【掌編】未来にのこそう きれいな天の川【1,000字以内】

石矢天

未来にのこそう きれいな天の川


「やあ、仕事は順調かい?」


 サビクが川の掃除をしていると、眩しい笑顔のアンタレスが立っていた。


「まあまあだね」


 手元のザルには黒くて丸い石や、尖った石の欠片がゴロゴロと転がっている。

 これはすこし前まで天の川だった星のなれの果て。


 皆さんご存知のとおり、星には寿命がある。

 寿命を迎えた星は黒くなって輝きを失ったり、ドカンと爆発してしまったり、ともかく天の川のゴミになってしまうのだ。


 サビクたちは天の川からそんな星々を回収し、川をキレイにしている。


「ずいぶんと拾ってくれたようだね。ありがとう」

「月曜日だからね。昨日が休みだった分、たくさん落ちていたよ」


 だからきっと、火曜日あしたの天の川は地上からもキレイに見えることだろう。


 アンタレスは少し悲しそうに微笑むと、小さな袋を手渡した。

 中は見なくてもわかる。ここには星になったばかりの赤ちゃん星が入っている。


 サビクは袋の中に手を入れると、赤ちゃん星を優しくすくい、天の川へと撒いた。


「「若き星々の、健やかなる成長を願う」」


 サビクとアンタレスが声を揃えた。


 この赤ちゃん星が成長して天の川の一部となる。

 遠い未来の火曜日は、彼らの輝きこそが天の川だ。


 彼らが輝きを放つようになるまでには長い年月が必要だ。

 だから未来の火曜日に、サビクとアンタレスが天の川を見られるかどうかは、わからない。サビクたちも星である以上、寿命という制約から逃れることは出来ないのだから。


 それは仕方のないこと。

 だから大事なことはひとつだけ。


 サビクたちがいなくなった未来でも、天の川が輝き続けてくれればそれでいい。



「ねぇ、サビク。もし私が先に死んだときは、君が私を拾ってくれないか?」

「構わないよ、アンタレス。じゃあ、僕が先に死んだときは、君が僕を拾ってくれ」


 サビクとアンタレスは顔を見合わせて頷いた。


 気づいたときにはいつも近くにいた幼馴染。

 彼らは天の川のそばでこれからも共に輝き続ける。


 死が二星ふたりを別つまで。




      【了】


※筆者注

 アンタレスはさそり座の一等星。サビクは蛇遣い座の二等星。

 有名なデネブ、アルタイル、ベガからは少し離れていますが、どちらも天の川の近くに位置する恒星で、とても近い距離で輝いて夜空を彩っています。

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【掌編】未来にのこそう きれいな天の川【1,000字以内】 石矢天 @Ten_Ishiya

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