それからの日常

人形あそび

 なぜ朝はやってくるのか、平日の朝。

 私はいつか太陽を倒す。到底かないそうに無いけど。

「今日休みだったわ」

 寝癖のついた頭を搔く。まあ、そういう日もある。スマホは十時くらいを示していた。

 毛布を取ったら少し冷たい空気が毛布の暖と私の体温を奪っていく。流石にもうキャミソール一枚で寝るのは厳しい時期になってきたか。

 ぐぅと腹の虫が鳴いた。普段ちゃんと朝食を食べているから少し遅い起床に腹を立てたか。もしかしたらリビングに朝食があるかもしれないとベッドから身を出す。

「おお寒い」

 冬にはまだ早いし、秋が終わるにも早い。流石にタンスからジャージを取り出す。エメラルドグリーンのどこからどう見てもダサいジャージを羽織る。袖は通す。自分の物では無いのでブカブカだ。ダサい見た目のままリビングへ向かう。

「おはよう、可愛い寝坊助さん」

 リビングには知ってる様な知らない様な、出来ることなら知りたくなかった人物がそこにいた。

「私たちが高校生の頃のジャージじゃないかそれ」

「……多分そうだと思うけど」

 なんで堂々と人の家で優雅にコーヒーを飲んでいるのか。もしかして不法侵入?

「ひな姉なんでいるの」

「彼女に呼ばれてね。というかまだそれで呼んでくれるなんて嬉しいね」

 一応姉の友達だっていう事しか知らない。別に知りたくもないけど。

 何考えてるか分からないし。

 何がしたい人なのか分からないし。

 時々私を『獲物』みたいな目で見てくるし。

「……お姉ちゃんは?」

「仕事場の閉店作業に呼ばれたって出かけて行ったよ。人を呼んでおいて自分勝手な事だよねぇ」

「そう……」

 終始ニコニコしながら話していた。

 正直気味が悪い、私はこの人が苦手だ。早く帰って欲しい。

「何か食べるかい?簡単な物しか作れないけど」

「いい、自分で作る」

「お姉ちゃんにはそんな態度しないのに、私にはキッツイな。まあそこが可愛いんだけど」

 いちいち癪に障る。そんな事姉以外から聞きたくない(友達は別だけど……)

 冷蔵庫を見るが何も入っていない。昨日は帰りがお互い遅かったからコンビニ弁当で済ませた。一緒にインスタントの物でも買っておけばよかったと後悔する。

「あちゃー……何も無いや……」

 財布と鍵をポケットに入れ、買い物に行く準備をする。

「お出かけかい?」

「……コンビニ」

「どうせだ、どこか食べに行こうか?私が出すよ」

「そんなの別に……」

 そう言って少し財布を見る。千円札が一枚と小銭が数枚、なお百円玉は無い。あとポイントカードが多すぎる。

「……お願い、します」

「うんうん、いい子だ」

 私の頭を撫でようとして、

「触んないで!」

 払った。多分結構強く。

「おお、元気な事だ」

「あ……ごめん……。出かけるならシャワー浴びてくる」

「うん、待ってるよ」

 覗きでもされそうな言い回しだった。

 が、そんな事はなく普通に浴び終わった。一応人を待たせているから手短に済ませた。

「はい、はい。二人で、はい。今から行きます。よろしくお願いします」

 支度を済ませリビングへ戻ると、ひな姉はどこかに連絡をしていた。

「おっともう戻ってきたか。もう少し待っててね」

 そう言ってまたどこかに連絡している。

「ええ、一部屋、はい。お願いします。時間? んーと、行ったら決めます。周辺は……誰も入れずに、はい。はい。じゃあそれで」

 一体どこに連絡しているのか。全く検討がつかない。

 流石に不安なので聞いてみる。

「さっきからどこに連絡してるの?」

「怪しいとこじゃないよ、大丈夫、楽しいところだから」

「それは怪しいんだけど」

「じゃあ行こうか」

「いやいやいや、行ける訳ないでしょ!」

「来てみれば分かるって。本当に、この通り!」

 懇願してきた。大人が、大の大人が。私みたいな子供に。

「……分かった」

 渋々了承して、外へ向かう。

 姉と違い、免許証を持っていて自分の車があるひな姉。一体どこで差がついたのか。車内はひな姉のよく分からない話を聞き流して、適当に相槌を打った。一応ご飯代出してもらうんだし。早く帰りたい。

