第2話荒れ果てた街
この世界に来てから一体どれほど経過しただろうか。
まだ数十分としか経っていないはずなのに、何故か数時間以上もたった感覚になっている。
スマホを確認しても当然のように圏外で、時計を見ても果たして合っているのかすら怪しい。
綾音達一行は現在、森の中をひたすら歩いていた。
「歩けど歩けど見えるのは木ばかり....。原生生物すら見えないんだけど?」
そろそろ現地の生き物の1匹位は見えててもおかしくないのに、どれだけ歩いても全然見えない。
見えないどころか生物の気配すら感じない。
足元を見ればアリサイズくらいの生き物はいるかと思ったがそれもない。
__この世界、どこかおかしい。
「あれ?あそこに何か街のようなのが見えるよ?」
一方歩きながらではあるが霧子がなにか見つけたらしい。
街、彼女は確かにそういった。
「え?街?どこどこ?......んーッ!見えないッ!」
霧子の口から出てきた言葉を聞いて、両手を使って目の上に手を当てて、光が邪魔にならぬようにしながら時々背伸びをしたりして辺りを見渡してみた。
しかし、それっぽい建物なんて見えもしない。
見えるのはたくさんの木ばかりである。
「霧子ぉ〜、なぁあんにもみえないよ?そんな街みたいなの...」
「見えたもん!ここからうんと遠いところに...?あれ?なんで遠いものが見えたんだろう?」
霧子は遠くのものが見えてることに違和感を覚えた。
そもそも霧子は目が悪く、遠視な為普段はメガネをつけている。
故に仮にこの先に街があったとしても見えるはずがないのである。
たとえメガネがあったとしても。
「んー、霧子は自分で神様だって言ってたよね?もしかして、それが神様としての能力のひとつ、千里眼なのでは?」
まだ確証はないので疑問を浮かべているが、この先のことが見えてるということは千里眼ではと考えたようだ。
しかし千里眼だけで説明がつかないこともある。
現実世界で存在するとある部族も霧子と同じくらいの距離から、獲物を目視で確認するほどの視力を持ち合わせている。
その部族の視力は、8.0とも10.0とも言われるほどの高視力である。
そう言う1例があるので千里眼と決めるにはまだ早いのだ。
「仮に千里眼だとしても、遠くの出来事を感知することが出来る能力のはず。まあ霧子たちがいた世界の知識では...だけれど...」
なんて霧子は柄にもなく考察しながら、歩みを進める。
全ては歩いてみないことには始まらない。
「私もそうは思った、だから1口に千里眼って呼ぶんじゃなくて何か別の呼び方を考える方が利便性も上がる....かも?まあでも便宜上、その能力がハッキリするまでは千里眼と呼んでおこう。」
綾音も同じように考察しながら歩みを進める。
一体この先には何があるのか、本当に霧子の言うように街があるのだろうか...。
「.....本当に街があるんだとしたら何かご飯のひとつは食べたいな....。あっでもお金が無いんだった....。ねぇ霧子ぉ〜神様なんだったらお金錬金できたりしない?」
そう言えばさっきと違ってだいぶ歩いてきた気がする。
その証拠に奥深くに行けば行くほど足元の地盤がよりジメジメしているのが分かるほど。
そして、霧子達は朝ごはんを食べる前からこの出来事に巻き込まれたので非常にお腹がすいている。
そのせいか、倫理観が薄れた綾音が霧子にとんでもない発言をする。
「....出来たとしてもお金は錬成しない。霧子もお金は欲しいけど楽してものを手に入れようとするのは違うと思った..それこそ霧子が本当に神様なら天罰が下っちゃう...」
天罰が下るのはどっちかと言うと下界の人間たち等であり天使や神様は与える側ではあるのだが...どこだかの世界みたいに楽ばかりしてると痛い目見ると思ってる様子。
「 なんか、霧子...人変わったね。神様になったからって考え方とかも変わるもんなのかな...」
一方で霧子の返答に対して少しばかりポカーンとしている綾音。
本来なら霧子も自分と思考が似てるから同じことを考えてててっきり2人で楽をするもんだと思ったがそうはいかず、まるで試練を与える立場であるかのような考え方をしていた。
まあでも至極真っ当な意見ではある。
「あっそういえばさ、今思えばこうやって地面を歩かなくても良くない?...霧子、翼あるから...」
「あっ....」
そう言えば霧子に翼生えてたの忘れてたァァ!!と内心思った綾音。
確かに翼が生えてるならわざわざ地面を歩く理由なんてない。
