頭を抱える日常
閑話休題
鋭い牙が私の首筋を傷つける。いつもよりも深く、深く。
終わった後はその傷を愛おしそうに舐める。流れた血は指で絡めとる。知っている彼女はそんな事しなかった。思考が、考えが、性癖が、何かが変わっている。
涙目でしてくるキスは血の味がした。
膝の上で座らせていたから、そのまま押し倒される。腰の上に座る形になった。
駄目だと首を横に振るがお構い無し。服の上から腹を触る。触るというかまさぐるというか。
触り心地のいい場所を見つけたのか、指先でなぞる。変に布の感触を感じた、たぶんへその辺りというか、へその穴の周りをなぞっている。
「お姉ちゃん……もういい……?」
そう言ってなぞるのを止め、ティーシャツの下から手を入れてくる。
「だ、駄目……」
気持ちが
腹は素肌をさらけ出し、なぞる手腹回りからへそ、外から内に。そうして、段々と上へ、そして――。
という夢を見た。
右を見たらアーニャはもう学校へ行っていた。スマホの通知がそう知らせていた。
上半身を起こし、右の首筋を触る。
「痛……」
いつもはヒリヒリと痛むのに、今回は皮が破けているのに熱湯を触るような、というか針で刺されたような痛みだ。しかし、触るのを止めればその痛みは無くなる。
もちろん、発作が起こり適切な処置をしたが、その後の記憶が無い。夢の通りなら、と考えたが止めた。
ティーシャツが汗を吸って少し重たい。
脱衣所でティーシャツを脱いで、なんとなく鏡を見た。腹回りが少しぷにっとしていた。体重こそ“あまり”変わっていないが、脂肪が増えたのだろうと思う。
はぁと少しため息をついてまた鏡を見ると、胸元とみぞおちの部分に赤く痕が残っていた。
「あの子……どんだけ強くしたのよ……」
とはいえ記憶に残っていない痕なので、知らぬ間に自分でつけてしまった可能性もある。しかし、今まで無かったものなので今回は妹のせいにしておく。下着を洗濯機の中に入れ、そのまま浴室に入る。
白を基調とした壁に、ピンクの湯船。なんとなく私には合わないなと思ってしまう。
今朝妹が入ったであろう湯船はぬるかった。追い炊きをしている間に体を洗ってしまおう。
「痛った……」
シャワーはお湯が出るまで水をかぶる。頭からの水の流れは右の首筋に染みる。気にせずにシャンプーしたり、ボディソープを使うが、染みて痛むので気にしない方が難しかった。
追い炊きも終わり、洗い終えたので湯船に浸かる。いつもは一番最初に入るので誰かの後というのは久しぶりだった。それかシャワーだけで済ませてしまう。
ふぅと溜息にも似た長い呼吸をする。今の仕事もひと段落ついたので久しぶりに何もすることがない。まだ冴えきっていない頭は何をするか考えがつかない。今はただ湯船に浸かっていたかった。
のぼせてしまっては元も子も無いので、満足したところで浴室を出る。
珪藻土マットに染み込む。こうやって身体にも吸収されるのかなって思った。
いつもならアーニャが私の着替えを置いてくれているのだが、学校に行っている。念入りに体を拭いて水滴が落ちない様にして、部屋へ向かい、着替えを取りに行く。急に扉が開いても私の身体を見たところで別に何も面白い物はない。恥ずかしいけど。
脱衣所から自分の部屋の道のりはそこそこ寒かったが、それ程離れていないので湯冷めする前に着替えることが出来た。
こうやって昼間に一人でくつろいでいるのはいつぶりだろう。
つかの間の安らぎを私は過ごしていた。
誰にも干渉されないひと時。
首筋の痛みだけが唯一、現実に戻す方法だった。
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