼らの装備はそれほど重厚なものではない。いくら精鋭ぞろいの
「魔法が使えるものは攻撃を。私が隙を見て斬りかかる」
リオンが叫び、剣を構えたまま
「体の周りに放電している」
雷を操るだけでなく自分の周りに静電気のようなものを放電してバリアを形成しているのだ。僕の「
「遠距離攻撃は効きづらいようです!」
僕が叫ぶと、リオンは軽くうなずき、
「避けて!」
僕が叫ぶのと同時にリオンが大きく横へ跳ぶ。一瞬遅れて一筋の雷がたった今まで彼がいた場所に落ちた。轟音と眩い光が迸る。
「はああっ!」
さらにリオンの動きを追おうと
ガキッ!
シュアリーの振り下ろした剣が
「ちっ!」
シュアリーの方を向いた
「ええい!」
僕は咄嗟に筋力増強の
ガカッ!
ガアアッ!
リオンの剣は弾かれることなく、
「
騎士たちが攻撃魔法を放ち、リオンを襲おうとする
「隊長!遅れて申し訳ござらん!」
その時村の方から一人の騎士が走りこんできた。銀色の鎧に身を包んだがっしりとした体格の初老の男だ。手には背丈と同じくらいの巨大な斧を持っている。
「ガディム殿!」
シュアリーが叫んで体勢を立て直す。魔法で足止めされた
「
ガディムと呼ばれた初老の男がにやりと笑い、魔獣に突っ込んでいく。無茶だ、と思った瞬間、角が光り、雷鳴が轟く。
「くっ!」
もう咄嗟に投げる物がない。と思ったその時、ガディムが手に握った何かを放り上げた。魔獣の落雷はさきほど僕が投げた短剣の時と同じようにそれに当たって弾ける。それが一枚の金貨であると分かったのは、全てが終わった後だった。
「お前さんの雷は脅威じゃが、何かにぶつかれば効果は消える」
ガディムがそう言ったのと同時にリオンが再び後ろから斬りつける。再び皮膚が裂かれ、鮮血が飛び散った。
グアアアッ!!
怒りに燃えリオンの方を振り向く
「
斧の刃が赤い炎に包まれ、炎自体がさらに巨大な刃の形になる。ガディムは体勢を低くして地面を踏みしめると、魔獣の死角から斧を振り上げて跳ぶ。
ガキキイィッ!
巨大な炎の斧が
「隊長!」
シュアリーが慌ててリオンに駆け寄る。幸い二人とも大した怪我などはしていないようだ。
「ちっ、これで落雷は防げるじゃろうが、ああバチバチされては迂闊に近よれんの」
起き上がったガディムが立派な白い口ひげをさすりながら呟く。
「やれやれ、騒がしいな。またこんな化けもんが来たのかよ。厄日だな、今日は」
後ろからいきなり声がして僕は驚いて振り向いた。いつの間に来たのかリネアさんが頭をぼりぼりと掻きながらうんざりしたような顔で
「リネアさん、無事でしたか。あの子は?」
「幕舎でぐーぐー寝てるよ。この騒ぎでも目を覚まさねえとは結構大物だぜ、あのガキ」
とりあえず村に被害はないようだ。僕はほっとして放電を続けながら咆哮を上げ続ける魔獣に視線を戻す。
「さて、どうすっかな。エリート騎士の皆さんにお任せしたいところだが、飯と寝場所を提供されるとあっちゃ全く見て見ぬふりってわけにもいかねえか」
「リネアさん、あなたなら多少の電撃には耐性がありますよね?」
「ああ?そりゃ普通の奴よりは強いけどよ。さすがにあんなのを喰らったら動けねえぜ」
「放電は弱めます。剣を出してください。強化魔法を付与します」
「そりゃいいが、お前のレベルじゃそんな大した効果は……」
「それが上がったんですよ、3つも。これなら前から使いたかった魔法が使えます」
「マジか?何で急に?まあいいや、ほれ」
リネアさんが愛用のロングソードを抜いて僕の方に向ける。僕は
「聖なる力よ、我らの正義を守る矛に加護を与えたまえ」
ロングソードがぼうっとした光に包まれ、それが刀身を覆うような形になる。
「へえ、持ってるだけで力が増したのが分かるぜ」
「使用するレベルは高くありませんが魔力消費量が多いんです。その分効果は高いはずですよ」
「お前向きってわけか」
「すいません!ガディムさん、でしたっけ?」
剣を構え
「ん?何だ、坊主」
「その斧、少しばかりお借りできませんか?」
「何じゃと?これはお前さんみたいな子供に扱えるもんじゃないぞ」
「お願いします」
「何か考えがあるようじゃな。よかろう、ほれ」
ガディムが僕の方に斧を差し出す。僕は礼を言ってそれを受け取った。ずしりとした重みを感じよろけそうになる。確かに持ち上げることも出来なさそうだ。だが……
「コントロール」
僕がそう唱えると、斧は手を離れ、すうっと宙に浮く。それを見たリオンが驚いたような顔でこちらを見た。
「凄いな。先ほどから何回か魔法を使って、さらにリネアさんの剣に強化を施したっていうのに操作魔法を使えるのか」
僕は
持って生まれた総魔力量の多さだ。
「へ、凄えだろ。こいつは直接戦闘じゃてんで話にならねえが、こと魔力量の多さに関しちゃ、そんじょそこらの奴とは格が違うんだ」
なぜかリネアさんが得意げに胸を張る。相変わらず素直に褒められているような気はしないが。
「確かに大したもんじゃ。操作魔法は膨大な魔力を必要とする上にコントロールが難しい。この歳でこれだけのことをやってのけるとはの」
ガディムも感心したような声を出す。だが褒められて喜んでいる場合じゃない。彼の言う通りこの操作魔法はコントロールがデリケートで、高い集中力を必要とする。
「行け!」
僕の声と共に浮き上がった斧は水平になり、
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