第15話 子どもみたいな夢――桜咲かす雨
先生の独り言に、先生らしいと思う。教師を辞めても、独り言まで何かを誰かに教えるような内容ばかりだ。
私は先生の言葉を聞きながら、納得して並木道を歩く。
――昨日の雨は、散らす雨じゃなくて、ここの桜にとっては咲かせる雨だったのね。
並木道の終わりは、小さな公園に続いていた。
公園の中央には桜の木。その木の下にベンチがある。
「一休みしていくか」
先生は猫を見下ろして、私に笑いかけてくれた。
先生がベンチに腰掛けて、足をぶらぶらさせている。
――子供みたい。
私はそっと微笑んだ。
春の風に吹かれながら、先生はどこか遠くを見つめて、ぼーっとしている。
考え込んでいるというか、物思いにふけっているようだった。
そっとしておこうと、私は先生に寄り添って黙っていた。
猫の視点になって、首が痛いくらい上を向いて、やっと桜を見上げることができる。
公園の中央の桜の木はとても大きく立派だった。春の風にそよそよと揺れる枝が、暖かい気持ちにさせてくれる。
ここに来るまでの桜並木も綺麗だったけれど、空に向かって伸びる堂々とした一本の桜の大木の方が、私は好きだった。
なんだか、明るくなれる。前を向ける気がするから。
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