22話 Am

 最近外に出たら、優しそうなおじいさんが俺に向かって「私はカラオケが趣味なんですよ。もしうるさかったら言ってくださいね」みたいなことを言った。俺は「音は全然気にならないので平気ですよ」と笑って返した。たしかに、たまに階下から演歌が聞こえることがあった。だが本当に小さい音しか聞こえない。このアパートは防音性に優れていると思う。俺がギターを弾きながら歌っても苦情が来たことはない。


 書きたいこともだんだん無くなってきた。


 とりあえず今は酒飲んでタバコ吸っている。


 今、鴉ってバンドのAmって曲を聴いてる。激しくてかっこいいからおすすめ。歌詞も良い。鴉は高校生の時にツタヤで借りて聴いた覚えがある。当時はまだサブスクは主流ではなかった。いま俺はAmazonミュージックを使っていて月に1000円払っている。基本どんな音楽も聴ける。


 一人暮らしして酒とタバコと薬とネットで生きてるだけだから、もう書くことがマジで無い。


 過去のことを書いてもいいのだが、過去を思い出すのは疲れる。俺の過去はろくなもんじゃない。


 よく思い出す俺の過去は、カクヨムの読者さんとリアルで会った日のことだ。あの日のことはよく思い出す。


 ◆


 昨日は日曜日だったが、久々に楽しかった。


 ネットで知り合った人が、俺のアパートに遊びに来てくれたからだ。


 元々1年くらいの関わりがある人だ。


 俺のアパートに来たいと言ったので、最寄り駅とアパート名と部屋番号を教えた。住んでる県は割と近い。


 最寄り駅まで迎えに行って、コンビニで適当に酒とか買って、出前のピザ頼んで、部屋で2人で喋りながら酒を飲んでいた。楽しかった。ちなみに20の女の子だ。


 適当に映画を見たりした。


 4時間くらいしたら、やることがなくなってきたので、酔った勢いで俺はsyrup16gのセンチメンタルをエレキギターで弾き語った。ちなみにFender社の黒と白のテレキャスターだ。俺は高校時代からテレキャスター使いである。


 俺が歌ったら、上手いと褒めてくれた。俺はロックスターになった気分だった。


 ちなみにその子に手は出さなかった。


 ゆっくり築いてきた関係性を性的な交わりで消費することの虚しさを俺は知っているからだ。体の繋がりはくだらない。だから心で繋がりたい。


 俺がベランダに出てタバコを吸ってたら、その子もタバコを吸ってみたいと言ったので、俺は吸い方を教えながら一本あげた。


 その子は顔を少し歪めた。そのあと「まずい」と言って笑った。可愛かった。


 その子は俺の部屋にあるモルカーのぬいぐるみを撫でていた


 ◆


 俺はもう何も期待しなくなった。自分にも世界にも。


 感受性というやつが薄れていっている。


 全てがどうでもよくなっている。何も感じなくなってきている。心が揺れなくなっている。


 アルコール依存症の人は、ドーパミンを自分で生成することができなくなるそうだ。ドーパミンが消えると無気力になる。


 何も感じない。


 死にたい気持ちだけが今は漠然とある。


 だが、人間は、生かされている限り何らかの意味がある。って誰かが言ってた。


 俺が存在することにも多少の意味がある。


 多分。


 ツイッターのDMの方で、いつも俺の文を読んでると言ってくれた人がいた。俺が死んだら私も死ぬと言ってくれた人がいた。


 何人も、いつも読んでくれる方がいるので、感謝する。俺は恵まれている。


 理解者が沢山いる。


 でも、なんかもう俺は大したことは書けそうにない。


 俺は良くも悪くも落ち着いてきた。昔みたいなぶっ飛んだ文章は書けなくなってきた。


 ◆


 俺は基本的に、俺の読者さんの作品は読むようにしている。読んでくれたお返しがしたいとか、そういう理由ではない。


 俺の文を継続的に読んでくれる人は俺と価値観が似ている人が多いから、読んでいて共感できたり楽しかったりする。それが読む理由だ。


 あと、俺の読者はみんな優しい。


 たった1人の例外も無い。


 なぜかみんな優しいのである。


 俺は17歳の時からネットで文章表現をしているが、みんな優しかった。


 そういう人たちのお陰で俺は今日まで生き延びることができたと思っている。


 俺が孤独を書けば、それを見てくれる人がいる。だから俺は孤独ではない。


 多分、俺の文を読んでくれる人は精神的に孤独な人が多いと思うから、俺は俺の読者さんの文を読むようにしている。


 あなたは一人ではないのだと伝えたい。


 広大なネットの海で俺の文を見つけてくれた人には感謝してるし、俺はあなたを勝手に俺の仲間だと思っている。


 だからたまにあえてポジティブなことも書く。


 俺自身がほとんど引きこもりのくせに、外に出ろとか書いたりする。


 俺だけが幸せになっても意味がない。


 unknownファミリー全員で幸せになろう。


 お前たちと俺はファミリーだ。


 絶望なんかに用は無い。希死念慮なんか殴り飛ばせ。


 どうせ人間の命なんて、宇宙の命に比べたら一瞬の閃光だ。自殺しようが寿命を全うしようが同じことだ。だったら少しでも今より幸せになろう。


 ここでは年齢も性別も関係なく、一つになれる。


 老若男女関係無い。国籍も関係無い。美醜も関係無い。黒人も白人も皮膚を剥いだらみんな同じだ。


 俺たちは幸せになる為に生きている。




 次回に続く

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