第16話 サクラの夢ーー風と共に夢の終わり

 その時、突風が吹いた。強い風だ。思わず猫の足でベンチにつかまる。そうしていないと、本当に吹き飛ばされてしまう気がした。


 ――あぁ。

 その時ふと、気が付いた。


 ――先生、これでお別れですね。


 吹き飛ばされるのは、意識が持っていかれるのに似ていた。


 ――また会える日を、楽しみにしてますから。


 意識が持っていかれて、現実に引き戻されるのだろう。


 ――最後じゃ、ないですからね。


 その発想は、すとんと胸の奥に落ち着いた。


 ――約束ですよ。


 強い風の中、揺さぶられる体で、必死に顔だけは先生に向けた。


現実に戻るその瞬間まで、この目に先生の姿を焼き付けた。



   ***


「――サクラ?」


鳴上爽文は、勝手に名付けていた猫の名前を呼ぶ。この黒猫、やっぱり雰囲気が佐倉に似てるなあ。艶のある黒髪と黒い毛並み。いつもかけていた青の太いフレームの眼鏡と、綺麗で青い猫の瞳……。


そんなことを考えてぼーっとしていたら、はっとするような突風が吹いた。


 気が付くと、隣のぬくもりは消えていた。


 風にかき消されたような、淡い猫の記憶。


「帰るか」


ひとり呟き、爽文は帰路につく。あの猫はきっと、ふらっとどこかへ帰ったのだ。飼い猫のようでもあったし。


公園を出る前に爽文は振り返り、


「またな」

    

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