第五乳 乳だけ見てるとバレたら

 俺達一行は、暗くじめじめした洞穴を、下へ、更に下へと進んでいった。


「お願い、スカウトフェアリー!」

 アオイの放った小さな案内光が俺達の周りをゆっくりと巡り、行き先を照らし出す。


 しかし俺は横目でちらちらと、傍を歩く仲間たちのおっぱいを見ていた。


 揺らめく案内光の灯りに照らされ、これまた歩く度に揺れるおっぱいと光のコラボレーション。


 ただでさえおっぱい以外への知覚力が低い上に、光で強調までされてしまうと、暗闇の中に丸い提灯の群れが揺れ浮かんで行進しているようにも見え、光の当たる角度によって常に形を変えていくさまは、まるで月の満ち欠けのようだ。


「満月、半月、三日月……半月、十五夜……」

「導師様?どうなされたんですか?」トルテちゃんのおっぱい振り向きぷるーん。

「えっ、いや何でも、別に」


「何をちらちらと見てんの。私たちの服に何かついてる?」

 カーチェは鋭い。


「ええと、いや、その、ほら。足場が悪いし転んだりしないか心配で」

「……ふーん」

 転んだら転んだで、ふにゃっと潰れるおっぱいが観られるのでそれも大歓迎。そんな邪なことを考えていたので、言い訳のクオリティがだいぶ下がってしまった。


 カーチェのおっぱいは束の間訝しんだようにくいっと吊り上がったが、次の瞬間にはそれどころではなくなってしまった。


『―——!―—―――!!』

 例のノイズ音と共に、いくつもの空気を打つ音の重なり。


「イビルバット!この洞穴に住む半人半蝙蝠の怪物!そろそろ来る頃だと思っていたわっ!」トルテちゃんが剣を抜き放つひゅっぷる!という音がした。


 しかし。


「こ、こうもり!?私コウモリ嫌いなのぉっ……!」

 あろうことか取り乱したアオイちゃんは、案内光を維持する集中を切らしてしまった。コウモリみたいなローブ着てて何を言ってんの!?それはいいけど、灯りを失った周囲は真っ暗になってしまった。


梟眼オウルズ・アイ!」しかしトルテちゃんたちはこういう状況でも戦えるスキル的なものを備えているようだった。俺にはほとんど観えないが、頭の辺りに微かな青い煌めきが宿っている。目に使う魔法か何かぽい。



 カンカン!ひゅぶるるるっ、ぶおんぶおん!ぶわっ、ぶわわわわん!

 ひゅぼっ!ぼぼぼっ!ぼるるんぷるるるん!

 ぴかっ!ちらっ、ちらぷるっ!ぴかぶるん!ぶるううううん!


 剣なのか拳なのか杖なのか、おっぱいの音なのか。とにかく闇黒を裂く激しい戦いが繰り広げられている事だけは確かだ。時折炸裂するアオイの魔法の雷がまるでストロボの様な効果を発揮し、激しく点滅して青白に染まるおっぱいたちの躍動を垣間見せる。


 しかし、おっぱいを彩っていた極彩色の閃滅は突如として止んだ。


「きゃあぁっ!」

 余りの多勢に無勢。背後に回り込まれたらしいアオイちゃんが悲鳴を上げ、ダメージを受けて倒れてしまったらしい。

 

「アオイっ!?アオイっ……!!よくもやってくれたわねぇぇえええぇッ!!」

 カーチェの怒号が闇に閉ざされた洞穴に鳴り響く。


「くっ、数が多すぎるっ。倒しても倒して次から次へとっ……!」

 ぶるばごん!一際大きいおっぱい音と衝撃音を放ったカーチェの声に焦りが浮かび、息切れしたトルテちゃんも悲痛な声をあげた。


「取り囲まれてるっ……!このままじゃ危ない。導師さま!何か手はありませんか!?私たちを導いてくださいっ……」

 

 えっ。ごめん、この暗闇ではおっぱいが見えない。つまり何もできない……。


「えーと、その……ええと……すまない。今は何も見えない。暗くて」

「導師さま?導師さまなら、私たちの魂が観えているのでは?その光は、暗闇の中でも道を示すはずでしょう?」


 ごめん、それ全部ウソなの。普通に明かりがないとダメなの……。

 

「トルテ!来るよ!」

「……ッ!!」


 一斉に襲い掛かってきたらしいイビルバットたちを、トルテちゃんとカーチェは二人きりで迎え撃つ。


 ぷるひゅんっ、ぶるぶる、ばよよっ、ぶん!ぶんぶるるぅん!ぶるるん!


 二人の凄まじいおっぱい音がその戦いの激しさ、勇ましさを如実に表している。


 しかし、敵は余りにも多いらしい。徐々にその奮いは弱まっていっていく。


 ぶるん……ぶるるっ…………ぷるっ、ぷるるる……ぷ、る……。


 ああ、やられてしまうっ。俺はこのまま何もできないのかっ……!?



「……やらせは、しないっ……!出でよ、退魔の極光!アブソリュート・ライトぉぉぉーーっ!!」


 びかーーーーーっ!途轍もない光が洞窟内部の全てを白く染め上げた。

 気絶していたアオイが復帰し、如何にもこの手の連中に効きそうな光の魔法を放つ。


 じゅうううっ。聖なる光にイビルバット共が焼けるか何かする嫌な音が響き。

「カーチェ!いつものやつ!」

「よしきたっ……!」


 アオイの叫びに応じたカーチェが(恐らくは)アオイが作った魔法の鐘か何かに、全力で拳を叩き込んだ。


 ぐわーーーーん!という轟音は、おっぱいの音すらも掻き消し、そしてその大音響はイビルバット共を一網打尽にし、バタバタと叩き落とす。『―—!―—!』辛うじて生き残ったイビルバット共が慌てふためいて退散していく、不器用な翼の音が遠ざかっていった。


―――――――――――――――――


「……導師さま、一体どうなされたんですか?つい先程までは見事な導きを与えてくださっていたのに……」

 

 戦いが終わり、俺は彼女たちのおっぱいに三方から取り囲まれていた。普段なら最高に嬉しいシチュエーションなのだが、三者三様のおっぱいたちには不審と不安に満ちていて、今はぷるりとも震えてくれない。特にトルテちゃんのおっぱいの失望ぶりたるや、あんなに張りがあったのに、今は萎れてしゅんとしているようにも見えてしまう……。


 何となく、中学生の時にクラスの女子から詰問されたことを思い出した。

 あの時は誰かの胸を凝視していたことがバレて、散々になじられたっけ……。しょうがないだろ。ド思春期にクラスメイトのおっぱいが膨らみ始めたら気にならない男子中学生なんて居ません!!


「説明しろ!おかげで私たちは……、アオイは死ぬとこだったんだッ!!」

「か、カーチェ、落ちついて……結局私は無事だったんだから。ね?」

 後ろから抱き抑えられつつ、激しく憤るおっぱい。


 確かにその通りだ。


「じ、実は――」

 

 中学の時のトラウマを思い出し、そして罪悪感にも苛まれてしまった俺は洗いざらい、全てを話してしまった。魂が観えるなんてぜーんぶ嘘。彼女たちとパーティを組んだのはおっぱいが理由。そして様々なアドバイスもおっぱいに関することだけ。


 それらが全て、バレてしまった。

 

 えらいことになった。

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