エナジードリンク

 内緒にしたはずだ。はずだったのにどこから話が漏れたのだろう。まあ一人しかいないんだけど。

 それを姉として対応するのか、恋人として対応するのか。どちらにしても怒るのだけど。両親の耳に入らなければそれでいいのだが。でもいつか打ち明けなくてはならない日が来るのかもしれない。

「可愛いんだけど、可愛くないっていうか……」

 隣に座っている神田雛は珍しく私の相談を受けていた。別にこいつに話す必要はないと思ったけど、スマホの連絡先は真っ先に雛を選んでいた。

「ふぅん」

「いやいやいや顔とかめっちゃ私の好みだし、なんだかんだ言って好きだからその……」

 家族として、というのは伏せておいた。

「相談って名目で惚気けかい?」

 左手にエナジードリンクを持って雛に変な熱弁をしてツッコミを入れられる。

「そんなつもりは無かったけど……」

「妹ちゃんの事が大好きなのは分かった。けど事実相談なんて一個もされていない。私は何を答えればいいんだ?」

「あー、うー」

 不眠症という訳では無いがここ最近の眠れない。

「エナジードリンクなんて滅多に飲まないのにねぇ」

「あんたが飲みまくってるから、そう感じるだけ」

 そう言いつつもグイッと一口も飲んだ。

「ジャンキーになりつつあるねぇ」

「別に美味しくはないんだけど、なんか止められない」

「最近は美味しいのも増えてきたからいろいろ飲んでみるといいさ」

 優雅にコーヒーを飲んでいる。

 テーブルに突っ伏している私とは対照的だ。

「で、結局君は妹ちゃんをどうしたいんだい?」

「アーニャ……」

 ろくに睡眠を取っていないから頭が回らない、というか寝てない。今朝も眠い目を擦りながら学校へ行くアーニャを見送った。

「好き、好きだから……どうしたいんだろう」

「まあどうこうしようって考える方が難しいかもね」

 そういえばなんで私はこんな物を飲んでいるんだろう。

「今まで恋愛の経験は?」

「無い。知ってるでしょ?」

「知ってる。意地悪したかっただけさ」

 本当、何考えてるか分からない。

 エナジードリンクみたいにケミカルな奴だ。

 ……普通にケミカルな味ってなんなんだ。

 舌に残る様な味のことを指すのだろうか。エナジードリンク味のお菓子だってこんなに舌には残らない。

「しかし、君の口から人を好きだなんて初めて聞いたな。いやそもそもあまり好意を口にするタイプじゃなかった気もするが」

「結構好き好き言ってたと思うけど……」

「今回は枕が無い。いつもはお母さんのって言ってた気がするね」

 母の事以外あまり考えていなかった時期だ。もちろん枕詞を付けなくても好きな物はあった、はずだ。覚えていないからその時に好きだった、という事なんだろう。

「うーん、そうだったかな」

「何かを好きになる事はいい事だと思うよ。でも」

「でも?」

 私の方を向いて首筋に手を伸ばす。

「私の仕事は忘れないでね」

 舐めるように首筋を触ってくる。

「…………忘れた」

「君に害をなす輩なら、容赦しない」

 そう言って立ち上がる。

「じゃあ帰るよ。それを飲んでるとはいえ、眠たいだろうし」

 後味悪く、その場を後にした。

 最後まで舌に残る親友はそれから連絡が着かなくなった。

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