空を飛べば全体を見渡せるし、霧子の言っていた街も見えるかもしれないと踏んだ。
「飛べるかは分からないけど、鳥になったつもりで....んっううぁあ!」
霧子は力むような具合で背中に意識を集中させて、翼が動くかどうか試している。
決して力むことは無いのだが慣れてないことなので仕方ない。
「.......翼は―動いてない、ね。飾りってことは無いだろうから単純に慣れてない、だけだと思いたいな...」
綾音は霧子が頑張って飛ぼうと意識を集中させてから数分が経ってそう呟いた。
確かに微塵も動いていないし羽ばたく様子もない。
というか神様なら翼なくても飛べるのでは?ともふと思ったがこれ以上神様への偏見はやめておこう、罰当たりだ。
「やっぱり慣れない身体だからか知らないけどまだ無理みたい...ずっと練習すればきっと飛べるようになるはず...」
どこだかの偉人みたいに空を飛ぶことを夢みて努力した結果ついに翼を手に入れたことを思い出し、それを励みにしながら飛べるようになるまで努力しようと考えた。
せめて空は飛べなくていいから滑空位はできて欲しい...そう願いながら...。
「ところでさ、仮に街を見つけたとして....日本語通じなかったらどうする?」
少し歩いたところで、ふと綾音は何か思い出したかのように立ち止まりそう口にした。
そう、ここがファンタジー世界だと断定するなら恐らく日本語は通じない。
いや、ご都合主義的に発した言葉が相手にはその世界での言語に聞こえる!みたいなことになるなら別だが、そんな展開を期待しすぎるのはあまりにも非合理的で夢見すぎである。
「霧子、神様なら翻訳出来たりする...のかな?」
翻訳と言わずとも、相手が発した言葉が日本語に聞こえるとかいう綾音も考えたご都合主義的な展開に自ら持ち込むことだって恐らく出来るはずと考えた。
「...そんな都合よく翻訳出来ればいいけど...」
綾音も色々考えたが神様だからって何でもできるチート展開になることも無いかぁと思った。
綾音も霧子も2人揃ってゲームはあまりやらないタイプだけれどズルすることに関してはあまりいいこととは思ってない。
綾音だけはお腹が空くとたまに倫理観が損なわれるけど...。
「とりあえず、言語のことは置いておいてここがどういう世界かは知っておくのが大事だと思うな」
というかそう考えておかないと精神的にも持たない。
そうして2人は色々考えながら歩いていくと2人の目でもはっきり見えるくらい何かしらの建物が森の先に見えてくる。
見た目だけで言うなら都会よりの街並みのように見えるが、建物1個見ただけでは判別しずらい。
「?!ほっほんとに建物があった!!凄いよ霧子っ!さすがは出来る妹だっ!」
綾音は目先に見える建物を見つけて大はしゃぎ。
その弾みで勢い余って霧子に抱きつく。
普段どこか抜けてる霧子だけれど、いざと言う時には役に立つ!と思ってるようだ。
「普段から出来てないみたいに言わないで...霧子傷つく...。」
「でも、本当に建物があるとは....びっくり」
姉の言葉に少しトゲを感じたが、自分も目視で改めて確認して驚愕している。
そして、2人揃って建物の方に駆け寄ろうとするが...霧子の脳内に電流の如きイナズマが走った。
「まって...誰か気配を感じる。今原住民に見つかると不味い気がする、どこかに隠れよう。」
「わかった...」
霧子の女の勘なのか、もしくは千里眼の効果なのか知らないが何か人の気配を感じたようで、手頃な岩の後ろに隠れて様子を見ることにした。
「......奴らはどこいった?」
「分からん、しかしこの森の奥に逃げたのなら生きては帰れまい。あぁ我らが街に染落とし様が来られれば状況を変えれただろうに。ともかく一旦クレリア城に戻ろう。」
「あぁそうだな、男女問わないから若手のものが協力さえしてくれれば手駒が増えて戦況が変わるかもしれないってのにな...」
「...しかしここら辺臭うな、明らかに女の匂いがするぞ?それもとっても若気の...」
「わかったわかった、戻ろうって言ったのはお前だろ?仮にここに女がいたとしても今頃性に飢えたお前みたいな男に犯されでもしてるだろ。ほら、さっさと戻るぞ」
「....ケッ、これだから性欲がない男は話が合わん。」
どうやら原住民と思われる男2人の会話だったようだ。
ガシャンガシャンと金属が擦れる音を鳴らしながら霧子達がいる岩の前から去っていく。
どうも雰囲気的には騎士団員のようにも見える。
話にでてきたクレリア城とやらの護衛騎士かなにかだろうか?
