第9話 白梟《ホワイトアウル》


2ndセカンド、例の彼を連れて参りました」

「おー、ようやっと来たか」


 それまで何やらパソコンで作業していた男がこちらを振り向いた。

 その男は、少し暗めの水色にサラサラとした髪で綺麗な顔立ちをしていた。また、色白でなめらかな肌と、まなこが一切見られないほどの細い糸目が特徴的で、濃紺のうこん羽織はおりに灰色のはかまが特段際立っていた。


氷見ひやみ 冷温れおんや。よろしゅう」

安久谷あくや すいです。よろしくお願いいたします」

 軽くお辞儀をすると、氷見ひやみさんが沖美おきみさんに話を振った。


「のう、9thナインス、自分どこまで話しとるんや?」

「全く話していませんね。そもそも私は認めていませんし」

「なんや冷たいのぉ。同じクラスメイトなんやから、もう少し優しゅう接したらええやないの」

「そうする義理も理由も意味もないですし」

「相変わらずやのぉ」

「ええと、僕がどうかしたのですか?」


 若干話に付いていけず、どこか居たたまれない気持ちになっていたので、思い切って尋ねてみた。

「自分は別に何も悪うないで。せや、せっかくやからちょっとボクらについて説明したる」

 座りっぱなしのまま、とあるモニターに指をさしたそのタイミングでモニターに電源が入り、白い画面に文字が映し出された。


「まず初めにやが、ここは『白梟ホワイトアウル』っちゅうクランのアジトや」

「『白梟ホワイトアウル』・・・・・・」

 無意識にその名をつぶやいた。結構小さい声にもかかわらず、氷見ひやみさんには聞こえていたようだ。

「せや。知ってはおると思うが、【アンチ】にも色んなタイプがおってのぉ、そいつらを倒すために【アンチスレイヤー】同士でいくつか徒党を組んどるんや。その中の一つと思ってくれたらええ。まぁ、自分みたいにどこにも所属してない野良アンチスレイヤーも中にはおるけどのぉ」

「そうなんですね」


 トーラスと出会った時から他にも【アンチスレイヤー】がいるのかもしれないと推測はしていた。沖美おきみさんとの遭遇そうぐうで確信を得ていたので、やはりそうだろうなというのが僕の感想だった。


 それより先程から気になっていることをぶつけることにした。

「いくつか質問いいですか?」

「ええよ、何やの?」

「まずはですが2ndセカンドとか、9thナインスとか仰ってましたけど、何の序列じょれつなんですか?」

「その説明すんには、まず『白梟ホワイトアウル』の構成要員から話さんとな」

 モニターの画面には別の図が映し出された。


「ボクらのクランは大きく分類すると、二つに分かれとる。一つが【アンチ】との戦闘を主とする戦闘部門で、もう一つがクランの運営や戦闘部門のサポートを担う間接部門や」

「ふむふむ」

「両部門の下にも様々な部隊やチームに分かれとるんやが、そこはポイントやないから今回の説明では省く。んで、『白梟ホワイトアウル』では両部門の中で際立った功績や手柄を立てた人材に『無上の立役者グレイテスト・ナンバーズ』の称号を与えとる」

「『無上の立役者グレイテスト・ナンバーズ』……」

「せや。そして、ボクらが呼んでるんはその『無上の立役者グレイテスト・ナンバーズ』の称号を与えられた順番やな。つまり、9thナインスは九番目にその称号を得たから9thナインスっちゅうわけ。これが質問の答えや」

 

 いくつか新しい単語が出てきたので、脳内で整理する。理解を深めてすぐ次の質問をぶつける。

「分かりました。次にですが、複数人がチームを組んでまでアンチを倒す理由は?」


 正直言って、今一番気になっていることであった。僕はどちらかというと愉悦ゆえつのために戦っているが、他人が同様の理由で戦っているとは正直考えにくかったためである。

 返事を待っていると『よくぞ聞いてくれました』と言わんばかりの表情を浮かべていた。


「その質問に答える前に悪いが、こっちの質問に答えてもらう。自分をここに連れてくるよう9thナインスに頼んだのやけど、それが何でか分かるか?」


 次に尋ねようとした内容を聞かれてしまった。むしろこっちが理由を知りたいくらいなのだが、そのように尋ねるということは、何かしらの意図があるはずだと判断し、思い描いた考えを述べる。

「僕を仲間に引き込みたい・・・・・・とかですかね」

 答えを聞いた眼前の人物は、真横に開いていた口の両端が上に少し曲がっていた。

「ほぉ。何でそう思うたんや?」


「例えば仮に僕に何かをさせたいのであれば、タイミングから考えて昨夜の方がベストであったはず。あの時の戦闘で何かと消耗していましたしね。

 加えて、これまでの発言から昨日電話したのは氷見ひやみさん本人か関係者によるものと分かりました。その電話の後で彼女は言ってたんですよ『命拾いしたみたいですね』と。

 そのことを考慮に入れると、脅迫や命令等で僕に何か悪さをさせるとは思えませんでした。

 さらに、ただの顔合わせをするだけならわざわざこのアジトで行う必要も上の喫茶店の存在を知らせる必要もありません。それだけ大事な要件があるとしたらそれくらいだろうというのが理由です」


 ざっと思い付いたことを述べてみた。僕の話を聞いた氷見ひやみさんの顔が少し満足げに微笑ほほえむ。

「なるほどな、一応論理の筋は通っとるな。探せばあらはあるやろうが、まぁ及第点や。実際勧誘しようとしてんのはその通りやしな」

「予想が的中したようで何よりです。では先程の質問に答えていただけますね?」

「知っとるとは思うが、アンチを倒すと欠片が出て来るやろ? それを集めるために戦っとるんや」

「何のためにですか?」


 質問には答えてもらったが、これでは納得がいかない。それはあくまで手段だ。その目的が分からなければ意味はない。しかし、氷見ひやみさんはさっきとはまた違った笑みを浮べた。今度は意地の悪そうな笑みであった。

「残念やけど、無料分はここまでや」

「そうですか。これ以上知りたければ仲間になれ、そういうことで合ってますよね?」

「おー、その通りや。どうや?」


 僕は損得勘定を始めた。詳細はまだ不明だが、今の時点で考え得るメリットはいくつかある。トーラスが知らない情報を得られる、強力なアンチに出くわした際にチームで戦える。そしてデメリットについてだが、それはもう充分にある。

「お断りします。これまでの経験上、どこかに所属するっていうのが性に合わないんですよね」

「ほぉ、それは残念やのぉ」


 言葉とは裏腹に態度は本当に残念そうには見えなかった。まるで僕が断ることは前以って知っていたかのようだ。それならそれで不可解ではある。わざわざ本拠地に連れ出して、メンバーに引き込もうという割には、そう思わせる行動に移さない。

 ちぐはぐというか、コスパが悪いというか、とにかく非合理的であった。そんな所感を抱いていた。けれど、それは間違いだった。


「せっかく、とは残念やのぉ」

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