第6話「ライカンメイドとアイドル(2)」

「いかがでしたアイカ? コカトリスの卵のオムライスは」

 ケモ耳ライカンスロープのメイドカフェでヴァンパイア(吸血人属きゅうけつひとぞく)のチカはコカトリス(蛇尾鶏属へびおにわとりぞく)の卵で作ったオムライスの味について聞いてみる。


「ケチャプで書かれた五芒星がなんだか呪いにでもかけられたみたい……」

 アイカが食べたなんだか『ジャリジャリ』とした舌触りのオムライスはその味の感想を拒否したく成るような代物だったらしい。


「おしいかったですか~」

 ウサ耳メイド、ワーラビット(卯人属うさぎひとぞく)のウサコが嬉しそうに味の感想を求めてきた。


 メイドさんを傷つけてはいけない。


「独特の風味と舌触りがあって、人生の経験値を上げてくれるような素敵なオムライスだったわ」

 アイカは少し涙目でそう言った、アイドルとしての食レポスキルが今ここでやくだった、決して不味いなどとは言わずそして美味しいなどと嘘をつかない『ギリギリ』のラインを狙った言葉のチョイスだった。


「ホント~、良かった、何時もお客さんには「砂でも入ってんのかオラ!!」って怒られるから心配してたの~~、流石本場のオムライスを食べた事があるアイカさんね♪」

 アイカは失敗した、まさかお墨付きを与える結果になろうとは、これではこのコカトリスの卵のオムライスがこの異世界で定番のオムライスになってしまう!!


「あ、あのウサコさん? 今度私が私流のオムライス作るから食べてみてくれないかな」

 頑張れアイカ、異世界に正しいオムライスを布教するのだ。


「ホント♪ ボクもアイカの作ったオムライス食べたい! ぜひ作ってよ♪♪」

 ウサコは心から嬉しそうだ。


 アイカは思った、やっぱり不味いって素直に言えば良かった、人は時に残酷さを突き付けられて成長するのだから。


「おいウサコ! チカ様とアイカさんの相手ばかりしてんなよ!! ステージすんぞ、ステージ!!」

 そう言ったワーハムスター(ハムスター人属ひとぞく)のハムコはウサコの丸いピンクの尻尾しっぽ引っ張った。


「イタタ、ハムコ痛いよ! 行く! ボク自分行くから尻尾はなしてよ!!」

 ワーラビットのウサコはワーハムスターのハムコに尻尾を引かれワードッグ(犬人属いぬひとぞく)のイヌコとワーキャット(猫人属ねこひとぞく)のネココの待つ、メイドカフェ奥のステージスペースに連れて行かれた。


