五、超絶基本の、土作り!⑮
「そんなことが……」
「まさか、あり得ない……」
一通りの説明を聞いた守衛たちは顔色を失い、呆然と呟いている。そんな二人の守衛にオトが言葉をかけた。
「信じられないだろうが、ここまでの道中でこのボギービーストは怪しい動きを一切見せていない。何より、ヒロトが直接このボギービーストと会話をしているところを見てきた。多分、本当にこのボギービーストに危害を加える気はない」
そうは言うものの、オトはまだ警戒しているのかいつもの気弱なオトではなかった。それでも最初の頃にボギービーストへ向けていた殺気は消え去っている。
「お願いします。この毛むくじゃらさんも、村の中に入れてやってはくださいませんか?」
ポエルが深々と頭を下げて門番をしている守衛に頼み込んだ。実質、村でいちばん偉いポエルにそこまでされてしまっては、門番も頭ごなしに断ることが出来ない。門番が弱っていると、
「俺は、外にいても構わないぞ?」
黙って立っていたボギービーストがそう言い出した。ポエルや守衛の言葉を理解した上での発言だろう。しかし、村の外にいられては肝心なときに、すぐにボギービーストに仕事をさせることができない。
弱ったな、と大翔が頭を抱えていると、
ぽんっ!
小気味のいい音がジャポニア村の前に響いた。音のした方へと顔を巡らせると、そこには宙に浮く子供の姿ある。
「シトっ!」
「シト様!」
その姿を認めた大翔とポエルの声は同時に上がった。
「シト様だって?」
二人の言葉に驚いたのは守衛二人とオトだった。しかし三人にはシトの姿が見えていないようで、虚空を眺めては、
「どこにいらっしゃるのだ?」
そう言うだけだった。
キョロキョロとしている守衛二人とオトには構わず、シトは大翔とポエル、それとボギービーストに視線を向けた。
「ポエル、ヒロト。なんか、とんでもないものを拾ってきたね」
シトのその言葉は完全にあきれ果てていた。
「申し訳ございません、シト様」
ポエルはしゅんとした様子で肩を落とした。しかし大翔はと言うと、
「おい、シト。そんな言い方はないべ! 毛むくじゃらだって生きてるんだ。むげに扱うわけにはいかないべな」
むっとしたように言う大翔の言葉に、シトは苦笑を浮かべる。
「別に、悪いとは言っていないよ。ただ……」
シトはそう言うと真っ直ぐにボギービーストを見据えた。シトの視線を受けたボギービーストもまた、シトを真っ直ぐに見やる。
シトはボギービーストの目の前に浮遊すると、
「君、絶対に約束を守れる?」
そう確認する。
「もちろんだ」
ボギービーストは即答した。シトはじゃあ、と言って右手の指をパチン、と鳴らした。するとどうだろう。ボギービーストの毛むくじゃらの手首と足首に細い金の輪っかが現れた。その輪っかはボギービーストの手首と足首をしっかり掴んでいるようだ。
「少し、制約をしても問題ないよね? この輪っかは、君が約束を守らなかったときに君を締め付ける。心しておいて」
「……分かった」
ボギービーストは低い声でシトへと答えた。その声にシトは表情を明るくさせると、
「じゃあ、村の中に入ることを許可しよう!」
そう言って、出てきたときと同じようにぽんっ! と小気味のいい音をさせて消えてしまったのだった。
「な、何が起きたんだ?」
シトの姿が見えなかった守衛二人は混乱している様子だ。突然目の前のボギービーストの手首、足首に金の輪っかがはめられているのだ。そんな守衛とオトへ、ポエルが説明をする。
「そのようなことが……」
「にわかには信じがたいが、目の前でボギービーストに枷がつけられている。これは信じるしかないな」
守衛はシトが、このボギービーストを村の中へと迎え入れたことを信じた。
「じゃあ、村の中へ、どうぞ」
守衛はそう言うと村の門を開け、大翔やポエル、オトとボギービーストの入場を認めるのだった。
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