第7話「アイカの夢」

 月明かりがアイカとチカを照らす。



「ねえ、アイカはなぜオペラハウスにいるのですの? アイカはアイドルがしたいのでしょう?」

 ヴァンパイア(吸血人属きゅうけつひとぞく)チカはライカンスロープ(獣人属けものひとぞく)達が経営するメイドカフェをあとの夜道、防護服のいらなくなった町を涼みながら歩く。


「オペラハウスの人にお世話になったとかいろいろあるけど、実は私、夢があるの、私、自分のライブハウスがほしいの! アイドル専用ライブハウス!!」

 アイカはそれを笑われるかもしれないと思いつつ意を決してチカに言ってみた。


「自分のライブハウス?」

 チカは驚く、チカは音楽をやってはいたが自分の専用のライブハウスを持ちたいなどとカケラも思わなかった。


「そう、アイドル専用ライブハウス! アイドル専用ステージ!!」

 アイカは言葉をみしめる。


「どうしてですの?」

 チカはアイカの本気の顔を見て詳しく聞きたくなった。


「これはね、私のマネージャーさんの前野さんの持論なんだ、アイドルはどれだけファンに見てもらえるかが重要なの、たくさんの時間をファンと共有できればそれだけ自分を応援してくれるファンが増える、ファンが増えれば少しつづ大きなステージを目指せる、でも小さな事務所だと簡単にイベントも組めないしファンもそこの事務所のアイドルを知らないまま通り過ぎてしまう」

 ライブを繰り返すごとにファンに直接会うごとに真のファンが増えていくというのは前野マネージャーの持論である。


「じゃアイカはそのマエノのやり方を信じて活動してるんだ」

 アイカの懸命さは元からの性格もあるだろうがそのマエノの指導の賜物たまものだと言えるのだろうとチカは思った、アイカが話すマエノの話はアイカの信頼に満ちていたからだ。


「うん、前野さんもね元アイドルだったんだ、私が今やってる事、笑顔を絶さない、諦めない、いっぱい握手する、いっぱいお手紙を書く、たくさんのサインをする、あとグッズ作りとかもそう、前野さんがアイドル時代にやってた事なの、全部前野さんに教わったんだ、でも今は前野さん裏方さんになっちゃった…………、チカ、私ね、別に裏方さんがダメって言ってるんじゃないのよ、でも前野さんはきっと……」

 アイカはそこまで言って途中でやめた、アイカの笑顔が少しだけくすむ。


「…………」

 チカはその誰とも知らないマエノの事を思った、マエノはきっと夢を諦めたく無かったんだと、今のアイカのように走り続けたかったんじゃないかとチカは思った。


「ねえ、アイカ、わたくしもオペレッタやれるかしら?」

 チカはアイカの顔も見ず先へと進み背中ごしにそう言った。


「ホント!? チカ!!」

 アイカがチカに駆け寄り嬉しさがあふれるようにチカを抱きしめる。


「だってわたくしも、わたくしの歌を好きって言ってくれた人がいるのですの、わたくしもその人の為に輝きたいと思ったですの」

 チカはアイカとの路上ライブの時に駆け寄ってくれたミノタウロス(牛人属うしひとぞく)のミノタを思い出す、あんなに喜んでくれる人がいるならもう少しその人が誇れる自分に成りたいとそう変われる自分になりたいとチカは思った。



 アイドルは人に愛される事で輝き方を覚え、愛をくれるファンが増えるたびにその輝きを増すのだ。

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