五、超絶基本の、土作り!③

 そうして石畳の上を石灰の粉の重さにフラフラしながら歩いていると、


「ヒロトー!」


 遠くから声をかけられ、大翔が声のした方を振り返る。そこには相変わらずの美しい金髪を風になびかせている、笑顔のオトが駆けてくるところだった。


「オトっ!」

「一つ、持つよ」


 大翔の傍にやってきたオトは大翔が持っていた石灰の麻袋を一つ持ってくれた。


「助かるべ。ありがとうな、オト」

「お安いご用だよ」


 大翔の言葉にオトが笑顔を返す。

 一袋でも結構な重さだったが、オトは大翔とは違い全くフラフラとする様子がない。大翔がそのことを尋ねると、


「僕は、一応この村の守り手、だから」


 だから、日々、鍛錬をしている成果なのだとオトは返してきた。その言葉に大翔は納得し、自分ももっと鍛えなくては、と決心するのだった。

 農地に辿り着いた大翔は、まずビニールハウスの中にあった農具を外へと運び出した。その後、ビニールハウス内に手に持っていた麻袋の中の石灰を撒いていく。ビニールハウスの土がまだらに白く染まっていく。


「ヒロト、何してるの?」

「これか? これは、土の濃度を調整してるんだべ。前にも話した通り、作物が育ちやすい土の濃度ってのがあって……」


 大翔は説明しながらもその手を一切止めない。中腰での作業を続ける大翔を見ていたオトは、大翔もたいしたものだと感じるのだった。


「それで、作物が気持ちよく育ってくれる濃度にするために、土にこの粉を混ぜ込んで、耕すんだべ」


 大翔は外に出していた農具を手に取ると、クワで土と石灰を混ぜ合わせていく。そうして一通りビニールハウス内の土を耕し終えた大翔は、


「よし! 次は外をやっていくべ!」

「あ! 僕も手伝うよ!」


 間髪入れずにビニールハウスの外の土も同じように耕そうとするのを、オトは手伝うことにした。二人が農地の一画で土作りに精を出していると、手の空いた村人たちも集まってくる。


「私たちにも何か、お手伝いできることはないですか?」


 そう言う村人たちも一緒に、農地に生えている雑草取りや石灰を土に混ぜ込む作業を進めていく。夕暮れ前には麻袋に入っていた石灰は全てなくなってしまっていた。


「まだまだ、骨が足りないべ。これだけ広大な農地だべ。皆、引き続き骨集めを手伝って欲しいっぺ」


 大翔の言葉に集まっていた村人たちが頷いた。しかし今日の分で適度な農地が出来上がったのも間違いない。小さな作物なら、今回の石灰がなじんだ頃に植えても構わないだろう。

 大翔はそう考えると、満足そうに少しずつ広がっていく農地を見つめるのだった。




 翌日。

 大翔がいつものように鏡の前で髪型のチェックを終えて食堂へと向かっていると、唐突に鐘の音が響き渡った。澄んだ高い音に驚いて、大翔は思わず廊下の大きな窓へと視線を移した。窓の外は昨日と大きな変化は見られない。強いて言うならば庭の花が少し咲き始めているくらいだろうか。


(何だったんだべ?)


 大翔が不思議に思いながら食堂の扉を開くと、


「おはようございます! ヒロト様! とうとう、フラムの季節が始まりましたよ!」


 ニコニコとご機嫌な様子のポエルが、大翔の元へと駆けてきた。大翔は耳慣れない言葉に疑問符を浮かべる。そこへ朝食の用意をしていたシュベルトがやってきた。


「ポエル様。ヒロト様は初めてのフラムでございます。きちんと説明なさるのがよろしいかと」

「そ、そうだったわね!」


 シュベルトの助言にポエルは姿勢を正すと、コホンと小さく咳払いをした。それからしっかりと大翔を見上げると、


「ヒロト様、先程の鐘の音はお聞きになりましたか?」

「お、おう」


 大翔は改まったポエルの言葉に緊張してしまう。何より、大きなブルーの瞳がうるうるとこちらを見上げているのだ。違う意味での緊張で心拍数も上がってしまう。しかしそんな大翔の様子にはお構いなしで、ポエルが説明を続けた。


「先程の鐘はですね、王国が季節の変わり目に鳴らすものでございます。つまり、先程の鐘の音で、寒い寒いルノイの季節が終わり、暖かいフラムの季節が始まったと言うことです!」


 説明を終えたポエルは、どうだ! と言わんばかりに胸を張っている。


「つまり、季節が移り変わったってことだべな?」

「その通りです!」


 大翔の確認の言葉にポエルが笑顔で応えている。


「フラムの季節はいいですよぉ! 何より、寒くないですから!」


 ポエルはそう言うと、ウキウキとしている様子を隠すこともなく、大翔の手を取った。


「さぁ、ヒロト様! 朝食にしましょう! そして、このフラムの良き日を祝いましょう!」


 普段よりも積極的なポエルの様子にドキドキしてしまう大翔だったが、それと同時にポエルが本当にフラムの季節を楽しみにしていることが感じられる。それが微笑ましく、大翔の頬は自然と緩むのだった。

 そんな二人の様子を、影のようにその存在感を消しながら、シュベルトは横目で見つめるのだった。


「いただきます!」

「いただきます!」


 ポエルと大翔は両手を合わせると、用意して貰っていた朝食に手をつける。今日はトヘで出来ている主食のブロードを始め、クーシュカの卵をスクランブルエッグのように炒めたもの、そしてスープがついてきている。相変わらず、シュベルトの作る朝食のおいしさに感服しながら、大翔は中に入っている野菜たちに注目していた。

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