第17話 夢から覚める時

と言った。姿の無い、淡い猫の面影に向かって。姿は無くても、届くように。なぜだかここに来ればまた、会える気がしていた。



   ***


 目を覚ますと、優衣はここ一か月弱で過ごしなれた病室のベッドにいた。陽は大分傾いて、病室はオレンジ色に染まっている。


 ――そっか、昼寝しちゃったんだっけ。


 意識を手放す、猫になる直前の記憶を私は辿った。


 ガラケーを開き、メール機能を開く。


 先生の夢を見ました。


 そんな文面を打って、慌てて消した。連絡先を交換してから、連絡がしてみたくてたまらなかった。きっかけを探していた。


 ――いやいや! でもこの文面は危ない!


 やばい奴だ。


 そもそも、本当に夢だったのだろうか。随分とリアルで、時間まで現実とリンクしていた。


 ――でも、猫になるなんて……。


 それもまた信じられない話だ。


 ヴヴヴヴヴヴ……!


 その時、マナーモードの携帯が私の手の中で震えた。


「あわわわわっ!」


私は驚いて、携帯を落としそうになりながら慌てて画面を見る。新着メールを知らせる画面。


「わぁっ」


思わずため息のような呟きが漏れた。メールを開くとまず、携帯の画面いっぱいに桜が広がっていたのだ。メール内に、大きな桜の木を、見上げる形のアングルで撮った写真が添付されていた。

    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る