偽者
頭を抱える事が多くなった、悩みが増えた。
笑う事が多くなった、考える事が増えた。
家にいる事が多くなった、義妹とイチャつく時間が増えた。
完全に仕事は廃業となり今や無職。といっても別に仕事はあるからそれで生きていける。それだけで食べていけるようになるのはまだまだ先なので、前職で貯めていた貯金を少しづつ切り崩し、謙虚に生きていこうと思った。
バーテンも悪い仕事じゃなかった、素質が私には無かっただけだ。お酒も嫌いじゃないし。
今手に職をつけられそうなのは、ライター業。ブロガーともいうのかな。学生の頃からコツコツとやってきてそれなりに知名度はあると思うが、やはり一部のコアな人間しか見ていないという事になっている。
それで食べていけるのは本当に、ほんの一部だけという事だ。まだ一人で暮らすのにいっぱいいっぱいだ。
仕事という形で案件を貰う事もあるがやはりそんなに多くの仕事は来ない。一部に知名度はあっても、一般に知られていなければ利益に繋がらないのだろう。私に仕事を出すだけでマイナスだろうし。
先日晴れて妹、いやアーニャと交際する事になったが頭を抱える事が多くなった。はっきりいって場に流されてイエスを出してしまった。私たちしかいないのに流された。
仲の良い関係を崩したく無かったから。
悲しませたく無かったから、ただそれだけの理由だった。
もちろん楽しい事も増えた、何よりお互いに笑う事が増えた。私はアーニャの笑ってる顔が好きだったから。
でも妥協は一切していない。好きなると決めたから、恋人になると決めたから。
だけど、いつまでも自覚を持てない。
私から恋人らしい事なんてしていない。勝手に理由をつけて自分から行動していない。好きなんだけど、自覚が無い。私の好きは、家族の好きだから。
「んんんんんんんん……」
唸るように悩む。ブログの本文を考えながらアーニャとの今後を考えている。脳は一つしか無いのに、無駄に悩む。締切は五時間後だった。
「八割は出来てるのに進まない……」
締めの文章が思いつかない。いつもなら適当に文章を書いて納品とするが、今回は違う。仕事になるならなんでもするがモットーのブログだった為、言ってしまえば全く面白くない映画の評論だった。もちろん案件の仕事なので言葉を選ぶ必要がある。こういうのはもっと適任がいるのでは無いかと思ったが、暇そうなのが私しかいないという事なんだろう。
内容としては妹を好きになってしまった義姉の話という物だった。ストーリーに山も谷も無し、数々の登場人物が主人公の前に現れたかと思えばベッドシーンになったりと色々もう見ていられなかった。最後に二人はくっついてハッピーエンド。それだけである。
主人公の境遇は私と似ているなと、そう思った。彼女も結局は親戚、家族としての好きだった。でも最後は二人はキスをして物語は幕を閉じたのだから。
なら私はどうだろうか。
一体どの立場で接しているのか俯瞰して見る事が出来ていない。
恋人としての好きは偽りだから。
「根詰めるのもいいけど、休憩も大事だよお姉ちゃん」
ソファに座っていたアーニャが後ろから抱きしめてくる。
「彼女が休めって言ってるんだから、言う事聞いたらどう?」
「でも時間が……」
「まだあるでしょ、一時間くらい大丈夫大丈夫」
そう言って仕事のノートパソコンを閉じられる。保存して無いけど大丈夫かな。一応充電のコードが刺さっているのは確認した。
「じゃあ少し休むよ」
「膝枕してあげるから、横になっていいよ」
別に大丈夫と拒否しても、横になるように促される。自宅で仕事をする様になってからアーニャに甘やかされる事が増えた気がする。
後ろを縛っていた髪ゴムを解き、肩くらいまで伸びた髪の毛を解放する。そのままアーニャの膝に頭を乗せる。
まだ幼く見える顔も下から見たら、大人びて見える。
「髪伸びたね」
クルクルと横髪を丸めて遊んでいる。最後に切ったのはいつかは覚えていない。
「ずっと切ってないからね」
「短い髪のお姉ちゃんもいいけど、長い髪のお姉ちゃんもいいなぁ。アレンジしやすそうだし」
「私よりアーニャの方が可愛くなるよ、まだまだ若いし」
「へへ、そうかな」
頭を撫でられながら返答をする。私は猫か。
膝枕は快適ではあるが、肉付きが足りないから所々骨でゴツゴツしている。
「重くない?」
「重いよ?」
頭を上げると、
「このままでいいから」
それに従い頭の力を抜いて重さをそのまま預ける。
「お姉ちゃんを感じていたい、重さと温かさ」
「ちょっと怖いよ」
子供を見るような目はなんとなく怖く見えた。まだ子供を持つような歳じゃないでしょう。
「彼女に対して酷いぞー」
「ははは……」
横髪で遊ぶのを止め、頬で遊び始める。
触るというより揉み始めている。
「柔らかーい」
「ひゃめて」
変わったなって思う。アーニャにとっては私との関係が変わるのはとても大きな出来事だったのだと。
私に似ている偽物でもきっとこうなったのだろうか。それを知る事はまだ私たちには出来ない。
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