その後の心は
お互いに朝の時間が合わない事が多くなってきた。何やら委員会に入ったとかなんとかでこの時期は特に忙しいとか。私なんて面倒だから委員会どころか部活すら入った記憶が無い。学校は真面目に行っていたが、そういう事には全く興味が無い。自分一人がやった所で何が変わるというのか。
とりあえず身体を起こしスマホを確認する。止めた記憶のないアラームが止まっている。最近は本当に怠惰な生活をしている気がする。もうてっぺんに太陽だ。このまま二度寝でもしてしまおうかとも思うが、シャワーでも浴びて眠気を覚まそう。
昼間に浴びるシャワーからしか取れない栄養を摂取した所でリビングに入る。リビングには学校に居るはずのアーニャが帰ってきていた。
「ただいまお姉ちゃん」
「おかえり……サボり?」
「違う、午前中で終わりだったの」
もしかしたらそんなこと言っていたかも知れないが覚えていない。
「早く終わった学生は遊びに行くもんじゃないの?カラオケとかゲームセンターとか」
「そんな気分じゃなかった。早く帰りたいが勝ったから」
「そ、そうなの」
私も同じようなもんだけど。
「それに昨日お姉ちゃんの様子もおかしかったからさ」
「それは……」
昨日の事のように変な友人の言葉がリフレインする。まあ昨日の事だけど。
「心配だから帰ってきた」
「アーニャ……」
「とりあえず服着たり髪乾かしたりしたら」
言われた通りに服を着て、髪を乾かした。気持ちいつもより気分が良い。
私はアーニャの作ってくれた朝食を昼食に、アーニャには別に作ってあげた。私が作って文句のひとつも聞いた事が無い。健啖家でその小さい身体のどこに入っているんだか。ただその栄養分はどこに行ってるんだか。
「
「二人今日デートだから」
「へぇ、デート……デート!?」
「教えてなかったっけ。二人、付き合ってる」
結構身近にもいた気がするけど、あれはもう終わってるからノーカン……でいいのか。確かに本人達の自由であるから私から特に何か言える事も無い。幸せになってくれ。
「いや初耳だけど……」
「そうだっけ、まあいいや」
適当に気になる話を切り上げ自分はランチタイムを継続する。気になりすぎて自分の食事に集中出来ない。別に羨ましいとか思ってない。思ってない。多分。今の時代珍しくないのかもしれないな。まあ別に私も時代錯誤の人間じゃないからな。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「キスってしたことある?」
「ないけど」
「良かった」
そのまま再度食べ始めた。
「えっ、なに、なに」
「気になっただけ。仕事が仕事だからそういうのあるのかなって」
「お姉ちゃんはそういう仕事してないから、バーテンだからね」
ちなみにめちゃくちゃお酒には弱い。飲めなくは無い。お酒が弱いのにバーテンなんておかしな話である。歯医者が虫歯……みたいな。
「同じような……そういう訳でもないか。キャバクラみたいにお話するだけだよね?」
「少なくともキャバ嬢みたいにお姉ちゃん可愛くないからね。確かにお話するだけもあるけど」
軽くお酒を作る点は同じかもしれない。シェーカー振るの禁止されたし私。
「で、杏奈さん、急にどうしたんですか」
「見ちゃってさ、二人、キスしてるの」
え、高校生ってもうそこまでいくの。確かに私には経験は全く無いけど、もし仮に誰かと付き合ってもそこまでいく勇気は無い。多分そもそもの話恋人はいないと思う。
「え、君ら高校からの付き合いじゃあないの?」
「二人は中学校くらいからって言ってた」
あー、なるほど。
なるほど。
言いたい事は全部言った様なのでまた食べ始める。私は自分を納得させるのに時間を要した。色々考えて時間を潰している間にアーニャは昼食を食べ終えた。
「自分の友達が、友達とキスしてるの見たって、なんか
「いや、まあ、うん」
まあ。
まあまあ。
まあまあまあ。
もう子供じゃ無いんだから。
「ちょっと買い物してから帰ろうと思ったのに、道の真ん中で堂々とさ。いやまあ仲良いのはいいけど間に入る私はどうしたらいいの」
「間に入るのはダメだよ」
「ものの例えだって」
まあ、それはそれとして。
食べ終えた自分の皿を流しへ持って行く。そのまま洗い、終わったらまたテーブルに着く。
「キスしてみたい」
特に何か考える素振りもなく、ただ頭に浮かんだそれを口にしただけだと思った。いやまあ思春期真っ只中自分の友人たちがしていた所を見てしまった以上、そう思うのだろうか。思わないでしょ。
「お姉ちゃんそれに関しては何も言えないよ?」
「この際だからお姉ちゃんでいい」
で、いい。
「姉妹だし何も問題ないと思うけど……」
「お姉ちゃんが良くない。私が最後にしたのはお母さんとだし、それも十何年前とかだから」
血は繋がってないし、まあいろいろセーフでは無いけど、家族だからそういったスキンシップもあるのは重々承知している。しかし、それが小さい子ならまだいいだろう。確かに妹は小さい。だけどそれは身長的な話だ。年齢で見れば十分大きい。
「そういうのは好きな人とするのが普通でしょ?」
「お姉ちゃんは私の事嫌いなの?」
うわ。
めんどくせー。
「そういうの訳じゃなくて、もちろん好きだけどね、その……なんか違うじゃん?」
冷静を
「それに……何かあったら責任取れないし」
「何かって何?」
妹はまだまだ子供だった。正直に生きてきて学校で学ぶ以上の事はあまり知らなくて、でも変な知識は拾って、私はこの子の事がまだあまり分かっていない。
「そ、そのうち分かるよ」
適当にはぐらかして食器を下げる。
「案外普通……なのかな……」
皿を洗いながらポツリそう呟く。
水道から水を出してコップに注ぐ。飲もうと思ったのだろうけど、口の中をゆすいでそのまま吐き出す。いやに口の中が変な感じしたからそうした。
台所にいるついでにコーヒーを作る。ケトルにお湯は無かった。二人分より少し多めに水を入れ沸かす。
私たちはもう既にキスと同等の、いや、それ以上の事はしている。カウントされていないのかもしれないが、私の中ではそうなっている。思い出して頬が熱くなるのを感じたところでケトルの電源が落ちる。お湯が沸いた。
何かで見たコーヒーの入れ方とやらを実践してしっかりと香りを立たせる。普段はやらないが、心を落ち着かせる為に時間をかけて作ってみたり。自分のを先に入れ、その次に妹の分を入れる。準備が出来たからテーブルに持っていく。砂糖を持っていくのを忘れたが、自分で取りに行くだろう。
自分のを置いてから、妹の前に。たいして大きくないテーブルにカップがしっかりと置かれるのを確認し、妹は身体を私に寄せ、そのままキスしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます