フレンチトースト
息苦しさを感じて目を覚ますと妹は私の上で寝ていた。私を敷布団にうつ伏せで、頭頂部だけ綺麗に太陽に照らされてキラキラとしていた。
「もう昼じゃん」
枕元に置いたスマホの時計は十一時を指していた。四十五分くらい過ぎていたが。
まだすやすやと寝息を立てて、きっと幸せな表情をしているに違いない。夜勤から帰ってきて多分六時間くらいだ。いつの間に私の布団に忍び込んで上で寝ていたのか、気づきもしないくらい疲れはピークだったのだろう。
「アーニャ、苦しいから起きて」
体を揺すり起こす。私が帰ってくる頃には寝ていたはずだから夜更かしはしていないはず。
「ん……おかえり……お姉ちゃん……」
「ただいま。なんで私の上で寝てるの?」
「知らないー」
多分トイレに起きて、自分の部屋に戻るのが面倒になって私の部屋で寝たのだろう。だとしても上で寝て欲しくないが、多分無意識でそうしているのだろう。
「もうお昼だから」
「だっこ」
「高校生が甘えるな、ほらシャキっとしな」
午後からの予定も仕事も特には無い。アーニャの身体を持ち上げたら猫みたいに伸びた。
私も私で妹に甘いので言われるがままに抱き上げ洗面所へ連れていった。
「お昼ご飯何食べる?」
洗顔等々終わらせ昼食の提案を聞く。私が作る。こういう時って大体なんでもいいって返ってくる。
「お姉ちゃん仕事の間に卵とかいろいろ買ってきたから、フレンチトースト作って」
「そんな難しい物を私に作れって?」
女の子らしいといえばらしいが、子供っぽいといえば子供っぽい。
「この間作ってた、えーとなんだっけ、ビーフ……ビーフストロング砲……?みたいなのより簡単だと思うけど」
「そんな物騒な物は作ってない」
たまたま五日間くらいの休みを貰っていたから手の込んだ物を作りたくなっただけだ。
スマホでレシピを調べ、冷蔵庫を開ける。なるほど、私と同じレシピサイトを見て買ってきたらしい。買ってある食パンは普段食べるよりも高い物だった。お小遣いは少し減らそうと思う。
アーニャはスマホをいじりながら出来上がるのを待っていた。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「お姉ちゃん」
「私は飲み物じゃない」
「違う、これ見て」
月食。それが近くの山で見られるというイベントの案内だった。
「見に行きたい」
「明日学校でしょ、遅いからダメ」
軽くあしらって美味しそうな焦げ目の付いたフレンチトーストを皿に乗せる。
「
「朝弱い癖に睡眠時間減らしてどうするの、うちはうち、よそはよそ」
「ケチ。コーヒーでいいよ」
「そう言うと思った」
嗜好に文句を言うつもりは全くないが、高校生は甘いコーヒーしか飲まないと思ってた。私がそうだったし。コーヒーよりは紅茶の方が飲んでいた気もするが、今となってはそんなに飲まなくなった、むしろ緑茶とか麦茶とかそういった物しか飲まなくなった気がする。
「砂糖は?」
「いらない」
「本当に?」
「……三つ」
「よし、いい子だ」
角砂糖を置いてあるのはアーニャの希望だ。実家にも置いていない。
自分の分もフレンチトーストを焼き上げ、コーヒーを持って席に着く。残ってしまった牛乳を共に食す。
頬杖をつき、アーニャの顔を見る。高校生といえどまだ幼い顔つきだ。まるで歳を取らないような。
「顔になんか付いてる?」
「いーや、私の妹は可愛いなって」
「そう?皆大人びてるのに私だけまだ子供みたいだから、コンプレックスっていうかなんていうか」
「急いで大人になる必要もないと思うけどね、お姉ちゃんはそう思う」
大人になりたいなんて、そう思っていたのは子供の頃だけだった。
「そうかな。まあそうか」
「いつまでも子供でいられたら良いんだけどね」
アーニャのフレンチトーストは既に無かった。ゆったりとコーヒーを飲むアーニャはスマホで大人と調べていた。ネット辞書を調べたり、なんか大人なサイトを開いて赤面して閉じたりと、どうやらまだまだ子供だったらしい。
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