第4話 あなたを私の〔おっぱいを支える係〕に任命します

「あなたを、〔私のおっぱいを支える係〕に任命します」


「……はい?」


「あなたのスキルで、私のおっぱいを支えてほしいのです」


「……」


 ……


 …………


 ………………!?


 ………………………!


 長考の果てに、俺は結論を導き出す。


 ああ、聞き間違いだな。


 どうやら幻聴を聞いてしまったらしい。


「エステル騎士団長、すみません。どうやら俺は突発性難聴を発症したみたいで……もう一度言って頂けますか?」


「こ、こんな恥ずかしいことを何度も言わせないでください! スキルでおっぱいを支えてって言ってるの! うぅ……!」


 先程までの真剣な表情から一転、顔を真っ赤にするエステル騎士団長。

 

 ……おっぱいを? 支える?


 男の、俺が?


 なんで?


 ダメだ、疑問点しかなくて言葉が出ない。


 頭が真っ白になると、人ってスケベがことも考えられなくなるんだなぁ。


 初めて知ったよ。


「い、一から説明しますから、よく聞いて! レンくんは、その、私の胸を見てどう思いますか……!?」


「そ、それは……言えません……!」


「言って! 騎士団長命令です!」


「……大きくて、魅力的だと思います」


「そうですよね! 大きいですよね!? このおっぱいのお陰で、私はもうずっと困っているんですから!」


 顔を赤らめたまま、プリプリと怒り始めるエステル騎士団長。


 なんだか随分とフラストレーションが溜まっているらしい。


「おっぱいが大きいと色んな人にジロジロ見られるし、すごく肩が凝るし……それになにより、剣が振りにくいの! とっても!」


「で、ですがエステル騎士団長は、剣術の達人と名高いはずじゃ……?」


「これまではサラシできつく巻いて、その上から鎧で固定していたから、なんとか剣を振るえていたんです!」


 エステル騎士団長は半泣きになって、自分の大きなおっぱいを持ち上げる。


 やめてくれ、その行為は俺(の股間)に効く。


「でも戦ってる最中にサラシは千切れるし、おっぱいが重すぎて重心は乱れやすいし……。しかもしかも、最近また大きくなって……もう限界なんですぅ……!」


 まだ大きくなり続けてるのか、このおっぱい。


 それはすごい。いや、SUGOI。


 まさに夢とロマンが詰まった、おっぱい星人の希望の星。


 元々ミカの貧乳しか知らない俺にとって、この大きさは刺激が強すぎる。


 ミカにもこれくらいのおっぱいがあったらなぁ……。


 いや、それだとマコトに寝取られたことが余計に許せなくなるか。


「だからレンくんには、私が戦っている間おっぱいを支えていてほしいの! あなたのスキルならできますよね!?」


「それ、は……」


 ……できるだろうな、一応。


 【神の見えざる手ゴッド・ハンド】は俺が触れようと思った物にしか干渉しない。


 だから俺がエステル騎士団長のおっぱいを支えていたとしても、彼女の動きや戦いを阻害することにはならない……はずだ。


 20メートルくらいなら効果範囲だから、多少離れることがあっても大丈夫だろう。


 だが、そういう問題じゃない。


「エ、エステル騎士団長は、いいんですか……? 男の俺に、えっと、胸を触られても……?」


「……背に腹は代えられません。私は――二週間後に開催される〝聖騎士団武闘会〟で、負けるワケにはいかないのです」


「!」


 〝聖騎士団武闘会〟――それは年に一度開催される、聖騎士団で誰が一番強いのかを決める大会。


 この大会で優勝すれば、優勝者の部隊は聖騎士団で最も強いと認められる。


 当然聖騎士団内での待遇も良くなるし、部下たちの生活をより豊かにもできるだろう。


 そんな戦いに、エステル騎士団長が自ら出る――。


 それはつまり、部下たちの期待を一身に背負うということなのだ。


 幾ら彼女が強いと言えど、とてつもない重責だろう。


「おっぱいが大きくなっているせいで、私は年々実力が落ちてきています……。でも私が武闘会で無様を晒せば、第081部隊が笑い者になってしまう」


「……」


「それに女騎士団が弱いとあっては、部下たちが男性から卑しい扱いを受けるかもしれません。……私は、それを避けねばならないの」


「エステル騎士団長には、それほどの覚悟が……」


「わかって頂けましたか?」


「……わかりました。そこまで仰られるのなら、俺のスキルをぜひお役立てください」


 ――役得、だなんて思ってない。


 思ってないからな。


 これも騎士としての務め……騎士の戦い……。


 煩悩退散……煩悩退散……。


 必死に自分に言い聞かせる俺。


 しかしまさか……貧乳の彼女を寝取られて死亡したら、異世界で女騎士団長の巨乳おっぱいを支える係になるなんて……。


 これは神様のお慈悲なのか……それとも悪魔の悪戯なのか……。


 素直に喜んでいいのかどうなのかわからなくなって、俺はしばし沈黙するが――


「……た、ただ、一つレンくんに聞いてもいいですか……?」


「え? は、はい、なんでしょう?」


「えっと……あ、あの……レンくんの【神の見えざる手ゴッド・ハンド】は……おっぱいを触る感触が、わかるのでしょうか……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る