人形あそび その二

「気に入って貰えたかな?」

 確実に高いお店に連れてこられた。多分今後一生行く事のなさそうな。メニューを見て値段の桁が一つ、いや二つ多いかもしれない。普通に驚く。何も分からないので全部丸投げして適当に頼んでもらう。唯一分かったメニューはフレンチトーストとビーフストロングボールだけだった。ビーフストロガノフだった気もするけど。

「何頼んでも何ヶ月と返せないけど、さっきの服屋もそうだし」

「私がプレゼントしたかったから何も気にしなくていい。カードを切れば一発さ」

「結局後回しになるだけじゃないのそれ」

「まあまあ、あまり大人を舐めるんじゃあないよ」

 多分詐欺か何かで儲けてるから何も困ることは無いんだと思うけど。

 高い料理の味は庶民舌の私には何も分からなかった。ただ美味しかったそれだけ。

 私はただその甘い汁を乗っかってすすっただけ。

「杏奈、好きな人はいるかい?」

「いない……事もない」

「そうか。例えば――」

 姉の名前が出てきた。久しく姉の名前を口にしていない、母親からもそんなに話題に出なくなってはいるが、寂しいらしい。

 その名前で私は顔が少し熱くなる。

「お、お姉ちゃんはその……別に……」

「そんな事だと思ったよ」

 少し遠くを見ていた気がする。

 自分から仕掛けておいて無関係とは言い難い。あの日から徐々にではあるが意識し始めている。平静を装ってはいるが顔を合わせるとどうしても目を逸らしてしまう。それは姉もそうだ。姉妹だからではなくて多分もうその域はとうに過ぎている。一人の人として私は意識しているのかもしれない。

 私だけ意識するのもバカバカしいのでどうにかして姉の言葉も聞きたい。

「彼女は私の事が嫌いみたいだから、その分愛してやってくれ」

「でも友達、でしょ」

「さぁ、どうなんだか」

 グラスに注がれた高い何かを飲み、また遠くを見ている気がする。

「もしかしてお姉ちゃんの事」

「若い子はなんでもかんでも恋愛事に繋げるなぁ……」

 私の目をしっかりと見ている。

「私の付け入る隙は無いんだって、もうそう思うしかないのさ」

「お姉ちゃんはそんなに冷たい人じゃないよ」

「そう、彼女は優しいからね」

 それ以上話は続けなかった。

 カチャカチャと使い慣れないフォークとナイフでの食事はそこそこの時間を流してくれた。

「そろそろ出ようか」

 その一言を話すまでひな姉はそれまで何も口にしなかった。

 ただ、何かをひたすら待っているように。



「大人になるにはどうしたらいい?」

 車の中でそう聞かれた。

「身長とか、胸とか大きくするしか無いんじゃないですか?」

「そんな単純なもんかねぇ」

 そう言って両手で持っていたハンドルの片方、私の方の手を私に、そして私の手首を掴みそのまま自分の胸へ。

「十分あると思うんだ私」

「はぁ」

 確かに少し着込んでいるとはいえ分かりやすい御山が二つ。

「これ目当ての客が来てたと思うんだけど、私がそっちって気づいてから来なくなっちゃったのよねえ」

「はぁ」

「さっきから反応薄くない?」

「せっかくだからこの柔らかさを楽しんでおこうかと」

「やっぱりその気ある?」

「いや別に……」

 私も妹もあるにはあるが、自分で触って楽しい物なのか、いや私がそういうとあまり信憑性がない。

 手首を掴んでいた手はいつの間にかハンドルを握っていたので、いつまでも揉んでいる訳にもいかなくなってきそうなので離す。そのまま自分のを触るが、まるで感触が違う。

「…………すげ」

「あまり大きくてもいい物じゃないよ、邪魔だし」

「持たざる者には嫌味にしか聞こえないんですよ」

 街道をずーっと走っている。閉店作業が少し終わり定時になったのでそのまま送ってもらう事に。

 いつも通り遠回りで私と少し話しながら運転をする。本人曰く寂しいからと。

「どこまで行くんですか」

「私の部屋」

「じゃあめちゃくちゃ逆方向じゃないですか」

 店舗兼自宅だったはずなので、店舗側を閉店するだけだと思っていた。自宅ごと売り払うのだろうか。

「もう全く見慣れない道なんですけど」

「私は全然知ってる」

 街というか町になりつつあった。まだまだ人は住んでいる地域に入った。

 減速したと思えば交差点で曲がるらしい。

「もうすぐ着くよ」

「うん? あーはい」

 新しめのマンションが目の前に入った。が、止まることなくきらびやかな、いうなればお城の様な建物の駐車場へと入った。

「あのー」

「今停める場所見つけるから」

「いやそうじゃなくて、ここっていわゆるご休憩する――」

「そう、ラブホ」

 わざわざオブラートに包んだのに、なんの躊躇ためらいもなく口にした。

「警察呼びますか?誘拐の件で」

「いやーちょっと困るなぁ」

 そう言いつつ良い場所を見つける駐車する。

「オーナーが知り合いだから部屋まるまる借りたんだ」

「そんなコネがあるんですか……」

「誰か連れ込んでも変な事しないって約束してあるから」

 そりゃあそうだ。と出かかったが、そのまま飲み込んだ。車から降り、後ろをついて部屋までいった。案外普通な内装なんだなぁと思った。

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