五、超絶基本の、土作り!⑨

「長旅でお疲れでしょう。私たちの家でゆっくりしていってくだされ」


 村長はそう言うと大翔たちに背を向け、自分の家へと案内をしてくれた。広い農地の奥には小さな集落があり、その集落の中で一際大きな家がこの村長の家のようだ。大きいと言ってもポエルの屋敷ほどではもちろんない。しかし平屋建てのその家は日本の古き良き農家の家を彷彿とさせた。大翔が懐かしさを感じていると、長い廊下を経て客室へと案内される。


「救世主様と護衛の方のお部屋はこちらです。巫女様はお隣になります」

「ご丁寧に、ありがとうございます」

「今日はゆっくりお休みください。農業についてのご質問などはまた明日、伺いますゆえ……」

「よろしくお願いします」


 ポエルの言葉を受けて、村長の老人は廊下を去って行った。


「ポエル、一人で平気だべか?」

「はい!」


 大翔が不安そうに声をかけるのに、ポエルは笑顔で答えた。


「じゃあ、俺たちこの部屋にいるから、何かあったら遠慮なく入ってくるべ? な?」

「分かりました」


 大翔の言葉にポエルはおかしそうにクスクスと笑いながら、オトに一礼すると大翔たちの、部屋の隣へと入って行った。


「大丈夫だべかなぁ……」


 大翔はポエルの姿が扉の向こうに消えるのを見ながら不安に駆られる。


「ヒロト、僕たちも部屋に入ろう?」


 立ち尽くしている大翔へ向かってオトが声をかける。大翔は後ろ髪が引かれる思いでオトと共に用意された部屋へと入っていくのだった。

 部屋の中には布団が引かれており、普段ポエルの屋敷ではベッド生活だった大翔にとって、布団は懐かしさを感じさせるアイテムとなっていた。しかしオトの方はと言うと、床に直接敷かれた寝具を初めて見たようで、ちゃんと眠れるのか不安な様子だ。


「意外と悪くないベ? 布団」

「そ、そうなの……?」


 大翔の言葉にオトは半信半疑の様子だ。大翔はこうして敷かれている布団を見ていると現実世界での修学旅行を思い出す。その時はクラスの男子たちと好きな子の話をしたものだ。


(つい最近まで、当たり前だと思っていた日常が懐かしく感じるべな……)


 大翔はついついしみじみと感じてしまう。そしてその時のノリで、


「なぁ、オト。オトってルーチェのことが好きなんだべ?」


 それは大翔にとっては確信している事実であり、誰が見ても分かることだと思っていたのだが、大翔のこの言葉を聞いたオトは突然の質問に慌てている。顔を真っ赤にさせながら、


「ちっ、違うよ! 僕とルーチェはただの幼馴染みなだけで、す、好きとか、そう言うんじゃ、なくて……!」


 必死なそのオトの様子に大翔は思わず笑ってしまう。


「隠すことねーべな! オト、ルーチェが他の男とくっついたらイヤだべ?」

「そ、それは、まぁ……」

「だろ? じゃあ、オトの好きな女の子はルーチェだべ」


 大翔は何故か得意げに胸を張ってしまう。そんな大翔の態度に今度はオトが反撃だと言わんばかりに口を開いた。


「そう言うヒロトこそ、どうなのさ! その、ポエル様と、一つ屋根の下に住んでて……」

「お?」


 語尾がもごもごとなってしまったオトを、大翔は振り返る。なんだか質問しているオトの方が恥ずかしそうだ。大翔はオトには隠すことなく話そうと決めると、


「確かに、ポエルは可愛い! 俺はポエルの屋敷に居候してるべ。でもな、あそこにはシュベルトさんも一緒に住んでるんだべ?」

「あ……」

「だから、どうこうなる訳はないべな」


 大翔がニカッと笑って言うのに、オトは言葉が出てこない。


「それに、ポエルのことは好きだが、それはオトのルーチェに対する好きとは別だべ」

「どう言うこと?」

「俺はまだ、この世界のことも、ジャポニア村のことも、そしてポエルのこともよく知らないべ。だから、恋愛感情とかはまだないべな」


 真剣な大翔の言葉にオトの表情もいつの間にか真剣になっている。

 これから先、大翔の感情は変わるかもしれない。しかし、大翔は現状の正直な気持ちをオトへと伝えた。


「たまにオトとルーチェが羨ましくも思うべな。仲が良くて」


 キシシ、と笑う大翔に、オトは照れたように俯いてしまうのだった。


「それより、疲れたべな~……。オト、寝るべ」

「そ、そうだね……」


 二人はもぞもぞと敷かれていた布団に潜り込む。部屋の明かりを消すと、慣れない旅の疲れが本当にどっとやって来て、大翔は泥のように深く眠りに就くのだった。

 翌日。


「ふぁ~……。良く寝たべ」


 大翔はスッキリと目が覚めていた。対するオトはと言うと、


「身体が……、痛い……」


 どうやら布団の寝心地はオトには合わなかったようだ。少し眠そうに目をこすっている。二人がそうしていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。


「うぃ~……」

「おはようございます、私です」

「ポエルっ?」


 大翔がやる気のない声でノックに返事をすると、扉の向こうからポエルの声が響いた。驚いた大翔は急いで、手ぐしで自身のプリン頭を整えると、部屋の扉を開けた。


「おはよう、ポエル。どうしたべか?」


 大翔の問いかけに、身支度を完璧に調えたポエルが少し気恥ずかしそうに声を出した。


「早くに、目覚めてしまって……」


 手持ち無沙汰になってしまったポエルは急に心細くなってしまい、大翔たちの部屋を訪ねてきたのだと言う。


「ま、まぁ、入るべ」

「はいっ!」


 大翔は道を空けるとポエルを部屋の中へと招き入れた。まだ寝ぼけ眼だったオトが突然のポエルの登場に目を丸くする。

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