友人 その三

「杏奈と付き合ってるって聞いたんですけど! ホントですか!?」

 アーニャの妹の友達、紫音しおんちゃんが少し興奮気味に私にそう聞いてきた。

「う、うん」

 びっくりした私はコーヒーの入ったマグカップを両手で、離せなかった。

 わざわざ家まで来てアーニャを迎えに来てくれたが、眠り姫はどうやら約束をすっかり忘れていたようだ。

「最近なんだかボク達がどうやって付き合ったとか、二人の時は何するのかとか聞いてくるものだったから。そうだったのか……」

 根掘り葉掘り聞かれたのだろうか。少し呆れていたように見える。

あやはそれが可愛いって言ってるんですけど、ボクとしては、なんかそれは面倒というか……いやいやいや可愛くないって言ってる訳じゃなくて……」

「別に言葉を選ばなくても良いよ、だいたい同意見だから」

「変わりましたよね、杏奈」

 黙って頷く。

「お姉さんのおかげだと思いますよ?」

「私の?」

 元気よく頷く。

 紫音ちゃんに出したマグカップはまだ一口も付けられていない。やはりコーヒーはお気に召さなかったのか。遠慮しているのか。

 他愛の無い話もそれ程出来ない。友達の姉と妹の友達の関係だからだろうか。

 秋も終わりかけとはいえ今日は気温が高かった。窓を開けたり、冷房をつけたりはしていないが、そのせいもあって少し室内は暑かった。パタパタと服で体温を調節している紫音ちゃんの首元に赤い痕が見えた。

 まだ私の傷も消えていない。

 視線に気づいたのか、さっと手で隠す。

「そんなに見られたら恥ずかしいです」

 触れていい話題なのかと思った。

「あ、ご、めん」

「それに、お姉さんだって」

 と指をさして、

「結構進んでるんですね」

「いやこれは」

 流石に血をあげているなんて言えない。

 さっと手で首筋を隠す。

 隠した手に違和感を覚える。傷が消えてない。穴は塞がっている。しかし、傷がまだ残っている。

「どうかしました?」

 いつもなら無いものがそこにあり、少し動揺したせい顔がこわばっていたようだ。

「ううんなんでもない……よ」

 少なくとも三日は経っている。その期間に塞がっていない事なんて無かった。

 ドタドタと廊下を走る音が聞こえる。

「お姉ちゃん! なんで起こしてくれなかったの!?」

 ボサボサ頭の眠り姫は寝坊を私のせいにした。

「何回も起こしたけど、大丈夫だって言ってたでしょ」

「起きるまでおこしてよー!」

 苦笑いの紫音ちゃんは、あははと少し呆れた笑いをしていた。

「遅いから迎えに来てるよ」

「え? 嘘……」

「どんだけ待っても来ないんだもん、杏奈も文も」

 三人で出かける予定のだったようだ。

「文に至っては今起きたって連絡来たから、後で迎えに行こうかなって思ってるから」

「ううう……ごめんね」

 シャワーを浴びて準備してくると言い、リビングを後にした。

「待ってるからゆっくりでいいよ」

 ああ、この子は優しいんだなって思った。変に身近にそんな人がいたなんてとも思う。

 アーニャの姿を見たら首筋の痛みが増した、そんな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る