食事って、うまいよね?
異世界メシマズ案件。異世界は、食事が不味い。 勇者(俺)は、魔物と魔王の討伐とメシウマ世界を目指す決意をする。 【グルメ小説コンテスト用2,000字以上15,000字以下】
不っ味いっ・・・・・!え?何これ?お米?本当に?
これが、俺が初めての食事で思ったこと第一号。
はっきり言って、異世界メシマズ説は本当でした。
現役男子高校生(元テニス部・引退済み)18歳、亀山史人。
断固として、メシマズは受け付けられません。
パサパサした芯の残った硬い米、うっすい塩味しか感じられないほぼ透明なスープ、シャキシャキ感のないサラダ、血の滴るような真っ赤な肉汁のレアなステーキ、全部残念な感じにまとめ上げられたフルコース。
勇者?なるよ!やるやる!って、ノリノリでさっき召喚主の王様とお姫様に答えちゃったけど・・・・・
帰りたい・・・だって、食事は大事じゃん?
腹が減っては、戦が出来ないんだよ?
あぁぁぁ・・・やっばい・・・アヤさん(寮母さん58歳)のメシが食いたい・・・
「いかがですか?お口には合いますでしょうか?」
少しビクビクおどおどした風で、給仕をしてくれているお姉さんが聞いてくる。
どうしよう・・・不味いって言えないよな。
魔王のせいで食糧難って言ってたし・・・
きっとこれでもだいぶ贅沢にしてくれてるんだよな・・・きっと・・・多分・・・あぁ・・・
「おいしいですよ。今は、あんまり腹減ってないんで食べきれないですけど。残しちゃって、すいません。」
スポーツマン精神に則って頭を下げて謝ると、ワタワタと「頭を上げてください!」と慌てられた。
どうしよう、なんかしたと思われてこのお姉さんが怒られたりするのかな・・・ごめん。
でも、灰色の毛並みの猫耳のお姉さんのスカイブルーの瞳を潤ませる姿に、ちょっと萌える・・・更にごめん。
お姉さんにお水のお代わりをお願いして、萌えと一緒に一気に飲み干した。
豪華な西洋風のお城みたいな建物を出て、歩いて20分ほどの少し小さくなった豪華なお城に案内された。
途中で、庭園だったと思われる広々とした土地の横を通り過ぎた。
案内してくれたドーベルマンみたいな凛々しいおっさんに話を聞くと、繰り返される魔王との戦いで、不要不急と思われる物や事柄は全て一度切り捨ててしまったとの事だった。
きっと色とりどりの綺麗な花が咲き乱れて、咲き誇っていたんだろうに・・・なんとも世知辛いことだ・・・
それもこれも、20年前にこの国に戦争で負けて滅ぼされた国の残党が悔し紛れに封印を解いて呼び起こした魔王のせいだというのだから、人の執念は恐ろしい。
門から玄関まで更に5分ほどかけて辿り着くと、大きな扉が勝手に開いた。
と思ったら、中からビシッとキメたおじいさんが出て来て、俺に深々と頭を下げて挨拶をしてくれた。
おじいさんには、ケモミミもシッポも無かった・・・なんか、寂しい。
ドーベルおっさんに案内のお礼を言って別れると、おじいさんは部屋への案内ついでに自己紹介してくれた。
「勇者様の執事として任を受けました。どうぞ、マニアとお呼びください。ご入用なものがあるなど、些細なことでもお呼び頂いて大丈夫ですのであまりご遠慮なさらずに。」
なんのマニアなんですかっ!って聞きたくなって、笑いを堪えるために下を向いたら何か勘違いされた?マニアさん、ごめん。心の中で笑って、ごめん。
部屋には、俺が3人余裕で並べるベッドと、綺麗な飾りがこれでもかと着いた照明がたくさんと、どこに売ってるのか聞きたくなるような陶器のテーブルセットが鎮座していた。
隣の部屋には、浴槽と衝立にタオルやらなんやらが置かれている綺麗な棚。
逆隣りには、完全にウォーク出来るクローゼットだよね?っていうくらいに広い衣裳部屋らしき部屋。
あれ?トイレは?と思って、探しました。
風呂部屋の中に、小さな扉があって開くと・・・・・
なんとも豪華な・・・ボットン便所でした・・・
俺、和式使ったことない・・・・・
なんだかんだ色々あって、やっぱり流石の俺も疲れてたんだろうな。
でっかいベッドにダイブした瞬間に、即落ち・・・
やべぇ・・・腹減った。
今何時よ?絶対夜中だべ・・・
真っ暗な部屋の中、でっかいベッドの端っこで目覚めた俺。
がっつり寝たのか、体が軽いっ!でも、腹ペコ・・・
月明かりでサイドテーブルに置かれた水差しとコップを見つけて、口を付けた。
ここの水、美味いんだよな。
ごくごくとコップ一杯の水を飲み干すと、歩き回って見つけた燭台の前で固まった。
俺、タバコ吸わないからライター持ってないんだけど・・・
間抜けにも、手のひらを上にして「ちょうだいポーズ」で火を探して右往左往する。
「火・・・火・・・」
なんか明るくなったなと下を向くと、俺の手のひらに小さなライターの火くらいの炎が浮いていた。
俺、これ、魔法ジャネーノ?ボク、魔法使いナノ?
