第5話 おっぱいを持ち上げてみてくれますか?

「それ、は……!」


 ――あります。


 普通に。


 感覚的には、腕の意識を遠くに飛ばしてるだけなんだもの。


 そりゃおっぱいを掴んだら……おっぱいの感触は伝わってくるだろうな。


「うぅ……」


 エステル騎士団長は、羞恥で涙目になってきた。


 幾ら背に腹は代えられないと言ったって、恥ずかしいもんは恥ずかしいのだろう。

 ここは……。


「い……いえ、【神の見えざる手ゴッド・ハンド】は、掴んでいる物の感触までは伝わってきません」


「! そ、そうなんですね! よかった……!」


 嘘です。


 ごめんなさい、嘘を吐きました。


 だって本当のことを言ってしまえば、彼女が満足に戦えなくなるだろうと思って。


 おっぱいを触られながら戦いに集中なんてできるワケないし。


 全てはエステル騎士団長のため……。


 もしバレたら、大人しく腹を切ろう……。


「そ、それでは……さっそく試しに、私のおっぱいを持ち上げてみてくれますか?」

「は、はい……」


 なんともギクシャクした雰囲気のまま、俺はスッと両腕を構える。


「――【神の見えざる手ゴッド・ハンド】」


 両手の感覚が自分から離れ、宙へと舞う感覚。


 そして不可視の手は――たわわに実った二つのメロンを、南半球から持ち上げた。


「ふぅ……んっ……♡」


 僅かな喘ぎ声を漏らすエステル騎士団長。


 ――あっ、重ぉい♪


 重くて柔らかくて温かくて、持ち上げただけでゆさっと揺れる感触がある。


 このモチモチとした触り心地は――ヤバい、ずっと支えていたい。


 俺はきっとこのおっぱいを揉むために転生したのだと、そう確信すらさせる。


 ありがとう、神様……。


 もし今ここでもう一度死んでも、我が生涯に一片の悔いなし……。


「ふ……ふへへ……」


 両手から伝わるおっぱいの感触に、思わず頬が緩みそうになる。


 が、唇をガリッと思い切り噛み締めて必死に耐えた。


 お陰で口からボタボタと血が流れ落ちる。


 痛い。


「レ、レンくん!? 血! 口から血が!」


「だ、大丈夫でふ……ちょっと唇を切っただけでふから……」


 本音がバレないよう全力で作り笑いを見せる俺。


 集中しろ……痛みに集中するんだ……。


 でないと今度は下腹部にピラミッドができてしまう……。


 それだけは避けるんだ……!


 騎士の誇りを見せろ、レン・アーメント……!


 エステル騎士団長も最初は恥ずかしがっていたが、


「あ……すごい、とっても肩が楽になりました! やっぱりおっぱいを支えてもらうだけで、こんなに違うんですね!」


「それはなによりです……。どうでしょう、これなら剣も振りやすくなりますか?」


「ええ、かなり! でも……流石にずっと触られているのは、恥ずかしい気もしますね……」


「あっ、す、すみません!」


 すぐに【神の見えざる手ゴッド・ハンド】を解除する。


 それに併せて、彼女のおっぱいもずしっと元の位置にもどった。


 もうその光景だけでも十分なインパクトがあったが、俺は唇を噛んで耐えた。


 とても痛い。


「……」


「……」


 ――流れる沈黙。


 二人とも気恥ずかしさで、目を合わせられない。

 

「え、えっと……それでは、明日は実際におっぱいを支えてもらった状態で、剣の訓練をしてみましょう! 今日は一旦お開きということで!」


「そ、そうですね! 明日から頑張りましょう! ハハハ!」


 俺は部隊寮にある自分の部屋の場所を聞くと、執務室を去った。


 そして、部屋に向かって歩く俺の胸に去来する想い――。



 ……エステル騎士団長のおっぱい、最高だったなぁ。




 *****************




 ――執務室に一人残されたエステルは、再び机に座る。


 そして、さっきレンに言われたことを今更ながらに思い出していた。


「……は、初めて男の人に、おっぱいが魅力的だなんて言われちゃいました……」


 彼女にとって大きなおっぱいは、子供の頃からコンプレックスでしかなかった。


 男には勿論、同性の女にだってジロジロと奇異の目で見られる不快さ。


 こんなモノ、なくなればいいのに――そうとすら思っていた。


 だけど……彼は、面と向かって肯定してくれた。


 魅力的だと。


 恥ずかしさと嬉しさで、彼女は再び頬を染めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る