友人

 元気なアラームに起こされスマホを見る。起きる時間より一時間遅く起きてしまった。急いで朝食を作らなくてはならない。

 バタバタと部屋から出て妹を起こしに行く。

「アーニャ、朝だよ。ごめん、お姉ちゃん寝坊しちゃった」

 ノックをしても反応がない。まだ寝ているのだろうか。

 扉を開けると部屋には誰もいなかった。私の布団にもいなかった。

 リビングもシーンとしていて、テレビもついていなかった。テーブルの上にラップがされてある器があった。

『ちょうしょく』と平仮名で書かれた置き手紙が置いてある。漢字くらい使えるだろう。朝ご飯でも良かったが。

 昨日の残りの食パンはトースターに、冷めてしまったコンソメスープはレンジに入れて温める。その間にコーヒーを作る。インストタントだからお湯を沸かすだけだ。そろそろ肌寒くなる時期だが、太陽はまだ燦々さんさんとしている。優雅、という訳では無いがこんなにゆっくり朝食を食べるのはいつぶりだろうか。もう学生で無いから余裕を持てるといった感じだ。今日も仕事は休みだ、廃業寸前過ぎてやる仕事があまり無いとか。テレビのよく分からないワイドショーも何を言っているか分からない。

 もうなんか優雅というより怠惰な気がしなくもない。

 急いでいたのか少し荒れたキッチンの片付けをする。今日の夕飯はあの子の好きな物にしようと思う。かなりダラダラしていたから時刻は十時を回っていた。昼ご飯は何にしようとか考えながら片付けをしているが、今さっき食べ終わったばかりなので断念する。

 ピンポーンと家のチャイムがなる。何も頼んでいないはずだから来客があると思えない。勧誘とかだったら困る。インターホンのカメラで外を確認する。誰もいない。カメラに映らないのは一人しかいないので、そのまま玄関に向かう。

「はい?」

「よっ、遊びに来たよ」

「あー、宗教の勧誘はお断りしてんですよ」

「いつもそれだ」

 入っていいなんて言ってないのに勝手に入ってくる。いつもこうだ。

 神田雛は私が学生の頃からの友人だ。

「今日休みなの?」

「どうせ店潰れるし行っても行かなくても変わらないから」

「ふーん、休みなのね」

 ズケズケとリビングまで行って、ソファのお気に入り場所に座る。そこは妹もお気に入りの場所だ。

「いやー、角っこってなんでこんなに落ち着くんだろうねぇ」

「もたれやすいから楽なんでしょう」

「いやいやいやいや、ここが君の家だから余計に落ち着くんだよ」

 角が落ち着くのは分かるが、雛は尖りすぎている所がある、性格難というか。一言でいうなら変人。

「あっそ」

 私たちの間柄だから許されると思っている。何年も付き合いがあれば雑になる。

「今日は暖かいのに何だか冷たいなぁ」

 まぁ、来客がそんなに好きじゃないっていうのもある。

「ところで」

 気にもしていなかった口調というか温度というか、何か普段感じない物を感じた気がする。こいつは変人だから何人も自分の中に飼っているのかもしれない。

「男でも出来た?」

「は? え?」

 彼氏なんて、男の友達すらそんなにいないが。そんなに急に出来たら私が一番びっくりするわ。

「いや首筋、跡になってるっていうか怪我? 分からんけど」

「いやこれは」

 とっさに手で首を隠す。これじゃあ肯定しているように思う。実際は別の事があったが。

「まぁまぁ。君はおっちょこちょいだから何かで怪我する事もあるか」

 触れるとまだヒリヒリする。穴が開いている訳でもなくて、というか穴が無い。

 ふと思い出したが、妹が包丁で指を切った事があった、しかし二時間くらいで傷は塞がっていた。

「ね、寝てる時に引っ掻いたかな……ははは……」

「まあまだ寝汗くらいかくからね」

 普段と何か違うせいでとてもやりにくい。

「妹ちゃんは元気?」

「え、え、うん」

「そうか、なら良かった」

 妹はこいつを毛嫌いしている。分かるが昔はこんな奴じゃなかった。誰でも変わりはするけど雛は何かがとても違う。高校を卒業してから疎遠になりつつはあったが、それでも私たちの友情(あるかは知らん)はそんな程度で無くなる物じゃないと思う。

「そうそう、私今こんなのやってて」

「だから勧誘は――」

 出された名刺には『バンパイアハンター』なんて。

「困った事があれば連絡欲しいな」

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