駄話2

横浜市民のミナト感

 四月半ばの会合。歴史雑談に花を開かせる四人の前に、身なりのこ綺麗な男性四人が現れた。

「よう市治チビハル、久しぶりじゃん。大卒以来か?」

 市治の友人のようだ。

「あら、軍閥財務省の新米士官様がお揃いで、なにかご用ですか?」

 架橋かけはしは、市治の丁寧な言葉にはじめて違和感を覚えた。少々、トゲがあるからだ。

 そんなことも悟れない鈍い男たちは、この美人四人に興味津々となっていた。

「そうだ、四人同志いるわけだし、合コンしね?」

 これに架橋が食いついた。

「ああ、いいですね」

 男たちは心の中で、ヤッターと思った。

 ここで、市治は訊ねた。

「何処でやるのですか?」

 男は自慢げに即答した。

「ここは横浜だぜ。やっぱ、みなとみらいの洒落たバーとかでしょ!」

 架橋は喜ぶ。

「いいですね!」

 しかし市治、創和はじめ育美いくみが、嫌悪を丸出しにした。

 創和が舌打ちしながら愚痴る。

「えー、ミナトかよ。だっせぇ!」

 普段は温厚な育美も怖かった。

「余所者がたむろってる所に興味ないわ」

 架橋と男たちは「えーっ!?」と驚く。

 市治はその上で、断った。

「ミナトで女性を惹きつけるなんて、田舎者丸出しで恥ずかしいすよ。お誘いは減税してからにしてください」

 市治にとっては、条件次第でまた会える余地を与えているが、俗世界の人間模様など眼中にない増税カルトの信者達にとっては、


 二度と来るんじゃねぇ!


 と、中指を立てられたとしか解釈できなかった。

 横浜という自治体は、一番の観光スポットである港界隈にインフラも宣伝も政策も盛大に、かつ、綺麗にやりすぎている。しかし市民の大半は、そんなところとは全く縁がない土臭き内地に住んでる。横浜カーストという俗語まで生まれたほどだ。しかしこの用語には自虐や皮肉の要素もあるから、遊び心がある。

 故に三人の嫌悪な態度は、冗談である。

 そんな横浜のブラックユーモアを知らないボンクラ官僚四人は間に受けてしまい、肩を落として立ち去った。

 

 市治、創和、育美は痛快だった。

 架橋のみ、いまだオドオドしている。

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