変なテンションで手のひらに小さな炎を浮かべながら、最初の目的を思い出した。
俺、腹減ってんだった。魔法より食い物を探さなければ・・・
こそっと部屋のドアを開けた俺の目の前には、甲冑を着ているにもかかわらず屈強な筋肉を惜しみなく見せつけてくるおっさん騎士が立っていた。
おっさん騎士は、俺を見て手のひらの炎を見て俺を見て目玉飛び出るんじゃないかってほどに目を大きくしていた。
「おぅわっ!!びびったぁ・・・あ、すいません。腹が減っちゃって、厨房とかお借りしたらダメすかね・・・やっぱ・・・」
俺の言葉にスッと通常であろう目の大きさに戻ったおっさん騎士は、「ご案内いたします」の一言だけを無駄に重低音なイケボで発して歩き出した。
あの声は女の子なら腰砕けだろうなぁずるいなぁと思いながら、後ろを黙ってついて歩く。
ふと思い出して手のひらの炎に「消えろ!消えろ!」と心の中で念じて、消すことに成功した。
突如立ち止まったおっさん騎士にぶつかりそうになりながら前を覗き込むと、目の前にドアが現れていた。
ドアが開かれた一瞬で、台所の匂いがした。
いつもアヤさんと立った台所の、長年の食べ物や香辛料や湯気の混ざった匂い。
我慢する間もなく腹が鳴って、とっさに腹を抑えるとおっさん騎士が薄いニヒルな笑顔で「どうぞ」と促してきた。
はっず・・・マジで・・・
中に入ると、料理人さんたちが数人、仕込みらしきことをしていた。
挨拶をすると途端に注目を浴びて、ほんのりビビった。
腹が減ったので自分で何か適当に簡単なものを作りたいと言うと、かなりの混乱を巻き起こした。
自分たちが作りますから、お気に召さなかったのか、足りなかったのか、ご要望を、口々に泣きそうな声で言われて、こっちが混乱する。
気付くとおっさん騎士は、どっかに消えていた。
料理人たちを宥めて、手間を掛けたくなかったことと、こちらの調味料や食材に興味があるのだと説明した。
概ね、理解してくれて一緒に手伝ってくれることになった。
先ずは、材料のチェックだな。
とりあえず、使っていい食材を教えて貰った。
じゃがいもっぽいもの、人参と思われる野菜、ニンニクっぽい香りの球根、ほうれん草と小松菜の中間みたいな葉野菜、細長い形のコメ、小麦粉と思われる粉、鶏肉みたいな肉、でかめのビーフジャーキーもどき、塩、コショウの様な香辛料、意外と多くて本当にいいのかと不安になる。
なぁ~にを、つっくろっかなぁ~♪
便宜上、心の中では野菜は元の世界の名前で呼ぼう。
そう決めて、俺は調理に取り掛かる。
ジャガイモと人参を茹でて潰して、細かく裂いた水を少量振りかけてふやかしたビーフジャーキーと塩少々とコショウで混ぜたポテトサラダ。
俺は、ジャーキーじゃなくてコンビーフとほんの少しのマヨで作ったこれが好きだった。
マヨネーズのコクが全く無いのが悔やまれるが、これはこれでジャーキーの塩気が旨味と良い触感を出している。
マヨが苦手な人には、いいかも?