 最初に連れてこられたのは服屋だった。

「……ご飯じゃないの」

「まあまあ、入って入って」

 食事だと思ったので少し残念だった。まさか自分の服を見繕ってくれってことじゃあないだろうな。

「あんまり興味ないんだけど」

「お洒落は遊びの一つだよ」

 休みは基本ジャージか、軽いというかほぼ下着みたいな感じだし、学校終わりはほとんど直帰してるし、遊びに行くとなっても制服だから困る事はあまり無い。とても便利だし。お洒落だってする事もほとんど無い。化粧すると言っても休日出かける時くらいだし、食品の買い物する程度じゃしない。

「私の? 選んでくれるの」

「そう」

 店員にあれこれ指示を出している。

 数分もしないで店員の両腕には抱えきれないだろう量の服があった。

「じゃあ全部貰おうかな」

 ありがとうございますと店員は頭を下げようとしたが、両腕の布が落ちそうになったので慌てて戻す。

「ちょっとちょっと、試着くらいさせてよ」

「おや、興味がおありかな?」

「……入らなかったりブカブカだったりしたらヤだし」

「それもそうか」

 ひな姉は適当に店員の持っているのを選んで私に寄越す。

 試着室に通され、中に入る。

「うわ、何これ……」

 上下何枚かに別れた、色はピンクでお腹が出るくらいの丈で、フリルのついた服がそこにはある。どう考えても私の趣味ではない。

「こういうのが流行ってるのは知ってるけど……」

 多分私の友人で似合うのは紫音しおんだろうな。あやは多分そんなに好きじゃないと思う。知らないけど。

「どうだい、気に入った?」

 カーテンの向こうからひな姉が聞いてくる。

「私の好みじゃない」

 一応着てはみるが。

 ……案外悪くないかもしれない。姉がどう思うか分からないけど。

 カーテンを開け一応評価を聞く。

「おお……」

「ど、どうなの?」

 鏡じゃ自分の評価は出来ない。姉といたら褒めてはくれるがそれだけだろう。

「いやはやここまで似合うなんて思わなかった。流石私だ」

 自分の評価だけだった。ちょっと残念。

「似合ってるかどうかって聞いてるんだけど」

「そんなの言わなくても似合ってるさ。銀色の髪が映えるくらいには。それもあっていつもの何倍も可愛い」

 満足してもらった所でカーテンを閉めようとした。

「ああ待って、次はこれ」

 黒いドレス?みたいなものだ。例に漏れずフリルフリフリの。

「わぁ……」

 さっきの子供っぽい、というかウケは良いんだろうけどって感じの服から大人っぽいけど、どこか幼さの残る様な服。

 ロリロリみたいな、名前のやつ。

「……結構好きかも」

 漫画とかでしか見た事ない。だけど私はこれが好きかもしれない。

「あーごめん、これも着けて」

 多分服に合わせた物だろう。そう思って受け取った物を見た。

「は!?」

 一応、一応ね、着ける。

 バっとカーテンを開ける。

「ちょっと!何これ!」

「おおっ……!」

 服と合わせたヘッドドレスなのだろうけど、どう見ても猫耳がついている。

「普通のやつかと思ったわ!」

「ふ、普通のも……あるから……くくく……」

「なんで笑ってるのよ!」

「思ったよりハマってるなぁって……くふふふ……」

 笑ってるというより堪えてるのかもしれないけど。

 普通のヘッドドレスは私の好みだったので流石にそれを選んだ。それからも何着か、ひな姉の趣味の服が私に手渡され試着をする。もちろん全部購入するつもりだったらしいので、そのまま会計をした。よく見ないで会計をして貰い、目玉が飛び出るかと思うくらいの値段を涼しい顔して払っていた。その中でも私が気に入ったのをそのまま着て帰った。少し視線が痛かった。

 猫耳のヘッドドレスが買ってあったのは家に帰ってから気づいた。

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