第1話絶望からの始まり

 ___これはプロローグから1日後の話。

 今日も今日とて何一ついつもと変わらない日常。

 強いて言うなら昨日よりは天気が優れないことくらい。


 やや曇り空で、太陽の光が僅かに窓に入り込み部屋の中を照らす程度。


 きっとまだ外は夜のように暗いはず。

 現時刻は午前6時30分。


 もうそろそろ朝だが秋時と言うだけあって日の出が遅めなのだろう。


「....んんんっ...ううっ...」

 そんな中ベッドで唸り声を出してとても寝心地が悪そうな雰囲気を出しているのが綾音。


 彼女はいつも、霧子よりは先に起きる。

 でも今日はまだ夜だと思ってるせいかいつもよりも長く寝ている。


 しかし、そんな睡眠も終わりを告げる。

 突然太陽の光とは違うまばゆい光が綾音の隣からする。


 その光がダイレクトに綾音のまぶたを通して眼球に届く。

 例えるなら目を閉じてる状態で直接ライトを当てられてるようなものだ。

 そんな強烈な光に思わず綾音も目を覚ます。


「?!まぶしっ...目が痛い...」

 綾音にとっても、きっとだれにとっても目覚めが悪いであろう状況に綾音もやや不機嫌気味。


 しかしその不機嫌さすら吹き飛ぶような出来事が自分の隣で起きていた。

 __妹が謎の光に包まれている!


「霧子...霧子?!ねぇ?どうしたの??何この光?!お父さん、お母さん!大変、大変だよ!!霧子が!」

 霧子はずっと寝ているからなのか反応がない。

 ここまで呼びかけて起きないのは変だ。


 未だまばゆく光るのを止める手段もなく、応急処置として光が通りにくい冬布団でも掛けて直接的な光を極力抑えようと試みた。


 そしてそれが終わればすぐに部屋を出て両親の元へと向かう。


 ダダダダダダと忙しなく響く音、それに合わせて床が悲鳴をあげるように軋む音、いつ穴が空いてもおかしくないがそんなことを気にする余裕なんてないくらい謎に彼女は切羽詰っていた。


