五、超絶基本の、土作り!⑪
しかし今日の午後から雲行きが怪しくなると言うことで、村人たちは水やりをする時間を省き、その分を収穫と出荷の作業に費やしているのだった。
(ジャポニア村で、ビニールハウス栽培が成功したら、冬でも春や夏の野菜を食べられるようになるべな。そうなったら、ジャポニア村の農業は他の農村よりも一歩前に進むことが出来るベ)
大翔はそんなことを考えながら、まずは旬の野菜を育てていこうと決意する。
村長から数種類の野菜のタネを貰った大翔たちは、一度、昨夜泊めて貰った村長の家へと戻った。まだまだ天気は崩れる様子を見せない。
家に戻った大翔たちを待っていたのは、
「おいっ! 偽物の救世主!」
「イリヤじゃねーか。どうした?」
「雨なんか降らないじゃないか! そうやって、皆を罠にはめて、作物に水をやらせず、枯らせる作戦だなっ? 俺はお前のことなんか、絶対に認めない!」
「そんなことねーべ? 俺はただ、本当に聞こえた声を伝えてるだけだべな」
「嘘だ!」
イリヤは首を激しく左右に振る。それからキッ! と大翔を睨みあげると、ハッキリとこう言った。
「じいちゃんは騙せても、俺は騙されないからなっ!」
「分かった、分かった。でもイリヤ、危ねーから、外には出るんじゃねぇよ?」
「うるせぇ!」
「あっ! おい! 待てっ!」
イリヤは言いたいことだけを言い残すと、大翔の制止も聞かずに家を飛び出してしまった。まだ空は明るかったが、遠くから真っ黒な雨雲が近付いているのが見える。大翔は村長から譲って貰ったタネをポエルに渡すと、
「ポエル、このタネ、頼むべ。俺はイリヤを追いかける!」
そう言ってイリヤが駆けていった方へと足を向けた。
「あ、待って! ヒロト! 僕も行くよ! ポエル様、よろしいですか?」
「是非、ヒロト様と一緒に行ってあげてください」
オトに尋ねられたポエルはにっこりと微笑むと、二人を送り出した。そんな二人と入れ違いになるように、農地から引き上げてきた村長たちが戻ってきた。ポエルは彼らに事情を説明する。
「あの、バカ孫めが……!」
ポエルがこの村に来てから、初めて聞いた村長の悪態に驚いてしまうが、すぐにその悪態が愛情から来ているものだと気付き、笑顔を浮かべる。
「村長様、心配には及びませんよ。ヒロト様とオトさんが探してくれています。さぁ、村長様は中で待っていましょう。そろそろお天気が荒れますから」
ポエルに促された村長は、後ろ髪が引かれる思いで自身の家の中へと、ポエルと共に入って行くのだった。
さて、イリヤを探しに出た大翔とオトは農地の傍を流れる川まで来ていた。川の流れはまだ穏やかではあったが、この水も雨が降ったら一気に増水してしまうだろう。黒い雲が近付くにつれ、風が強くなってくる。
「あのチビ介、どこに行ったべか?」
強い風に煽られながら、大翔は川沿いを、目を皿にしてイリヤの姿を探す。しかしどこにもイリヤの姿が見つからなかった。そうこうしているうちにポツリポツリとついに雨が降り始めてしまう。
「どうしよう、ヒロト……」
「探し出すしかねーべ」
オロオロとしてしまうオトに対して、大翔は冷静に変えす。大翔の冷静さにオトも冷静さを少しずつ取り戻していくが、それとは反比例して雨脚がどんどん強くなっていく。そうしてすぐに、大翔とオトの顔には叩き付けるような雨粒が降ってきた。
「こんな大雨の中、イリヤはきっと心細いに決まってるべ……」
大翔は目を細めながら呟く。そうして村の端まで川を上ったときだった。
「うわぁ――――――っ!」
甲高い悲鳴が辺りを包んだ。大翔とオトは顔を見合わせると、すぐに声のした方へと駆け出した。
辿り着いた先には、土で出来た洞穴があった。その洞穴の暗闇を見つめながら、イリヤが後ずさりをしている。このままでは後ろにある川に落ちてしまう。
「イリヤっ!」
大翔がすかさずイリヤに声をかけた。イリヤはすぐに大翔の方を振り返るが、その顔は恐怖で引きつり、今にも泣き出しそうだった。
「イリヤ、大丈夫かっ?」
大翔はすぐにイリヤの元へと駆けつけると、その身体を抱きしめる。間一髪の所で、イリヤが川に落ちることはなかった。しかし、イリヤは大翔ではなく再び洞窟の中を見つめている。何かにまだ怯えているようで、その小さな身体は震えていた。大翔が不思議に思い洞窟の中を見つめる。そこには何か、黒いものが闇にまぎれてうごめいているように感じられた。
「オト、あれ……」
大翔がオトを振り返ると、オトは既にメガネを外して剣を構えていた。
「ヒロト、イリヤを連れて下がれ」
オトの冷たい声音を聞いた大翔は、洞窟の中に何か危険があることを察する。すぐにイリヤを連れて、洞窟から距離を置いた。
「騒がしいなぁ……」
その時、辺りの空気を震わせる、低いうめき声が響いた。
「ひっ!」
イリヤは恐怖で身体が硬直してしまう。
「大丈夫だべ、イリヤ」
大翔はイリヤにそう言うが、ただのうめき声にしか聞こえないイリヤにとっては恐怖でしかない。
「イリヤ、ここでおとなしく待ってるべ。な?」
大翔の真剣な声音に、イリヤは半べそをかきながら小さく頷く。それを確認した大翔はすぐにオトの元へと駆け出した。
「オトっ!」
「ヒロトっ?」
大翔の姿にオトが一瞬、目を見開く。大翔はそんなオトにはお構いなしで洞窟の前に飛び出した。それと同時に、洞窟の中から黒い、毛むくじゃらの巨人が姿を現す。
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