一、異世界への招待状⑤

 大翔は上りよりも慎重に下りの階段を下りていく。急な階段の割に、手すりや柵がないためにどうしても慎重にならざるを得ない。


「ヒロト様のお部屋は、私の家の部屋になりますので、迷わないように付いてきてください」

「ポエルの、家っ?」


 階下に降りた大翔は、かけられたポエルからの言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。その声にポエルが大翔を振り仰いだ。


「何か、問題がございましたか?」

「問題大ありだっぺな! 若い男女が一つ屋根の下で二人っきりの生活だなんてな……」

「二人きりの生活ではございませんので、ご安心ください」


 焦って言う大翔の言葉は背後からかけられた、渋い低めの声に遮られた。驚いて自分の背後を振り返った大翔の目に映ったのは、背の高い、執事服に身を包んだロマンスグレーのウサギ耳の人物だった。彼は確か、先程集まっていた人々に解散を促していた、あのジェントルマンに違いない。


「アンタは……?」

「申し遅れました。私はポエル様のお世話をしております、シュベルトと申します。以後、お見知りおきを」


 シュベルトと名乗ったロマンスグレーのウサギ耳男は、軽く自己紹介をしてから深々と頭を下げる。


「あ、俺は五十嵐大翔っす」


 柔らかな、しかし隙のないシュベルトの言葉に、大翔も思わず自己紹介をしていた。そんな大翔の様子に何を思ったのか、何も思っていないのか、シュベルトは無表情のまま大翔へと言葉を続けた。


「ポエル様のお屋敷には私も住んでおります。そのため、ヒロト様とポエル様が二人きりになることもございませんし、お部屋の方もヒロト様は私の部屋の隣でございます」


 だからポエルの部屋とは少し離れているのだと言う。

 シュベルトの説明を受けた大翔はなんだか少し残念な気持ちに襲われる。反面、年頃の女性と二人きりの生活ではないことに安堵するのだった。


(二人きりだったら、どうしたものか頭を抱えていたところだっぺよ……)


 そんなことを思っていると、


「ヒロト様のお荷物は、先に私がお部屋へと運ばせて戴きました」

「俺の、荷物?」

「さようでございます」


 シュベルトの言葉に全く心当たりがない大翔は疑問符を浮かべている。要領を得ていない大翔だったが、


「では、シュベルトも一緒に屋敷へ参りましょう、ヒロト様」

「あ、あぁ……」


 大翔は改めてポエルに促され、社殿のようなこの建物から出るのだった。

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