「...行ったみたいだね、喋ってる言語は日本語...だったね。どうやら言語に関しては気にする事はないみたい。それにしても見た目も人間だった...鎧の下までは分からないけど、もしかしてこの世界人間も栄えてる世界なのかな...?」
2人が懸念していた言語問題に関してはとりあえず問題ないことを確認して安堵する。
それよりも気になることが何個かあった。
「あの人たち、染落としってはっきり言ってたよね...。何か知ってるのかな?私たちがいた世界での言葉のひとつだったはずなんだけど」
そう、霧子達がいた世界で広まっていたひとつの儀式...染落とし、これの大人バージョンが清めの刻、この世界でもどうやらこのふたつの単語が関係するらしい。
それに染落とし様と言ってたあたり、RPGの魔王を倒す勇者みたいな優遇でもされるほどのものなのだろうかと思っている。
「確かに言ってた、霧子...もしかして当てはまるんじゃ?」
「まさか....綾音かもしれないのに... 霧子、染落とし苦手なのに..」
「よくあるよ?苦手だーって言っておいていざ異世界転生してみたらその苦手なものが転生先ではかなり優遇されてるってこと...」
「.....綾音、それは漫画の読みすぎ....確かにそうだけど、何もかも漫画のとおりにことが進むほど単純なものでもないはず。それにあの人たちはさっき戦況って言ってた、もしかしたらこの世界...今現在も戦争が起きてるのかも」
色々二人で話しあったがあの兵士たちの会話のおかげで戦争が起きてるであろうことも、奴らという単語から戦争先の敵国かもしくは、何かしらの化け物などの侵略から守るために戦っていたのかのどちらかになる。
いずれにしても、よくあるファンタジー世界のように一筋縄ではいかなそうなことがわかった。
「嫌な予感がするとは言ってたけどあの人たち自体は悪い人たちではなさそうだね...そして城があることが分かったから、おそらくこの先に見えた建物は城下町であると推測できる...」
実は綾音、勉強は出来ないがこういう推理は大好き。
よく読む本もハードカバー物の小難しい推理小説等がおおい。
漫画は某名探偵が一番好き。
...まぁ当たってればいいなという気持ちで呟いた。
「ともかく、長々と話してたってキリがないから先に進んでみようよ。考えすぎるのも頭に良くないし、何よりカロリーがもたない...」
と口にすると霧子は先に立ち上がりその場から動こうとする。
「そうだね、進展したことはあれどもっと探っていかないと大元の私たちの目的を果たせないからね..」
そう言えばこんな冒険をし始めたのも両親の殺害の真相や霧子の突然変異を探るための物なのでそれをぱぱっと解決したら現実世界に帰りたいと思っている。
まぁ、帰ったところで両親居ないので共働きになるだろうし、こういうのって帰れないのが常識なとこあるから帰れはしないんだろうなと心の中で思いながら...。
そうして2人はおそらく城下町であろう目の前の建物に向かって歩き始める。
そして歩き始めることものの数分、ついにたどり着いた。
たどり着いた先は綾音の推理通り城下町だった。
右奥にはそれはまあ大層立派な城がそびえ立っている。
多分あの城がクレリア城なのだろう。
それ以外はよくある街道で、道を挟むように両脇に家があったり店が隙間なく立ち並んでいる風情漂う街並みである。
しかし、それは現状の様子を見てすぐに印象が変わることとなる。
普段なら和気あいあいとしているであろうこの城下町は、どの建物を見ても荒れに荒れ果てていてまるでスラム街である。
所々の地面に血が着いてたり泣きわめく赤ん坊がいたりするところを見るに、如何に現場が悲惨な状況かが伺える。
「...酷い、これじゃ戦地じゃない...。住民すら巻き込む戦争だなんて、私たちがいた世界と何ら変わらない...。」
所々にある弾痕や斬撃後だろうかなにか鋭利なもので切った跡が建物や地面に残っている。