 そして、リビングにたどり着いたは良いがそこに拡がっていたのは...地獄だった。


 机に突っ伏するような形で父さんも、母さんも動かないのである。


「!!お父さん!お母さん!しっかりして!お父...ひぃ!」

 綾音は突っ伏したまま動かない2人の肩を持ってゆさゆさと揺さぶるが反応がない。


 それどころか、肌に手が触れた瞬間恐ろしく冷たくなっているのがわかった。


 何が何だか分からずただただ怯える綾音を責め立てるかのように、彼女の手にはびっちりと赤い血が付着していた。


「っ!?きゃぁぁぁあああ!!!!」

 父親だけじゃない、母親も....同じような状態で見つかった。


 両親の遺体の状況は

 1・まるで眠るように顔は自然で何一つ苦しい表情すらうかべてないこと。

 2・背中から鋭利な刃物などで刺され、腹部あたりまで貫いているということ

 3・争った形跡などはどこを見てもないということ。


 以上のことから殺人事件であることは明白だ。


 しかし、そんな分析を綾音が出来るはずもなく...ただただうろたえるように後ずさりし両親から5mほど離れた辺りで力が抜け、座り込んでしまう。


「うそ...なんで....昨日はあんなに元気だったのに....おかしい、おかしいよ....ねぇ、神様どうなってるのさ!!」

 目元からは涙が溢れ出てくる。


 いや涙と同時にやり場のない怒りも湧き上がってくる。


 こういう時やり場がない怒りをぶつけるのは大抵神様である。


 第ーなぜ両親は殺されたのか、どうやって殺したのか...彼女はしる必要があった。


 いや、知らなくてもいい...だってこれは全部悪い夢だと思うから....。


 きっとベッドでまた横になって目を瞑って、次目を開けてリビングにいったら昨日と同じ光景が広がってるはず...彼女はそう信じてやまなかった。


「とっとりあえず手を洗おう....そして手を洗って直ぐに警察に連絡しよう...」

 何にしても行動を起こす前に今の自分の状態を何とかするのが先決だとおもった。


 今このまま警察に連絡したって自分が捕まるだけだというのは誰が見たってそうである。


 台所にむかい蛇口を捻り水を出して手を洗う。

 手を洗いながら蛇口に着いた血を手で少し水を貯めて洗い流していく。


 それが終われば水を止め、タオルで手を拭きながら近くの固定電話の受話器を手に取りすぐさま110番した。


「もしもし、事件です!私の家でお父さんとお母さんが殺されてるんです!」

 綾音は今体験したことを嘘偽りなく全て話す

 しかし

『この電話番号は、現在使用されていません。別の電話番号でもう一度おかけ直しください』

 とアナウンスでコールされるだけ。

 おかしい、何もかもおかしい。


 なんで警察の電話番号が使えないのか、ついに固定電話が壊れたか?そう思った綾音は自分のスマートフォンが置いてある自室にすぐに戻った。


「霧子!大変...!お父さんが!お母さん.....が.....?えっ?霧子?」

 部屋に戻るなりすぐに霧子に呼びかけて起こそうとするがその前に霧子は起きていた。

 起きていたが...そのあまりの変わりように言葉を失った。


 確かに妹なのは間違いないが、やけに神々しい羽衣のような服を身にまとい天使を模したような綺麗な翼が生えており頭の上にはたいそう豪華な輪っかが付いていて....何より、眩しい。


「綾音....おはよう...どうしたの?お父さんとお母さんがどうしたって?」

 綾音の状態に対して霧子はやけに冷静。

 今の姿がさも普通であるかのように振る舞う。


「あっ...いや...その...なんで白い羽根と輪っかが着いてて、そんなやけに神々しい服を着ているのかなと...」

 一方綾音は当然のように混乱している。

 もう頭の中がごちゃごちゃで、情報量が多すぎてキャパシティーオーバーしそうである。


 両親が死んでるし妹も変だしで何から突っ込めばいいのか....。


「あっほんとだ。

 どうやら霧子、神になっちゃったみたい...?この姿が本当に神様なのかは知らないけど....」

 体に感じる感覚...神々しいという状態だけで多分神様に自分はなっちゃったのだろうと霧子は推理した。


「かっ神様ぁ?!ほんとかどうかはいいとしてさ、神様なんだったらさ!父さんと母さんなんとかしてよ!」

 霧子から出たとんでもない発言『神になっちゃった』。


 聞き間違いじゃあないよね?と思いながらもそういうことなら殺されたと思われる父さんや母さんをなんとかしてと詰め寄る。


 明らかに錯乱状態である。


「そっそんな事言われてもまずなんの神様なのかわからないし、第1お父さんとお母さんに何かあったの?それすら分からないんだけど...」

 ごもっともである。


 そもそもさっきまで寝てたこともあって状況が全く読み込めてないのだ。


 自分だって唐突にこんな姿になって動揺しているほどだ。


 そして自分は一体なんの神様なのだろう?創造神?破壊神?死神?...色々と思い浮かべるが全く分からない。


「とにかく、一回リビングきて!口で説明するよりも見てもらった方が早い!」

 そういうと綾音は霧子の手を握って強く引っ張りながらリビングへと向かう。


「わわわっわかったってぇ〜!」

 一方大して力がない霧子は引っ張られるがままである。

 そして一行は問題の現場へとたどり着く。


「えっ....なんでこんなことに....?」

 霧子は綾音に連れられて目の前の光景をみて呆然としていた。

 涙を流すよりも急いで駆け寄るよりも先に呆然と立ちすくむ辺り相当困惑しているようだ。


「私も分からないけど、朝起きてここに来たら殺されてた。明らかに現実的な方法じゃないし警察に連絡を入れても通じなかった。まるでファンタジー世界にいる化け物の触手にグサッ!と1発貫かれたような死に方をしてるもん...」

 綾音は漫画を読むのが好きで、特にファンタジー系の漫画を読むことが多いためこの手のことは感で分かる。


 といってもここは地球で単なる現実世界のはず....。

「その考え方で行くなら、この世界は私たちが知る『日本』ではないということになる。」

 家族が死んでるというのに妙に冷静な霧子。

 でもその瞳からは涙が溢れていた。


 正直泣き叫びたい....でも泣いてても仕方ないという考えから痩せ我慢しているのだ。


 辛いのはお互い様ということなのかもしれないが...。

「てことは...''異世界転生''したってこと?!とっともかく...それを確認するなら一旦外に出て見たらわかると思う」

 異世界転生...大型トラックに引かれたり何らかの拍子で現実世界で死んだものが現代とは違う異世界に転生し活躍する事....。


 だとしても自分達は死んでいないはず。

 何にしてももし異世界転生したなら玄関のトビラの先は見たこともないような世界が広がっているはず...と考えた。


「うん、霧子もそう思う。どうしてお父さんとお母さんがこうなったのかもわからないし、霧子がなぜこんな姿になったのかも分からない....原因究明のためにも調べてみる必要はあると思う..」

