五、超絶基本の、土作り!⑤

 その日も大翔は広大な農地の草むしりをしていた。手の空いた村人も数人、手伝いに来てくれており、かなり緑の占める割合が少なくなってきた。その分、必要な石灰の量も増えていくがそこは徐々に土中の濃度調整をしていこうと大翔は考えていた。

 そんな手伝いの中に今日はルーチェの姿がある。大翔はルーチェの傍に行くと、


「ルーチェ! 今日はもうクーシュカマダムのお世話は終わったべか?」

「クーシュカ、まだむ……?」

「あ、お姉さんって意味だべ」

「変なヒロト様」


 ついついカタカナの言葉を使ってしまった大翔だったが、適当にごまかした。ルーチェはそんな大翔の様子を気にした素振りも見せずに、


「今日のクーシュカのお世話はもう終わったの! クーシュカたちは変わりなく元気な様子で私も嬉しい」


 そう笑顔で言うルーチェに大翔も嬉しくなってくる。


「ところでヒロト様。こんなに雑草を集めているけれど、一体何に使うの?」

「草の使い道だべか?」


 そう、大翔はむしった草を一カ所に集めていたのだった。これは大翔の祖父もよくやっていたことで、乾いた草を燃やした後に残った灰を肥料として使ったり、苗床の上に敷いて土を温めたりと、使い道はあるのだ。

 そう説明したとき、大翔は一つのことを思いついた。


「そうだ! クーシュカマダムたちに、この新鮮な草を食べさせるってどうだべっ?」

「え?」

「採れたての新鮮な草だべ? いつ採れたか分からない牧草よりもおいしいかもしれないべ!」

「確かに……」


 大翔の提案にルーチェが思案顔だ。

 牧草が置いてある場所に、ずっと置いてあるからそれをクーシュカたちに当たり前のように与えていたルーチェだったが、大翔の言うように新鮮な草を食べさせてあげてもいいと思える。


「ヒロト様。この草、貰っていっても……?」

「いいべ、いいべ! むしろ、運ぶのを手伝うべな!」


 大翔は笑顔でそう言うと、農地の草むしりを手伝いに来てくれている村人たちに任せ、一輪車のようなものを探す。しかしそう都合良く一輪車が見つかるわけもなく、


(抱えて持って行くべかな)


 そう思っていた時だった。


「ヒロトー! ルーチェー!」


 聞き慣れた声が道の向こうからした。大翔とルーチェが声の方に顔を巡らすと、そこには案の定オトが駆けてくるのが見えた。


「オトー! いいタイミングだべー!」


 大翔は頭の上でぶんぶんと手を振ってオトの登場を歓迎する。オトは大翔とルーチェの傍に来ると、


「何かあったの?」


 二人の雰囲気を察してそう聞いてきた。それを受けた大翔が先程ルーチェと話していた内容を説明する。


「で、オトにも草を運ぶの、手伝って欲しいんだべ。……女の子を土だらけにするわけにはいかないべ?」


 大翔は後半部分をルーチェに聞こえないように声を潜めてオトに言う。その言葉を聞いたオトも大翔の言わんとしていることが分かったのか、少し顔を赤らめながらも頷いた。


「よーしっ! じゃあ、クーシュカマダムの小屋に向けて、出発だべ!」


 大翔とオトは持てるだけの量の草を持ちあげる。それからクーシュカ小屋に向かって歩いて行く。ルーチェも彼らの後ろから草を持ってついていった。

 道中、オトと大翔が笑い合いながら歩いている様子をルーチェが微笑ましく見つめていた。


「なぁ? ルーチェ!」


 その時突然、大翔が後ろを振り返ってルーチェへと同意を求めてきた。


「えっ? 何? ごめん、聞いてなかった」


 ルーチェは突然のことで面食らってしまう。それを見ていたオトが、


「ルーチェ、どうかしたの?」


 心配そうに声をかけた。ルーチェは、ううん、と首を横に振ると、オトへと笑顔を向ける。


「ヒロト様が、オトの親友みたいになってくれて、嬉しいなって思ってたの」


 その真っ直ぐな笑顔を受けたオトの顔が耳まで真っ赤に染まっていく。そんなオトの変化に気付いているのかいないのか、ルーチェは言葉を続けた。


「オト、ずっと私にベッタリでさ。でも今のオト、すっごく男の子って感じで、私は好きだな」

「好っ……!」


 笑顔で言われたルーチェの言葉に今度は完全にオトの足が止まる。俯いているその表情は見えなかったが、横を歩いていた大翔には見えていた。金髪の隙間から見える耳がこれ以上ないくらい真っ赤に染まっているのを。


(青春だべなぁ……)


 大翔はしみじみとしてしまう。

 足を止めてしまった男子二人を抜いたルーチェが不思議そうに後ろを振り返る。


「あれ? 行かないの?」

「あ、行く、行く! ほら、オト、行くべ」

「う、うん」


 ルーチェに促されたオトがようやく動き出す。その歩き方はどこかぎこちなく感じられたが、大翔はそのことには触れずにいてやるのだった。

 クーシュカ小屋に到着した三人は牧草の置いてある建物へと向かおうとしていたのだが、


「どうしましょう……」

「あぁ、悩ましいわ」

「どうしたものかしら」


 大翔の耳にはまだ聞き慣れないクーシュカマダムの声が届いてきた。思わず大翔がクーシュカ小屋の中を覗く。すると一頭のクーシュカを見つめるようにしているクーシュカたちの姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る