第7話:推薦

書店に行こう!

 架橋かけはしは、会社からメールで送られた五月の給与明細を眺め、ホッとする。

 ここでようやく、人並みの生活ができる。

「歴史というか戦国時代というか、どんな入門書を読めばいいのだろう?」

 そう思えるようになった。

 市治ちはる創和はじめ育美いくみも詳しいから、ついていきたい。

 バスケットボールのときも登山の時もバンドを始めた時も、そうだった。結果、多少の難しいことでもついて行けるようになった。だから歴史も大丈夫だ、と、疑わなかった。

 仕事上がり、架橋は新横浜の下調べに、駅ビル八階にある大型書店へ行こうと思った。

 ペデストリアンデッキ(駅前広場の大型歩道橋)に登るや、その瞳にふと天然温泉が目に映る。

「あ!」

 温泉大好き架橋は誘惑に駆られ、立ち止まる。

 歩行者が多いなか、少しの間、金縛りのように動かない。

「そうや、カネはあるんや!」

 と、下手くそな関西弁を放ち、そのまま温泉のあるホテルへ足を進め、初入浴して疲れを癒した。

 その後、日本史本探しに、新横浜にふたつある書店をめぐり、コーナーに陳列されている書籍とにらめっこしながら、悩む。

 両書店、一時間ほど、書籍とにらめっこした。

「うむむむ…………」

 普段はおしゃべりな架橋が、ずっとうなってる。

 どの本も良さそうで、目移りする。

 難解で目がチカチカするものも多い。

 そのため結局決められず、夜になったので帰途についた。






 翌金曜日、仕事あがりの午後六時、いつもの喫茶店ポエムで四人が集まる。

 一番仕事上がりが早い架橋が、ギリギリの時間に入った。

「ちーちゃん久しぶりねー」と市治の横に座り、密着してスリスリする。

「いや、火曜日、ここで会ってます」市治は困った表情で返す。

 同好会は火曜日と金曜日と決めていた。

 架橋は寂しそうに言うも、楽しんでる。

「三日は長いねー。寺さんも創和はじめさんも、毎日お昼に会ってるんだしねー」

 ここで架橋に注文をとりに来た店員さんが、

「いつものですね」と、架橋に水を差し出した。

 顔で通じる。架橋は初めての体験なので結構嬉しい。

 他の三人は豆の銘柄を制覇しようと違うコーヒーを選んでいた。

 創和は無邪気になる架橋に言った。

「そらちゃん、店員さん飼い慣らしたじゃん」

 架橋は「うぇ〜い」と、ピースサインで答えた。

 市治は、同じコーヒーしか頼まない架橋に、

「そらさんが一番、すべての銘柄を頼みそうな印象でしたが……」

 と意外だったが、架橋は、

「私は一途な女なんだよ」と、市治にむけたニヤリ顔が、ちょっぴり変で可愛い。

 三人は白けた。四人で一番一途なイメージが強い人は、市治なのだが。

 育美は苦笑い。

「じゃあ、私らは浮気性なんだ」

 創和も冗談に乗る。

「男選びには苦労してます……」

 と冷やかし気味に言い、みんな笑った。

 創和は金曜日の本題に移す。

「じゃあ、今日の晩御飯の件だが、そらちゃんも普通にお給金が入ったということで、少し奮発しよう!」

 と提案する。

 育美が「賛成!」と声をあげる。

 市治は月給制ではないが、お付き合いとして頷くも、

「明後日の件は?」と問う。

 三浦みうら半島の油壺あぶらつぼで毎年開催される歴史祭りの件だ。

「あとあと」創和は余裕な感じで返した。

 ここで架橋が、皆の知恵を借りる。

「ご飯の前にお願いがあるんだけど、初心者オススメの歴史本ってある?」

 創和も育美もすかさず「あるある」と答えてくれた。

「ほんと!」架橋は期待が膨らむ。

 創和が一番乗ってる。

「論より証拠、書店へ行こう!」と促した。

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