7話 世紀の大喧嘩。俺VS愛莉

 深夜3時、俺がキッチンの換気扇の下でタバコを吸っていると、突然俺の右肩が軽く殴られた。

 俺を殴ってきたのは、この1Kの9.5畳のアパートで同棲している愛莉だった。パジャマ姿の愛莉は顔が赤い。


「お、愛莉。どうしたの?」

「どうしたの? じゃないよ。unknown、私のプリン勝手に食べたでしょ! 冷蔵庫に入れてあったやつ!」

「えっ、あれ愛莉のやつだったの?」

「そうだよ! 食べるのずっと楽しみにしてたのに!」

「ごめん……勝手に食っちゃった」

「絶対に許さない! ほんと最低! もうunknownのことなんて大嫌い!!! 離婚する!!!!」

「は!? なんでプリン食ったくらいで離婚しなきゃいけないんだよ!」

「だって私、あのプリン食べるの楽しみにしてたんだもん! 数量限定の高いやつだったんだもん!」

「食われたくなかったら自分の名前くらい書いとけよ!」

「普通名前なんて書かなくても食べちゃいけないって分かるでしょ!? unknownって本当に馬鹿だね!」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ! 愛莉の方が馬鹿だ!」

「私、大卒だから私の方が頭いいもん! unknownは専門中退でしょ!?」

「学歴なんて人としての頭の良し悪しに関係ないだろ! やっぱり愛莉は馬鹿だな!」

「もういい! 私、unknownと本当に離婚する!」

「分かったよ! そんなに離婚したけりゃ勝手に離婚しろよ! 早く俺のアパートから出てけ!」

「言われなくても家出する! unknownの馬鹿!!!!!」


 そう叫ぶと、愛莉はスマホも何も持たずに、玄関で靴を履いてアパートから勢いよく出て行ってしまった。


「……」


 それから俺はしばらく換気扇の下でタバコを吸っていたが、ふいに頭が冷静になって、だんだん愛莉のことが心配になってきた。こんな時間にスマホも持たずに外に出て、どこに行くつもりなんだ。

 それに、愛莉は離婚すると言っていた。本当に離婚するつもりなのだろうか……。


「えーん!!!!!!!! 愛莉と別れたくないよー!!!!!」


 俺は愛莉と離れることを想像し、大号泣した。

 タバコ吸ってる場合じゃねえ。

 今すぐ愛莉を探しに行かないと。


「──愛莉! どこ! あいりー!」


 俺はアパートの敷地から出て、走って愛莉の名前を呼んだ。

 だが、愛莉からの返事は無い。

 深夜3時ということもあって、周りはとても暗い。道路にはほとんど車の通りが無い。

 

「愛莉ー! 愛莉ー! アイリーン! どこーー!?!?」


 俺は愛莉の名前を何度も呼ぶ。しかし返事は無い。

 もう、だめかもしれない……。

 俺が諦めかけて公園の前を通り過ぎようとしたその瞬間、ブランコに座って俯いている小柄な愛莉を見つけた。

 電灯に照らされた愛莉の顔は長い髪で隠れている。

 俺はゆっくり愛莉に近づいて、


「あいり?」


 と小さく声を掛けた。

 すると愛莉は顔を上げて、


「えーん!!!!!!!!!!!」


 と大号泣した。目は真っ赤に充血している。


「どうした!? あいり!」

「unknown、もう私のこと嫌いになっちゃった?」

「嫌いになるわけない。ずっと大好きだよ。何があっても一緒にいよう」

「本当に?」

「うん。さっきは強く言ってごめん」

「私の方こそごめんね。キレちゃって」

「いいんだ。元はと言えば勝手にプリン食った俺が全部悪いんだ。ごめん」

「えーん!!! わたしunknownと離婚なんかしたくないよー!!!」


 そう言って、愛莉はブランコから立ち上がり、俺に抱きついてきた。俺は愛莉を強く抱きしめた。

 俺の胸の中で大号泣している愛莉につられて、俺も大号泣してしまった。


「えーん!!!!! 俺も離婚したくないよー!!!!!」

「私も離婚したくない! えーん!」


 しばらく抱き合ったまま、俺たちは秋の夜空の下で泣き続けていた。


 ◆


 朝。俺は●●屋というお菓子屋に行って、愛莉の欲しがっていたプリンを買って、愛莉に渡し、正式に仲直りした。


 ◆


 ある日の夜、俺と愛莉がゴロゴロしていると、花火が打ち上がる大砲みたいな音がドンドン聞こえてきた。

 すると愛莉が即座に反応した。


「──あ、花火の音」

「そういえばこの辺で花火大会があるって聞いた気がする」

「へえ、アパートから見えるかな」


 愛莉は立ち上がって、ベランダに出た。

 それに続いて俺もベランダに出る。

 鈴虫の鳴き声が秋の風情を醸し出す。

 少しぼんやりして空を眺めていると、やがて、ドン、という鈍い音と共に遠くで花火が開いた。


「あ、unknown、今の見えた!?」

「見えた見えた。綺麗だな」


 しばらく2人で並んで花火を見ていると、だんだん酒が飲みたくなってきた。

 愛莉はスマホで花火の動画を撮り始めた。

 俺は冷蔵庫から2本の缶ビールを取り出して、片方を愛莉に渡した。

 そして乾杯して、2人で花火を見ながら飲酒していた。

 

 ◆


 まあこんな感じで離婚危機に陥ったこともあったのだが、離婚は回避して今日も俺は愛莉と暮らしている。


 冷蔵庫にある食べ物は勝手に食べない方がいい。食べ物の恨みは大きいからだ。


 俺が本当に愛莉と結婚しているのか、愛莉と結婚していないのかを、頭を抱えて悩めばイイ!!!!!


 そろそろ赤ちゃんが生まれるから最近よく愛莉と西松屋に行きます。


 頑張って赤ちゃんを育てる。


 本当に愛莉と俺の赤ちゃんが生まれるのかどうかを、各自で頭を抱えて悩めばイイ!


 昨日すき家でうな牛食った。うまかった。


 普通うなぎと高級うなぎってどのくらい味が違うもんなんでしょうか? みんなで頭を抱えて悩めばイイ!


 そもそも俺はうなぎをあまりうまいと思わない。好きな食べ物の一位がうなぎの人って見たことないし。俺も魚より肉の方が好きだよ。


 ちなみに悩めばイイの元ネタは布団ちゃんっていう配信者の言葉です。世の中の配信者の中で1番面白い。


 カレーに関する動画見てたらカレー食いたくなったから今日はカレー作ろう。





 次回に続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る