 と口にしながらいつの間にか部屋から持ってきていた自身の掛布団を両親に優しくかけてあげる。


 ''さようなら....お父さん、お母さん...''と独り言のように呟きながら合掌した...。

 それを見た綾音も同じように合掌した。


 本当は埋葬したいのだけど多分この家には二度と戻ってこれないかもしれないと踏んだ2人は、合掌を終わらせた後覚悟を決めて玄関のトビラの前に立った。


「....覚悟は出来た?霧子。ここをくぐれば待ってるのは生きるか死ぬか....異世界だろうがそうじゃなかろうがどんな事があっても逃げないようにしよう...」

 綾音は正直疲れてる。

 疲れてるけど根を上げるには早いと考え、真面目モードに切り替えて霧子にそう話す。


「うん、もし仮にこの先が異世界なら霧子がなぜこうなったのかも探索する度に分かるかもしれないし...」

 2人とも念の為スマートフォンだけはポケットに入れておいてお互い左手と右手で手を握って扉をくぐる。

 なお霧子に関して言えばポケットがないので綾音のところに入れてもらってる。


 ガラガラガラと滑車の音が鳴り響く横に押すタイプの玄関をくぐった先に見えたのは......

 __森の中だった。

「....やっぱり、ここは現実世界なんかじゃない。」

 トビラを開けてすぐ横にいる霧子が無事なことを確認しつつ後ろを振り返った。

 すると先程までいた我が家がきれいさっぱり無くなっていた。


 綾音の予想通りだった。

 そしてそれが意味することは、この世界は「ファンタジー」であるということだ。

「霧子、こんな森の中初めて....。そして死んだ訳でもないのに異世界転生してる。変だね...」

 内心少しだけドキドキしながらも異世界ということは魔法も使えるのかな〜?とか知らない種族がいたりするのかなー?とか色々考えている。


 家に帰れなくなってることなんてお構いないらしい。

「私が予想した通りだった。しかし、死んだわけじゃないとするなら....私たちの家ごと転移したのかな?ここまで」

 ファンタジー世界ならない話ではない。

 けど仮にそうだとしてもまぁ珍しい話だ。


 自分たちの家ごとこの世界に連れてきたのならその主がいてもおかしくないのに傍にはいないし、魔法陣のようなものも何一つ見えない。

 本当に異世界なのだろうか?とも内心思った。


「異世界に来たならなにか強い能力みたいなのに目覚めてるかもしれない。霧子は神様?だと思うけど確証はないからむやみに試すのはやめておく....」

 もし本当に神様なんだったら余計なことしてこの森が消えてしまっては後で原住民がいた時に敵対される恐れもあると考えたのだ。


 ちなみに霧子は綾音と違って漫画はあまり読まないが、綾音から借りて読んだことがある異世界転生モノの漫画には興味があったし少し憧れていた。


 だからなにか能力が目覚めたり素質があるーとか言う流れにならないかな?と思ったのだ。


「あーたしかに。そりゃ!」

 霧子にいわれなんとなくそれっぽい仕草をして魔法使いっぽく魔法をはなとうとしてみるも変化なし。


 知識チート系かぁ?と思いながらそれも試そうとしたがそういや自分は馬鹿だった。


 じゃあなんだろう?妹が本当に神様なんだとしたら神様チート?...何とも気に入らないものである、できることなら受け入れたくないほどに。


「....何も...ない。」

 試すだけ試して何も無かったことにガッカリしている綾音。


 まぁもしかしたら学校みたいなのがあったり、ギルドみたいなのがあったりして、そういう所で初めて知るのかもしれない!と少し浅はかな考えが過ぎった。


「もしかしたら霧子も何も無いかもしれないから...もしそうなら!お互い様...」

 そう、神様といってもまだ力が無い可能性だってあるのだ。


 その事を考えると霧子だってあまり気乗りはしない。

「とっとにかく綾音、試すの後にして恐らく異世界と思われるこの世界の森を探索してみましょ。本当に霧子達の知らない日本なら見たことも無い生き物がいるかもしれないし!」

 と綾音の背中を押すようにトンっと軽く叩いてやればそう促す。


「そうだね、ここで立ち止まってたって何も始まらないもんね。よーし!霧子が神になった原因を探る旅通称『神事件』!解決に行こー!」

 一回切り替えてテンションさえ上げれば持ち前の元気さで張り切れる綾音。


『神事件』と評した今回の霧子の状態、綾音のネーミングセンスが壊滅的なのがわかったが、本当にどうしてこうなったのかの原因究明を急ごう、その道中で両親を殺した何者かを探そうという目的を2人で立てつつ、鬱蒼と生える木々の中を..少しジメジメしてて暑く感じるなか少女2人は歩いていくのだった...。

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