第4話 軽トラは街道を往く

 オレは街道の丘を登るように軽トラを走らせた。

 

 この街道は、土を固めたような地面にところどころ雑草が生えており、まるで現代日本の田んぼのあぜ道のような感じだ。決して平らとは言えず、大きな石ころや雨天時には水たまりであったであろう陥没があちらこちらに見受けられ、軽トラのサスペンションは大活躍だ。


 道幅は車1台分ほどで、対向車が来ればどちらかの車は道をよけて草むらの上に車を寄せなくてはすれ違うことはできないだろう。


 と、まあ、見ての通りの田舎道だ。激しい揺れが臀部にも届き、まさに全身でアスファルト舗装のありがたみを感じている。


 オレの住んでいたところも大概な田舎だったが、さすがにここまでの田舎道ではなかった。もしかして牧場? オレは牧場の中の道にでも迷い込んでしまったのか? だが、牛や馬や羊の姿は一匹たりとも見あたらない。牧草地? にしてはサイロのような建物も一向に見当たらない。


 「いったいここはどこなんだ?」


 と、ぼやいたところで視界の中に変化が現れた。

 目の前に伸びる街道? の左脇に大きな数本の木が見えた。その周辺は平らな広場のようになっており、ピクニックをするのに向いている感じの場所が広がっている。


 そして、そのひと際大きな木の脇に、明らかに人の手で作られた立て看板が立っているのを見つける。


「おお! 人工物だ! 現在地はどこだ! 家に帰る手掛かりはないかな?」


 もはや独り言の域を超えた叫び声をあげながら、看板に向けて軽トラを走らせる。


 いよいよ看板に書かれた文字が見える距離まで近づき、その文字を確認したところで、オレは妙な納得感とあきらめと絶望が入り混じった感覚にとらわれる。





「あっちゃ~、ここ、異世界だわ」


 




 看板に書いてある文字? 記号? は現代地球のどの国の言語でもなく、分かり易いピクトグラムのような絵でもなく。

 どう考えても難解摩訶不思議なマークのような記号のようなものなのだが、なぜかオレにはその書いている内容が自然に理解できた。理解できてしまった。


 

 これまでの状況を整理すると。

 

 仕事帰りに怪しい水たまりに突っ込んだこと。

 その後意識を失い、見たことのない場所に居たこと。

 現代日本では見たことのないような、狭くて舗装もされていない道。

 そして、決め手は見たこともない言語が理解できてしまう事。


 齢50になってもゲームやアニメ、ラノベをこよなく愛するオタク中年のオレの知識から導き出される答えはただひとつ。



 おっさんは軽トラごと異世界転移してしまったようです。


 

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