五、超絶基本の、土作り!⑦
「生まれたんだわ!」
ルーチェはその様子に歓喜の声を上げた。
「凄い! よく頑張ったねぇ~!」
ルーチェはそう言うと、母クーシュカに飛びつく勢いだ。しかし出産を終えたばかりのクーシュカをいつものように気軽に触ることはさすがにはばかられたのだろう。ルーチェは声をかけるだけにとどめた。
「無事に出産したのは良かったけど、このマダムの旦那って誰なんだべ?」
その時、大翔が素朴な疑問を口にした。手放しで喜んでいたルーチェの動きが止まる。ゆっくりと大翔を振り返ると、
「確かに……。誰なのかしら?」
「ルーチェにも分からないべか? ……おい、お前の旦那は何処だベ?」
大翔は出産を終え、一息ついているクーシュカマダムへと声をかけた。クーシュカが大きな瞳を向けてくる。
「お前さん、それを聞くのは野暮ってものよ?」
その声音には歴戦のマダムが醸し出す圧が感じられる。大翔はぐっと言葉を飲み込むしか出来なかった。
「クーシュカ、何か言ってるの?」
その様子を見ていたルーチェの疑問に、大翔はただ、怒られた、と答えるしか出来なかった。
そうして少ししょんぼりした気分になっていた大翔だったが、
「お、そうだ! オト! 言いそびれるところだったベ」
「どうしたの? ヒロト」
「明後日、農村に行くことになったんだが、一緒に行ってくれねぇべか? ポエルも一緒に行けることになってて、村いちばんのオトに魔物の護衛をお願いしたいんだべ」
「え? 僕が、村いちばん?」
「んだ。シトがそう言ってたべ?」
「シト様がっ?」
大翔の口から出た意外な名前にオトが面食らっている。大翔はそんなオトに、
「ポエルが村の外に出るための条件が、オトの同行なんだべ。な? 一緒に来てくれねぇべか?」
「一緒に行ってあげなさいよ、オト」
帰り支度をしていたルーチェが振り返るとオトへと声をかける。どうやら大翔とオトの会話が聞こえていたようだ。
「そうだ、ルーチェも一緒に行かねぇべか?」
「そうしたいのは山々なんだけど、生まれたてのクーシュカを置いていけないわ」
「そりゃそうか」
大翔はルーチェも誘ったが、今回の一件でルーチェは明日からクーシュカの世話で忙しくなりそうだ。さすがに数日間、クーシュカ小屋を空けることは出来そうもない。
「だから私の代わりにオト、行ってきて?」
ルーチェの言葉にオトの迷いは消えたようだ。
「僕がお役に立てるのなら……」
「助かるべ!」
大翔は怖ず怖ずと答えるオトの手を取ってブンブンと振った。
「さぁさぁ、ヒロト様。お話も終わったのなら帰りましょう。ポエル様も心配なさっています」
「おう! じゃあ、またな! 二人とも!」
「うん、またね!」
大翔たちは別れ道で二手に分かれ、夜の街灯が照らす道を帰っていった。
二日後。
大翔は朝の身支度を調え朝食を終えるとすぐに農地へと向かった。そこでしばらく土いじりをし、オトとポエルの準備が整うのを待つ。この数日で透明なビニールハウスの中には黒いビニールカップが運び込まれており、大翔はそのカップの中に土を詰める作業をしていた。毎日欠かさず土を耕していたため、土中の空気、濃度は適正になってきているに違いない。
そうして着実にタネを植える準備をしていると、
「お待たせしました、ヒロト様」
旅支度を調えたポエルが姿を現した。ポエルの格好は普段着ているアシンメトリーのワンピースではなく、黒の膝丈ワンピースになっていた。胸元は相変わらずばっくりと開いており、そこからはたわわに実る胸と、その胸が作り出す深そうな谷間が見える。両腕を包む袖の部分はシースルーになっており、透けて見える素肌が大翔をドキドキとさせる。スカートから伸びる脚は黒ストッキングのようなもので包まれており、足元はショートブーツを履いていた。その足首にはゴールドの細いチェーンが巻かれている。そんなポエルの頭上にはワンピースと同じ素材で出来ているのだろう黒のベールがその存在感を出し、ポエルのピンクブラウンの長い耳を覆い隠していた。
こうして見るとポエルがウサギの垂れ耳を持った人物だとは判断できないだろう。
そして両手を後ろ手にして、自分の身長よりも長い十字架の付いた杖を持っている。
大翔がまじまじと旅装束のポエルを観察していると、
「ヒ、ヒロト様……? 何か、おかしな所でもございましたか……?」
ポエルが恐る恐る声をかけてきた。大翔はその声音にはっとし、
「あぁ、わりぃ! ポエルがあまりにも可愛すぎて見とれてしまったべ」
「……っ!」
大翔が苦笑気味に自身の頬をポリポリとかきながら言う言葉に、ポエルは一気に顔を上気させた。
ちなみに、ポエルに対する大翔の今日の衣装はと言うと、えんじ色のジャージである。スクールバックの中にも着替えのジャージを数着入れており、今、そのスクールバックは農地の端に置かれている。
大翔はその置かれているスクールバックへと近付きながら、
「じゃあ、ポエル。オトのところに行くべな」
そうポエルに声をかけた。ポエルはまだ高鳴る心臓の鼓動に戸惑いながらも、小さく頷いて大翔の後ろへと付いて歩いた。
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