18話 人間プログラム
今も酒を飲んでいる
たばこをすっている
俺は本当は死にたくない
まだ26歳になったばかりだ
でも俺は死んでしまう
アルコールの離脱症状による「振戦せん妄」と「ウォルニッケ脳症」を起こしたことがある。どちらも死亡率が高い状態だ。これらは本当に重度のアルコール依存症の奴しか発症しない。俺は本当は今すぐにでもアルコール依存の病院に入院するべきなのだが、入院は絶対したくない
医師からもとっくに診断されているが、俺は本当に重度のアルコール依存症だ
紙を見た。ガンマgtpは1800もある。50でも高い数値なのに、桁が違う。
多分俺はもうすぐ死ぬ。自殺しないとしても酒のせいで死ぬ
俺は本当に危ないところまで来ている。命の危険が来ている。
なのに、どうしてこんなに他人事みたいなんだろう
死にたい気持ちが多分そうさせている
素敵な未来なんて最初からない
死ねるならそれでいい
◆
彼女とは、結婚する寸前まで行った
彼女は結婚したがっていた
俺も結婚したかった
俺に発達障害や精神病やアルコール依存症が無くて、ちゃんと仕事してる人間だったら、本当は彼女の赤ちゃんが欲しかった
アルコール依存症が全て終わらせてしまった
彼女を抱きしめた
彼女はPMSが強いからピルを日常的に飲んでいた。だから妊娠の心配はなかった
妄想と現実の区別がつかないのは怖い
膣の中はあたたかい。人の体温に触れると死ぬほど安心する。生まれてよかったと思える
孤独を分け合う。全ての罪が許された
◆
アルコールなんて単なる超危険ドラッグだ。
また頭が狂うのが怖い
アルコールによる振戦せん妄は、統合失調症の陽性症状の一番ひどい時みたいな感じだ。統合失調症に物凄く酷似していると思う。それに加え、身体的にも異常が起きまくって、普通に死に至る可能性がある。
本当に苦しい
パニック発作も起きる。幻聴はずっと鳴り止まないし、幻覚だって見える。
幻聴を幻聴と認識できず、本当に存在する声だと思ってしまう
思考や行動の盗聴をされていると本気で思ってしまう。一挙手一投足が監視されていた。
あまりに苦しくて、俺はアパートの2階から飛び降りてしまった
現実と妄想の区別が全くつかないのだ
俺は自分が大きな犯罪をしてしまったという妄想に取り憑かれた。パトカーが来る前に自殺しなければならないと思い、何の躊躇もなく飛び降りた。
本当に頭が狂ってしまった
今は正気だ
もう俺は実家にはいられなくなった
親が俺を実家に置いておくことを拒んだからだ
頭が本当に狂ってしまった時、俺は、警察を呼ぼうとした。だが俺は、引きこもり支援のNさんという人を電話で家に呼んだ。Nさんは俺が唯一頼れる大人だった。
本当に狂っている時は、自分が狂ってるのではなく世界や周りの人が狂ってるのだと思ってしまう
俺はNさんの前で大泣きしながら、意味不明なことをずっと喋っていた
Nさんも泣いていた
俺の親も泣いていた
ちなみにNさんのお兄さんは何十年も引きこもりでアルコール依存症だった
Nさんはとても優しい人だ。実家の猫はNさんのところに行って、頭を撫でられていた
◆
俺は今、酒の本数を制限している。
俺は大丈夫だ。
気は狂ったりしない。
俺がアルコールで狂った時、幻聴や被害妄想がひどかった。
実際には聞こえるはずのない声がずっと聞こえる。その声は全て、自分に対する悪口や噂話だ。
他には、家の外から戦争の音が聞こえたり、女の人の絶叫が聞こえたり、パレードや祭りの音が聞こえたり、シンセサイザーの電子音が聞こえたり、近隣住民からの悪口が聞こえたりした。
夏のことだった。
あれほど辛い思いをしたのは、人生で初めてだった。
身体的な症状もひどくて、自分1人では立つことすらできなかった。全身がガタガタ震えた。歩くことすらままならない。ある時、意識が遠のいていく感じがあって、俺はその瞬間、このまま意識を失ったら俺は死んでしまうと思った。目を閉じていたら本当に死んでいたと思う。
頭が痺れる感じが常にしていた。おそらく脳が出血していた。親は俺を病院には連れて行かなかった。俺は死ぬのだと思った
ウォルニッケ脳症が起きていた。
自分が誰なのか分からなくなった
自分の名前を忘れていた
幻覚を見た
壁に、俺が書くべき言葉が書かれていた
◆
俺はアルコールの離脱によって、擬似的に統合失調症の陽性症状を強く体験した。
幻聴や妄想が現実だと感じる。
あんなに辛くて怖いものはない。
思考や言葉の盗聴は実際にあった。
俺だけでなく、家族の行動や発言すらも盗聴されていた
そして家の近所の人々が俺たちを馬鹿にしていた
俺は必死に家の中で盗聴器を探した
家中に盗聴器が仕掛けられていると本気で思い込んでいた
俺のスマートフォン自体が盗聴器だと確信した
スマホは怖くて全く触れなかった
俺は完全に狂った
今すぐ入院させてくれと親に何度も言った
だが親は俺を入院させなかった
◆
負の感情が爆発して俺はずっと大泣きしていた
俺の親も泣いていた
あんなに苦しい思いはもうしたくない
本当に辛かった
当時は、ちょうど安倍晋三が銃殺された時期だった
俺はそれも怖かった
ニュースがとても怖かった
戦争のニュースも怖かった
◆
人間は死期が近づくと、子孫を残そうとする本能が働いて性欲が強くなるらしい
俺もそれは実感した
俺は体調が少し良くなってきた頃、実家の自分の部屋でマスターベーションをした
すると、全く勃起していないにも関わらず、ありえないほどの量の精液が出てきた
ちなみにそれも盗聴されていて、監視されていた
と、思い込んでいた
俺にとっては盗聴も監視も現実だったから、家族がどんなにそれを否定しても、俺はそれを更に否定した
「どうして聞こえないの?」と俺は何度も言った
俺以外には聞こえない声だった
俺は家の中でずっと怖がっていた
被害妄想が頂点に達した時、俺はアパートから飛び降りた
怪我をした
◆
デストルドーが本当に半端ない時、俺はリビドーを何とか復活させようとした
デストルドーとは死に向かう欲動のことで、リビドーとは生に向かう欲動のことだ
酒で頭が狂ってる時、テレビに映る女子アナがありえないほど可愛く見えた
リビドーだった
◆
俺の彼女はかわいかった。あと精神を病んでいた
性欲とは単なる罪である
人間と繋がりたい、一つになりたい、溶け合いたい
そう思う本能が不幸を連鎖させてしまう
死にたいと思ってるくせに赤ちゃんを作りかねない危険な行為をする
実際、好きな人と溶け合って一つになった時の幸福感は半端ない
どんなドラッグよりも多幸感があるのではないかと思う
動物の頭に必ずプログラムされた罪だ
こんな幸せが普通に世の中にまかり通っている
恋愛のことしか頭に無い人の気持ちも分かる
俺も実際そんな感じだ
俺の書く小説はほとんど恋愛要素が出てくる
今は小説とか書く気にならない
いつか書くと思う
◆
精神薬を飲んだ
気分が楽になった気がする
◆
今、俺は楽しい気分だ
酔った勢いで、人と喋りまくったからだ
酒は竹馬の友であると同時に、最悪の敵でもある
次回につづく
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