野菜を茹でた湯で、コメを茹でて湯切りをしておく。
直ぐにニンニクのみじん切りを油で炒めて香りを出してから、細かく切った鶏肉・ゆでたコメを塩コショウで炒めた。
ニンニク信者には、たまらん香りっ!醤油が欲しい!!できればゴマペーストも。
最後に、菜っ葉を加えてさっと炒めたら、具材は違えどタイ米チャーハンの完成だ。
ずっと思ってた、ここのコメはタイ米に近い。
アヤさんは、チャーハンやピラフとカレーには、タイ米を使っていた。
パラッパラのチャーハンの秘訣を聞いた時に、こっそり炊き方も教えてくれた。
孤児の俺が、懐いた唯一の人。
寮母で友人で母親で料理の師匠だった人。
良い香りと、懐かしさに、鼻の奥がツンとした。
喉に詰まった何かを、チャーハンとポテトサラダで飲み込んでいく。
腹に半分以上が収まった頃、ふと顔を上げると料理人さん達となぜかおっさん騎士まで俺をじ~っと見つめていた。
こっわ・・・
「どうしましたか・・・俺、なんかしましたかね・・・?あの、そんなに見つめられると食い難いんですけど・・・」
俺に声に、全員がハッと目を逸らす。
なんだかなぁと思いながら、スプーンに乗ったチャーハンを口に入れた瞬間に話しかけられた。
「あの、一口味見をさせて頂くことは出来ませんか?その・・・今食べられているコメ料理?ですか?名前が分かりませんが・・・初めて見たもので・・・あの・・・香りが暴力的で・・・その・・・」
要するに、香りに釣られて腹減ったんだろwww
わかるぜ、その気持ち!あんたたちも、立派なニンニク信者だな!同志よ。
作った料理に興味を持ってもらえたのが嬉しくて、俺は皿をみんなの方に差し出した。
そこからは、おっさん騎士も交じってどんちゃん騒ぎの試食会。
どっからか酒まで出て来て、ジャーキーポテトサラダがつまみにされておっさん騎士の腹に消えた。
俺は、腹減りどもにもう一度チャーハンを作って手際が良いと好評価を頂きました。
そして、料理名がノリと勢いで決定。
題して「パラパラタイチャーハンカメヤマスペシャル」
いつの間にか、略されて「パラタイカメチャー」いいのか?俺・・・
ここでは卵と砂糖はもともと貴重品なことや、魚と卵は生で食べないことなんかを教えて貰った。
何だかんだみんな良い人たちで、食材のこと以外にも色々教えてくれる。
国王の偏食や、王女の優しさ、庭師の友人の解雇への憤りに、魔王への憎しみまで。
この世界の現状が、改めて俺の心にストンと入ってきた気がした。
最近は魔王と魔物たちのせいで少ない食材でどうにか献立を立てていたらしく、目新しいメニューの開発が急務になっていたらしい。
おっさん騎士たち騎士の皆さんも薄味だわ少ないわで辟易していたが、情勢が情勢だけに文句も言えずにずっと我慢していたと言っていた。
出てきた酒は、少しだけ残ったとっておきだったらしく、みんなでチビチビ味わった。
因みに俺は、ひとなめしただけで無理だった。
脳みそがぐらんと揺れそうな強烈なアルコールの香りに、焼けそうな舌と喉と脳みそが拒否反応を示した。
簡易宴会の後、俺は満腹の料理人たちと別れておっさん騎士・ザイドさんと部屋に戻ってからの記憶がない。
多分、秒速で爆睡した。
見張りで徹夜の青ざめたザイドさんから起きた時間が既に昼近くだと聞いて、本気で「俺だけ爆睡してごめんなさい」と最敬礼まで頭を下げた。
朝と昼の中間のブランチの後、俺は沢山のイケメンと沢山の美女にナニから何まで磨かれて、繕われて、ピッカピカで国王との謁見に向かった。
そこで俺は、国王にはっきりと大きな声で宣言する。
「俺、亀山史人18歳は、この世界を美味いもので満たすために、美味いものでみんなと笑顔で宴会するために、何年かかってでも魔王と魔物を討伐するとここに誓う!」
a place for stories(単発物語) あんとんぱんこ @anpontanko
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