第8話 公爵家令嬢 グレネ・コンラディン【裏】 (2)

 グレネが部屋から出ると、リビングでバスバがひかえていた。グレネの顔がわずかに緊張する。白の皇都から何かあったらしい。



「カーフィンク様からお荷物が届きました」



 バスバはバレーボールが入るほどの箱を差し出した。



「中身は?」



「まだ確認しておりません」



 兄は何を送ってきたのだろう?ライルに関するものだろうか。

 グレネが緊張しながら箱を開けると中には二つの包みが入っていた。

 一つをとりだして丁寧に包みを開けると、グレネの目が点になった。

 包みの中からブラジャーとショーツとベイビードールが出てきたのだ。

 どれも色は薄い赤で、スケスケで、かなりあぶないデザインだ。



「ねえ、バスバ……」



「はい」



「これ、なんだと思う……?」



「カーフィンク様からの応援の品ではないでしょうか?」



「バカじゃないの!?」



 真面目に答えたバスバにグレネの罵倒が飛んだ。バスバは顔こそ大真面目だが、目の奥が大笑いしているのをグレネは見逃さなかった。



「お手紙が添えられておりますね」



 バスバは箱から封筒を取り出してグレネに差し出した。グレネは奪うように手紙を手に取ると、中身を乱暴にとり出して広げた。手紙にはこう書かれていた。



「愛しの妹へ。

 君のサイズが変わる頃だろうから、これを贈る。健闘を祈る。

                      カーフィンク」



 グレネは読み終えたと同時に手紙を破り捨てた。そしてブラジャーを手に取りサイズを確認すると確かに今のグレネにジャストだった。



「なんであの兄様は私のサイズを、しかもリアルタイムで知っているのですか!?」



「兄妹愛の為せる奇跡かと」



「そんな奇跡あってたまるものですか!」



 この様子だともう一つの包みもろくなものじゃないだろう。

 グレネはもう一つを鷲掴みにして、バリバリバリと包み紙を破り取り去った。

 果たして、グレネの目はまたしても点になった。

 今度は口もあんぐりと開いている。



「……これ………なに……?」



「ブルマですな」



 バスバは平坦な声で答えた。

 二つ目の包みの中身はバスバの言う通りブルマと体操服だった。

 しかもただのブルマではない。

 生地は高級で肌触りも最高。

 しかもかなり薄いので下半身の線がそのまま出てしまう。

 サイズも何だか小さい。ブラのサイズはジャストだったのにもかかわらずだ。

 兄はこんなものどこで着ろというのだろう。



「これにもお手紙が……」



 グレネはバスバが言い終えないうちに手紙を奪い取った。そして破けるんじゃないかという勢いで手紙を取り出し読むと、即座に破り捨てて、そして叫んだ。



「バカ兄さまのバカー!!!」



 バスバは破り捨てられた手紙の切れ端を集めて、ジグソーパズルを組み立てるようにしてすばやく手紙を復元した。二通目の手紙にはこう書かれていた。



「愛しの妹へ

 奴が手ごわいときは、これを使え。

            カーフィンク」



 手紙を読んでバスバは首を振って、ため息をついた。



「カーフィンク様はこっちですか」



「こちっちって、どっちですか?!」



「私は、メイド服のほうが……」



「なんの話よ?!」



「男のロマン、もとい、萌えるコスプレについて、です」



「メイド服って屋敷でいつも見てたでしょう?」



「だからこそです」



「はあ?」



「滅びたブルマやなんちゃっての猫耳などは児戯。非日常は日常の中で見いだしてこそ本物。つまりメイド服こそ最高です」



「それ、奥さんが聞いたらなんて言うかしら」



「なんの。妻にはかれこれ50着ほど贈っておりましてな。中でも……」



「もう出て行けー!!」



 グレネは怒鳴って手に持っていたブルマを投げつけた。バスバはまだ語り足りないようだったが、恭しく頭を下げるとリビングから退出していった。



 まったく、男のバカさ加減には呆れてしまう。

 なぜこんなものに熱くなるのか。何が男のロマンよ。

 グレネは床に散らばった兄から贈り物を足の先でつつきながら、「はしたない」と呟いた。

 その呟きで先の黒猫の言葉が蘇ってきた。



(「男を誘うよりも、もっと下衆なことをしようとしているのに」)



 頭の中で繰り返しその言葉が鳴り振り払うことができない。



「こっちのほうがマシなのかしら」



 グレネは手足を投げ出して床に寝ころがった。天井には小さいながら美しいシャンデリアがかかっている。



「しょうがないじゃない。神様がお願いを叶えてくれないんだから」



 小さな光芒をぼーっと見ながら、グレネはため息を吐くように呟いた。光芒の中で浮いているような感覚を覚えた時、静かにドアがノックされた。



「なに?」



「いま、手の者からライルに関する報告がございました」



 閉じたままのドアの向うから、バスバの声がした。

 ライルの名を聞いて、胸がドキリと弾む。グ

 レネは、顔が自然に緩むのを何とか抑えながら、立ち上がりリビングを出た。

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