五、超絶基本の、土作り!

五、超絶基本の、土作り!①

 大翔たちが大量の貝殻を持ち帰った日から七日間ほどが経過した。この七日間、ジャポニア村の村人たちからは食べ終わった動物の骨を取っておいて貰うことにした。拾ってきた貝殻と共に粉状に砕いて、農地の土に混ぜ込むためだ。


「そうすることで、土の濃度が中性に近付いて農作物が育ちやすくなるんだべ」

「へー! ヒロト様って凄い! 本当に物知りなのね!」


 貝殻拾いの帰り道、大翔はルーチェとオトに今回の貝殻拾いの目的を話していた。話を聞いたルーチェは感嘆の声を漏らす。オトの方も無言ではあったが大翔の説明に納得している様子だ。

 それから何事もなく村に帰り着いた三人は、手分けして残った骨を集めておくように村人たちへと伝えて回ったのだった。


 そうして七日が経った今日、大翔は集めた貝殻と骨を粉にするべく、朝から張り切っていた。

 いつものように部屋に備え付けられている洗面台で顔を洗って、シュベルトが手配してくれた真新しいジャージに袖を通す。今日のジャージの色は深緑色だ。そうして鏡の前に立って、プリン頭の金髪を逆立てながら気合いを入れていく。


「うっし! こんなもんだべ!」


 どうやら納得のいく髪型になったようである。

 大翔はいつものように屋敷の食堂へと向かう。七日間以上滞在しているこのポエルの広大な屋敷の中、もう迷うことはほとんどない。


「おはよう!」


 大翔が元気に食堂の扉を開ける。中にはいつも大翔よりも早起きのシュベルトとポエルがいた。シュベルトはゆったりした柔らかい物腰で、朝食の準備を整えていく。ポエルは大翔の姿を認めると優しく微笑んで迎えてくれた。


「おはようございます、ヒロト様。今日もお元気そうですね」

「おう! ポエルも変わりないべか?」

「はいっ!」


 大翔とポエルの間にほのぼのとした空気が流れる。それをキッチンから横目で見ていたシュベルトはそっとため息をついた。


(まるで、新婚の夫婦のようですね……)


 シュベルトはそんなことを思いながら、湯気の立つ朝食を運んでいく。全てのメニューがテーブルの上に揃ったのを見て、大翔が手を合わせた。


「いただきます!」

「いただきます」


 大翔にならって、ポエルも手を合わせる。




「ここ数日、お忙しそうにしていらっしゃいましたが今日はどんなご予定ですか? ヒロト様」


 朝食をある程度食べ終わった頃、ポエルが大翔へと尋ねた。ここ数日、大翔は朝食を終えるとすぐに屋敷の外へと飛び出していた。向かう先は毎日、このジャポニア村の農地である。

 貝殻を拾った翌日には、広大な農地の片隅に大きすぎず小さすぎない、ビニールハウスが完成した。大翔はまず、そのビニールハウスの中の雑草を引き抜いていたのだ。少しずつ土が露出していく。さすがに一日でビニールハウス全体の草むしりを大翔一人で行うことは出来なかったのだが、


「おー、ヒロト様! 精が出ますな! どれ、手伝いましょう!」


 草むしり二日目になるとこう言って、村人たちが自分の手の空いた時間に大翔の手伝いをしてくれた。その中には、


「ヒロト!」

「オトでねーか!」

「僕にも手伝えること、ある?」


 そう言ってビニールハウスの中へと入ってくるオトの姿まであった。大翔はオトと取り留めのない話をしながら、ビニールハウスの草むしりを行っていく。

 その日からオトは連日、自分の守衛としての仕事を終えた後に農地に現れ、大翔の手伝いをしてくれた。大翔にとってオトは、異世界で初めて出来た同性の友人になっていくのだった。


「オトと村人の皆さんのおかげで、ビニールハウス内の草むしりはあらかた終わったからなぁ……。今日からはのんびり、ビニールハウスの外にある、農地の草むしりでもしていくべ」


 大翔はそうポエルに伝える。大翔の言葉を聞いたポエルは何かを考えている様子だったが、


「私にも、何か手伝えることって、ありませんか?」


 そう言うポエルの声音と視線は真剣そのものだ。その視線を受けた大翔の心臓がどくんと一つ跳ねた。それから大翔はどうしたものかと思案する。当たり前と言われるとそれまでなのだが、大翔はポエルの得意なことや苦手なことを全く知らずにいるのだ。


「ポエルは、あのシトのいる神殿で働いているんだべ?」

「はい。以前、ヒロト様にお渡しした木札を作ったり、ジャポニア村に災いが降りかからないように祈りを捧げてたりしております」


 大翔の質問にも、ポエルは嫌な顔一つせずに答えてくれる。大翔はその答えを聞いて少し考えた。

 この世界へ来て農業を行うに当たって、大翔には少し困った問題があったのだ。それはテレビがなく、天気予報が見られないことだった。気温も気にはなるが、それよりももっと根本的な、これから先の天気の行方が大翔にはサッパリ分からない。これでは今後の農業に支障が出てしまう。大翔はそう考えていたのだ。


「ポエルは、これからの天気とか、分かるべか?」

「お天気、ですか? はい、分かりますよ」

「マジかっ?」


 ポエルの返答に大翔は思わず立ち上がる。その大翔の勢いにポエルはきょとんとしていた。


(これは、地獄に仏だべ……)


 そう思った大翔の目の前にいるポエルには、後光が差しているように見えた。


「ポエル! 今日の天気、今、分かるべかっ?」

「は、はい。ちょっとお待ちください」


 大翔の勢いに気圧され気味のポエルは、椅子から立ち上がると大きく取られた食堂の窓辺に近付く。それから首を巡らせ、空の様子を見た後、振り返って大翔に口を開いた。


「今日は、日暮れ頃から厚い雲に覆われて、夜は大雨になります」

「おぉっ! ポエル、凄いべ!」


 大翔はポエルの天気予報に感動し、ポエルの傍まで行くとその両手を取った。それからぶんぶんと大きく両手を振る。

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