第六乳 乳導師

「……最ッ低。ただのド変態じゃん。何が予言の導師だ。こんな奴に騙されてたなんて」冷たく言い放つカーチェ。

「……キモい」アオイの白い肌には赤みが差していた。激怒している。


 蔑むカーチェとアオイ。

 返す言葉もなかった。表情が観えなくてもその顔は嫌悪に歪んでるだろうし、そのおっぱいも忌避に満ち満ちている。当然だ。たった今も俺はおっぱいを観続けている。そうしないとそういう感情も計り知れないのだから。


 俺の視線を悟ったのか、二人は悍ましいものから身を護るように、さっとおっぱいを隠した。


 トルテちゃんだけはそうはせず、しっかりと俺におっぱいを向けてくれていた。だが、それだけに彼女がとても失望していることも伝わってきた。


「……どうすんの?トルテ」

「ここまで来て、引き返すなんてことは出来ない。このまま進みましょう……私たちだけで」その決意が、ふるん、と揺れた。


 ―—!


「当然ね。こんな茶番聞いたこともない。アオイ、こいつに案内光を貸してやんな。いくら変態の無能でも、置いてって野垂れ死なれたら目覚めが悪い」

「……カーチェが、そう言うなら……」


 アオイはおずおずと近付いてきて。

「……スカウトフェアリー」

 心底嫌そうに囁いて。俺の頭の前に、例の案内光を灯した。

 とてもか細く、小さな光だった。


「それで帰れるだろ。さ、私たちは行こう。世界を救うために」カーチェが去り。

「……イビルバットたちに食べられちゃえ」アオイが去り。


「……気を付けて帰ってね。そして……」

「―—思う存分マスでもかいてな。変態のクソ野郎!!」


 トルテの心配げな声を、カーチェの捨て台詞が掻き消した。


「……違う、違うんだ。説明させてくれ――」

 しかし、背を向けた彼女たちの姿は朧げな闇の中へと消えていった。



 俺は、呆然とその場にへたりこみ。反芻する。


 ―—そうじゃないんだ。俺は、決してそういう目で見てる訳じゃない。

 それがどんなに素晴らしくて、どんなに俺の心を安らげてくれるのかをきちんと言語化して分析して、納得したいだけなんだ。ただの軽はずみな思い付きやノリではないんだ。


 それがどんなにくだらなくて馬鹿げたことかなんて判ってる。だからこうやって呆れられて、馬鹿にされて、嫌われる。皆離れていく。言わなければ良かった。でも言わざるを得なかった。しょうがないんだ。おっぱいのことを考えるのが好きなんだ。それはどうしても、そうなってしまうんだ……!


 でも。そんなことにでも意味はあるって信じたいじゃないか。

 自分の情熱が何かの役に立つはずだって自惚れたいじゃないか。

 

 それを証明したい。

 それに、単純な話、女の子たちだけを戦いに向かわせてどうする……!!



 俺は駆け出し、僅かな灯りだけではよく観えない暗闇を突き進んでいた。

 途中で何度も躓いて転び、岩壁に頭と身体をぶつけながら、下へ、下へ。




 洞窟を抜けると、そこには巨大な地下空間が広がっていた。


 天には一面、不気味な緑の妖星が瞬いており、地表の岩塊の断裂からは何らかの緑の瘴気みたいなものが噴き出している。悪趣味な温泉地みたいな光景だ。


 その緑のガスに覆われ、護られている影。

 生暖かい風が吹き、緑色の光に浮かぶ姿が垣間見えた。

 魔王とやらの居城だ。

 歪な塔や城壁が幾重にも連なる、如何にも魔!って感じの城だ。

 

「……!」

 その邪気は、特殊な力なんてない俺にはかなりキツい。正直ちびりそう。


 しかし、

『―—――――――――――――――――――――――――!!』


 これまでで最も強大なノイズの咆哮が轟き、我に返った俺は、迷いなく瘴気の渦に飛び込み、更に奥へと駆ける。



 ばしゃーん!ばしゃしゃ、どざーーーん!ばっしゃー!


 前方から、水を打ち、水が跳ね、水飛沫が上がる音が届く。

 俺はまた、駆ける。 

 やがて瘴気が薄れ、辿り着いた一帯は、岩と砂利に埋め尽くされた広大な河原。

 その中にぽつぽつと立つ、平たい岩を重ねた塔の様なものの間を縫って進むと、そこには向こう岸が観えない程の、地下大河が流れていていた。


 そしてその河の中央で、トルテたちは途轍もなく大きな乱影みだかげと戦っている。あまりに巨大。今までの雑魚とは訳が違う。そのシルエットは俺のオッパイアイ(乳眼ちちがん)ですら『三ツ首のドラゴン』だとはっきり認識できた。


「ケルベロスドラゴン!番犬ならぬ番龍っ……さっすが魔王の本拠地!えらいもんを放し飼いにしてるねっ!」

「油断しないでカーチェ!死角がなさすぎる、無暗に飛び込んじゃだめっ!」


 ドラゴンの周りを縦横無尽に駆ける二組のおっぱいが、飛び跳ねながら会話を交わす。横乳と美乳だ。


「中途半端な魔法は効かないっ……うう、さっきの光魔法で力を使いすぎちゃった……!」


 そんな二人を支援するおっぱいが、ちらちら見え隠れしている。


 強力な龍に苦戦している三人は、駆け付けた俺に気付いていないようだった。



 ――なってない。なってないぞお前たち……!

 迷っている時間はない。

 俺は息を胸一杯に吸い込み、叫んだ。


「……お前達のおっぱいはまだまだ未熟なんだ、俺が居なきゃ真の力は引き出せない。そいつを……魔王を倒すためには俺が必要なはずだ!!」


 その為に俺は、この異世界に来たはずなのだから。

 これは俺の物語だ。

 導師として……そう。導師。魔を導く者が魔導師なら。俺は。


 乳を導いて力を発現する、乳導師ちちどうし!!

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