中には焦げたような跡もあることから中世漂う世界観を感じさせる。
そう言えばさっきの兵士たちは甲冑を身につけていた...まさかね。
「中世が主軸のファンタジーモノ?....割とベタな気がするな...」
ありきたりというか捻りがないというか...なんとも言えない状況に綾音は言葉を失う。
もしかしてこの世界、魔法ないのでは?とすら勝手に思うほど。
まあそれは試験を受けて見れば分かる話ではある。
とりあえず近場にいる人にでも話かけよう...そう思いながら話しかけようとした時鎧を身にまとった兵士に槍を構えられる。
「お前たちっ!何者だ!どこの国から来たッ!見ない顔だし服装も見たことがないものだ、さては敵国の差し金だな?」
その兵士は槍を綾音に突き立てながらそう話す。
防衛本能というのはよくある話だ。
「あぁいえ、仰ってる意味が全く分からないのですが...。こちらが説明しても信じていただけるかわからないので回答は控えます」
綾音は向けられた槍に怯えることなく...嘘、内心めちゃくちゃビビってる。
でもそれを顔に見せることなく冷静に、しかし強気に答える。
まさかこことは違う異世界から転生してきた!だなんて話誰が信じるのかという話だ。
と言っても死んだ訳では無いが...。
「うん、綾音の言う通り。説明しても納得してもらえるかわからない。でもこれだけは言える、敵じゃない」
霧子がそう口にすると兵士は槍を下ろした。
まるでハッとしたかのように..。
「?!貴女様はもしや..?!いやまさか...こんな下界にわざわざ降臨いただけてるとは考えられませんが...ともかく貴女様の言葉を信じます。ただ、長居はしない方が良い...ただでさえ本国からの物資が滞っていて住民たちは食糧難にくるしめられているのです。もし貴女様がご解決頂けるのであれば..」
なんだかすごいことになってきた。
とりあえず現状言えるのは、姉である自分よりも妹が目立ってるということだ。
これは姉としてのプライドが許さない。
...とはいえ困った、そりゃ妹は神様?らしいから目立つのはわかるが自分は何もない...。
何かはあるのかもしれないがそれが分からないときた。
そうして考えている間にも話は続く。
「...ええっと...とりあえず、話が見えてこないんだけど...この街の問題自体はもちろん解決出来ればいいとは思ってる...。でも、それは霧子1人ではない...隣にいる綾音も一緒じゃないと受け入れない。」
霧子は多少困惑しながらも姉と一緒じゃないなら受け入れないと口にする。
自分1人だけで解決できるとも限らないし何より元の目的を果たすためにも姉は必要だからと考えた。
「なんと、あの慈愛の
偽名を使うほど神界でも一刻を争うのですね。
分かりました、では一旦ギルドの方でそちらの詳しい事情をお聞きしますので着いてきてください。」
「あぁ...うん..。てことらしいからいくよ?霧子」
霧子はどうも慈愛の神様らしい。
てことは魔法があったとしても攻撃魔法はあまり使わないのだろうか?いやでもゲーム脳で考えるならヒーラーが攻撃魔法バシバシ使っててもそれはそれで面白い...かもしれない。
でも、純粋に楽しめれる状況では無いのは確か。
ともかくなんか話が穏便に纏まったから考え込んで動かない綾音に一声かけることに。
「うっうん..わかった...」
とりあえず霧子の言う通りついて行くことにした。
なんか霧子ばかり目立ってるの気に入らないなあとか内心思いながら、絶対霧子よりも目立てるようになってやると向上心高めでポジティブに考えながら歩みを進める。
荒れ果てた街に見える一筋の希望。
彼女らはこの先過酷な道を辿ることになるかもしれないが、覚悟は強い。
きっと彼女達はこの先の苦難を乗り越えてくれるだろうことを願うばかりだ。
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