四、貝殻拾い⑤

 そうしてしばらくしていると日が傾き始める。いつの間にかルーチェの傍にはオトが合流しており、貝殻を二人で集めていたようだ。お陰でルーチェの持ってきたバケツの中には、大小さまざまな白い貝殻が集まり、バケツからこぼれ落ちそうな程である。

 大翔は二人に近付くと、自分の持っていたバケツに溢れんばかりの貝殻を移していく。


「あっ! ヒロト様! ありがとうございます!」

「構わねーっぺよ! それよりもオト! お前、めちゃくちゃカッコいいべな!」


 自分のバケツに貝殻を移していた大翔の元へ、ルーチェとオトがやって来る。気付いた大翔はオトの所まで行くと、その肩に手を回して話しかけていた。オトはメガネのないロイヤルブルーの瞳を恥ずかしそうに伏せている。どうやら普段の、気弱なオトに戻っているようだ。

 大翔はそんなオトの変化などお構いなしで、肩を組んだ腕に力を込め、オトの顔へと自分の顔を近づけると、


「魔物と戦うオトの姿は、ルーチェもきっと、カッコイイって思っているはずだべ」

「えぇっ?」


 小声で言われた大翔の言葉に、オトは思わず驚いた声を上げる。そんな二人へ、ルーチェが不思議そうに声をかけた。


「二人で何、コソコソしているの?」

「な、何でもないよっ!」

「そうそう。男同士の秘密だべ。なっ? オト!」

「何よそれ。気持ち悪いわね」


 ルーチェはそう言うと、冷たい視線を二人へと送る。しかし大翔はそんなルーチェの視線など気にもとめていないようで、ニヤニヤと笑っていた。


「そう言えば、ヒロトは一体、何を持っていたの?」

「お? 何の話だべ?」

「ギルマン襲撃の時の話」


 オトは大翔の腕から逃れると、先程のギルマン襲撃の際に大翔を守った物について尋ねてきた。しかし尋ねられた大翔に心当たりは全くない。試しにえんじ色のジャージのポケットをまさぐる。

 すると今朝、シュベルトから持たされていた十枚ほどの木札があったことを思い出した。大翔はその木札をポケットから取り出し、オトへと見せる。見せられたオトは、木札を目にした瞬間にロイヤルブルーの瞳を大きく見開いた。


「これは……!」

「出かけに、シュベルトさんに持たされたんだべ。確か、巫女の祈りが込められた札、だとか……」

「この札は、シト様の守護の力を、巫女であるポエル様が祈りと共に込められて守りとしたもので、神聖な木札なんだ。これを貰えるのは僕たち守衛の中でも、前線で戦う者のみ」


 だからこの木札は、もの凄く貴重なのだと、オトは説明してくれた。


「まさかこれを持っていたなんて……。さすがは救世主と言ったところなのかな」

「大げさだべ」


 オトの言葉に大翔はなんだか照れてしまう。しかしなるほど、この木札にはそんな意味があったのか。

 大翔は木札を目の高さに持っていき、まじまじと見つめた。


(ん?)


 そこで大翔は今朝見た木札との様子の違いに気付いた。


(なんか、明らかに枚数が減ってる……?)


 そうなのだ。赤い紐を通してまとめてある札の厚さが、今朝よりも薄くなっているように感じられるのだ。


「なぁ、オト。この札、貰った時よりも枚数が減っているように見えるんだが……?」

「さっき、ギルマンに襲われたときに消耗したんだよ。その札は、使えばなくなってしまうからね」

「へー……」


 オトの説明に、大翔はこの木札からポエルの村人たちへの愛情を感じるのだった。


「ねぇ、二人とも。そろそろ村に戻らない? 暗くなっちゃう」


 大翔とオトが、ポエルの作った木札の話をしていると、ルーチェが二つのバケツを持って話しかけてきた。言われて海の方を見ると、見事な夕日が水平線の向こうに沈もうとしているところだった。


「夜の魔物は強いから、急いで帰ろう」


 オトの言葉にバケツ二つ分のいっぱいに集めた貝殻を持って、三人はジャポニア村へと帰っていくのだった。

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