友人 その二
「連絡欲しいって、まだ何がなんだか理解出来てないのに、急にこんなの渡されて、それに何この変な肩書き」
変な勧誘かと思えばよく分からない事業の、よく分からない友人から渡された名刺。
「おいおいおい、変なとは失礼だろ」
「いや十分変」
「立派な職業さ」
どこかを指さし、
「君のそれもそうなんだろ?」
「……っ」
首のそれはまだ痛みがある。触れたら溶けそうなくらいに。
「身近にいるのか、それとも別にいるのか」
「教えたらどうなるの」
「まあ、仕事をするだけだよ。知ってても教えてくれる訳も無いだろうけど」
「…………ちなみに実績は?」
「残念ながら無い。そうそう起こらないからね」
一度両手を叩き、話を続ける。
「そうそう、叔父が前に銀色の髪をした背の高いバンパイアを殺したとかなんとか」
啓介さんの前の奥さんは不慮の事故で亡くなったって妹から聞いた事がある。まさかと思ったが聞けない。聞けるはずがない。
「だけど私は叔父とは違う。殺さない。もっといい方法がある」
「帰って」
「おいおい話はまだ途中――」
「いいから帰って!」
頭を掻きながら立ち上がる。
「そこまで言うなら帰るよ。今度はちゃんと友人として来るから。妹ちゃんによろしく」
時間にして多分、
「あ、そうそう」
足を止めて、クルっと私の方へ向いた。
「君を傷つけるモノは何であろうと私は仕事、するからね。友人だから、それくらいはするよ」
そう言い残して出ていった。
結局出さずじまいだったお茶を沸かしているケトルの電源が落ちた。
「本当になんなの……」
別に目をそらしているわけでは無い。なんとなく、ただなんとなくそんな事はないと思っている。
考えてみても思い当たる節は今の所ひとつしかない。首にあるそれは、それを示唆するのに十分だと私は思う。モヤモヤとした気持ちは一向に晴れない。
ただ私は妹のそれを満たして、治めてやるのが仕事なんだとそう思っていた。妹は何も悪くない。悪い人なんていない。そう思うしかなかった。
だからといって何かしてあげられることも無いし、私が怒るような事でもない。誰が悪いなんて答えは無い。
そうこうしているうちに気づいたら夕方近くなっていた。結局昼食は取っていない。
「ただいまー」
アーニャが帰ってきた。すぐさま玄関へ向かう。
「お姉ちゃん、ただいま……ちょ、ちょっと!」
「身体は大丈夫?誰かに何かされてない?変な人とかいなかった!?」
無事に帰ってきた安堵で妹を抱きしめた。
「強いて言うならお姉ちゃんが変な人!苦しい!」
「ああ良かった……」
今は妹しか見えていない。
「杏奈、わたしお邪魔?」
別の声が聞こえた。私と妹の仲を邪魔するのは誰だ。
「ちょっと離れて!」
無理やり妹に引き剥がされた。正気に戻った私の視界には妹の友達の
「文ちゃんごめん、お姉ちゃん頭おかしくなったみたいだから、先部屋行ってて!」
「う、うん。お邪魔します……」
「どうぞごゆっくり……ははは……」
妹の友達を見送り、アーニャは怒ったようなそうじゃないような表情をしている。
「何のつもりなの、昨日はそりゃ私が悪かったけど……」
「そういうんじゃなくて……」
「文ちゃん帰ったらちゃんと聞くから!」
久しぶりに妹を怒らした気がする。
しょんぼりしながらリビングへ戻った。なんとなく家にいるのが苦しくなったから出かける。その前に妹のご飯、一応文ちゃんの分も作っておこう。
作り終えて支度をする。どこに行くかは全く決まっていないが多分あそこだ。妹のスマホに連絡を入れそのまま出かけた。
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