「あ、懐かしいな、私もメイドカフェでバイトしてた時にステージやったよ、彼女達のはどんなのだろう?」

 アイカはまるで日本に戻ったような感覚を覚えた。


「確か、アイカのオペレッタを見て作った寸劇だと聞きましたわ」

 チカはしょせん学芸会レベルだと皮肉をきかせた。


「ネコ耳も懐かしい~」

 アイカはネココ達の準備風景を見ながら両手で頬杖ほおづえをつきオムライスと共に注文した、ハズレ無しの百パーセントオヘンジジュースをストローで飲んだ。


「日本とやらにもネコ耳が?! ライカンスロープのメイドがいるのですの?」

 ヴァンパイアのチカが当然の疑問をアイカにぶつける。


「ライカンスロープじゃ無いけどネコ耳メイドはいっぱいいたよ♪♪」

 アイカは楽しそうに話す。


「ライカンスロープではありませんのにネコ耳とはこれいかに???」

 チカは分けわからない。



 厨房から出てきたコボルト(精霊犬人属せいれいいぬひとぞく)のバックバンドの準備もととのい、ケモ耳ライカンスロープメイドのステージが始まる。



********************

 ライカンスロープメイド寸劇ステージ

「いらっしゃいませご主人様」

「いらっしゃいませお嬢様」

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 


「いらっしゃいませご主人様♪」

「いらっしゃいませお嬢様♪」

 イヌコが尻尾フリフリ踊り喜びを表す。


「いらっしゃいませご主人様♪」

「いらっしゃいませお嬢様♪」

 ネココが猫なで声ですりよる演技をする。


「いらっしゃいませご主人様♪」

「いらっしゃいませお嬢様♪」

 ウサコがお耳をピンとしてメニュー片手にご注文を聞く。


「いらっしゃいませご主人様♪」

「いらっしゃいませお嬢様♪」

 ハムコは取りあえずステージ上を駆け回っている。


 そしてコボルトのバックバンドがヴァイオリンやビオラ、チェロやコントラバスの弦楽四重奏げんがくしじゅうそうでその演技を支えた。


 いっぱいのお客様が嬉しいという想い。


 メイドカフェが楽しいという想い。


 美味しいお料理とおもてなしが出来て嬉しいという想い。


 楽しいステージが出来て嬉しいという想いがあふれかえったような素敵で楽しいステージだった。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

********************



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「すご~~い♪ すご~~い♪♪ すご~~い♪♪♪ すご~~い♪♪♪♪」

 アイカはスタンデングオベーションの拍手を送った、久しぶりに見たケモ耳メイドのステージはこの異世界[ファンタシアノウベルス]の誰よりもアイカにとって『エモ』かった『エモーショナル』だった。


 アイカも電気街のメイドカフェでバイトをしていた、メイドカフェで経験した接客がアイドルとしてもやくにたったと思い出す。


「アイカも行ったらどうですの?」

 チカがアイカに優しく微笑む。


「でもここはライカンスロープさん達の場所で……」

 アイカは心配そうにステージの四人を見る。


 チカが四人に目で合図。


 四人はアイカを見てステージの真ん中を開け笑顔で誘う。



「チカ! 私ステージ衣装取って来る!!」



 アイカは今現在、都市迷彩という名のダサ服だった。


「いや、本気過ぎないですの?」

 チカは不味い!! アイカのアイドルモードだと思った。


「別にどんな格好でも良いぞアイカ」

 ワーハムスター、ハムコはもっと軽い気持ちでステージに誘ったつもりだった。


「そうですよアイカさん、即興のゲストですし」

 ワードッグのイヌコは突然の展開に動揺する。


「そやで、ウチらもただのメイドやし」

 ネココはメイド衣装の破壊力を知らない。


「ほら行って帰ってだと時間もかかるから」

 ワーラビットのウサコは営業時間の心配をした。


 チカもステージ上の四人のライカンスロープも今からステージ衣装取ってくるの? とガチすぎるアイドルアイカに引きぎみだ。



「いいえ、アイドルたるものステージ上ではいつも本気です!!!!」

 アイカのオフは今ここに終わりを告げた。



「「「「「マジか!!!!!」」」」」



 小一時間が過ぎた頃、完璧なメイクと真っ白な取って置きのアイドル衣装に包まれた本気アイドルアイカがライカンスロープメイドカフェのステージに降臨した。



********************

 全力アイドル!!!!

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪



 アイカはスカートを『バット』ひるがして派手に踊り。


 アイカはウインク『キラッ』と輝かせカッケーポーズを『キメ』込んで。


 そして世界に『ラヴ』っと愛を降らすような満面のアイドルスマイルを爆発させた。


 そこにはさっきまでの妖怪オフ女はかけら見えず、のアイドルがまばゆいばかりの光と共に降臨していた。


 チカは思った、この全力アイドルの光にやられて灰になってしまうのか? もしそうならばそれを受け入れよう、もはや本望であると。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

********************



 ライブは終わった、アイドルは偉大である。


 息も切らさずキメ顔のアイカに本気のアイドルを見たメイドカフェのライカンスロープメイドも物見遊山でメイドカフェに残ったご主人様お嬢様も本気のアイドルステージの輝きに絶句した。


「流石わたくしを魅了したアイドルですわ」


 ヴァンパイアはアイカを自分ではもう見れない崇高な太陽の輝きを見上げるような瞳で見つめた。


 人生(ヴァンパイア生)に悔いなし!!

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