五、超絶基本の、土作り!②
「これから毎日、ポエルに天気を聞いてもいいべか?」
「毎日、ですか?」
「んだ」
大翔の言葉にポエルの大きな瞳が不思議そうに揺らいだ。その瞳に大翔が応える。
農業をする上で、天気の移り変わりを知ることは作物の成長を助けやすくするのだ。天気の移り変わりを知っていることで、計画的に作物を作ることが出来る。
「だから、ポエルのその力は凄く助かるんだべ」
大翔の力説に、ポエルの顔がぱーっと明るくなった。
「それでは、私が毎日、天気をヒロト様にお伝えすることが、お手伝いになると言うことですか?」
「めちゃくちゃ、助かるべ!」
大翔が思わずポエルの肩をがしっと掴んで言う。それにポエルは嬉しくなって頬が自然と緩んだ。にっこり微笑むと、
「では、毎日、朝食の時間にお伝えします」
その微笑みに大翔の心臓がドクンと大きく跳ねる。
(あ、あれ? おかしいべ……)
それからドクドクと激しくなる心臓の鼓動に、大翔は戸惑ってしまう。
「お二人とも、早く食べないと、冷めてしまいますよ」
大きな窓辺で話し合っている二人に、シュベルトの冷静な声がかかった。大翔はその声にポエルの肩から手を離すと、ぎこちない動きで席へと戻った。
ポエルはと言うと、自分がこれから大翔のために出来ることがあると知られて嬉しそうで、軽い足取りで席へと戻るのだった。
朝食を終えた大翔はポエルと共に屋敷の前にある坂道を下っていった。朝食の時に暴れていた大翔の心臓もこの時には平常に戻っており、ポエルとの何気ない会話も出来るようになっていた。そうして坂の下まで来た大翔は、いつも右に曲がって向かう農地ではなくポエルと共に左へと曲がった。
「今日は皆さんから集めた骨や、ヒロト様が集められた貝殻を砕く日なんですよね?」
「んだ! どんだけ集まってるか、楽しみだべ」
大翔はキシシ、と笑うと真っ直ぐ続く社殿への道を歩いて行く。石畳は整備されており右手にはジャポニア村に滞在する旅人のための武具屋がある。左手はしばらく緑が続いていたがその後、錬金術師たちの
「それじゃあ、俺はこの中に用事あるから。ポエルもシトの世話、頑張れよ!」
「はい! それではまた、後ほど」
工場の前でポエルと軽い挨拶を交わした大翔は、大きな木造の観音開きの扉を開いた。中は天井が高く取られており、大きな窓が正面に取られている。その窓の向こうには大きな山が見える。窓の下に置いてあるローテーブルの上には大きなフラスコが何個も置いてあり、それぞれ違う、カラフルな液体がぷくぷくと泡立ち、煙を立てている。左右の壁際には天井まである高い本棚が置いてあり、その中にある本は全て分厚い。地震でも来て上から本が落ちてきたらひとたまりもないだろう。
「ヒロト様! 汚い工場ではありますが、ようこそ!」
「おう! みんな、おはよう!」
工場の中心には貝殻と骨が文字通り山のように詰まれている。この一週間、村人たちはたくさんの肉を食べてくれたようだ。
「大人も子供の、率先して毎日骨付きの肉を食べましたよ!」
そこまで広くはない工場の中を案内してくれる錬金術師の青年が話してくれた。大翔は一目で分かる村人たちの努力に感謝しながら、独特の香りに包まれている工場内を興味深くキョロキョロと見回している。
「これから、これらを粉にしていきますのでヒロト様、少し下がっていてください」
「お、おう……」
大翔が特に道具も見当たらないこの状況で、山となっている骨と貝殻が一体どう粉になるのか凝視して待っていると、
「せーのっ!」
何人かの錬金術師たちが骨と貝殻を囲み、両手を前に突き出す。それからかけ声をかけたその一瞬後、
ボンっ!
大きな音を立てて部屋にもくもくと煙が上がる。
「ゴホッ! ゴホッ!」
大翔はその煙を思いっきり吸い込んでしまい、思わず咳き込んでしまう。大翔は咳き込みながらも顔の前で右手をパタパタと仰ぎ、煙が薄れるのを待つ。しばらくすると煙がなくなり視界がハッキリしてくる。目の前にあったはずの骨と貝殻の山は一瞬にして二袋の大きな麻袋へと変化していた。
「スッゲェ! どうなってんだべっ?」
「これが、我々の扱う錬金術です」
両手を挙げていた錬金術師たちが大翔に向かってドヤ顔をしている。大翔は思わず拍手を彼らに送った。錬金術師たちがまんざらでもない顔をしている。しばらく拍手を送っていた大翔に、錬金術師の一人が、
「ヒロト様、是非、こちらへいらしてください」
そう言って大翔を手招きした。大翔が麻袋へと近付くと錬金術師が中を見せてくれる。中には真っ白な石灰の粉が出来上がっていた。
「どうでしょうか?」
恐る恐ると言う風に尋ねてくる錬金術師たちに、大翔は顔を上げると親指を思いっきり立ててニカッと笑った。その笑顔を見た錬金術師たちに笑顔が戻る。
「ありがとうございます! ヒロト様!」
「それはこっちのセリフだべ! ありがとうな!」
大翔は彼らに礼を言うと、その二袋の麻袋を両手に持ち上げる。そしてそのまま農地へと向かおうと出口へと向かった。錬金術師の一人が大きな出口の扉を開けてくれる。
「これからまた、農地ですか? ヒロト様」
「んだ。せっかく出来たこの粉を、農地の土に撒いてやらねぇとな!」
大翔はそう返すとそのまま農地への道に出た。
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