第二乳 ところで本当のことを言うタイミングを逃した
見事にモンスターを退治した俺たち(というかトルテ)は改めて馬車を進め、草原の一本道を往く。可哀相に、不幸にも死んでしまった御者の代わりに馬を駆るトルテのおっぱいは、さぞ上下にぶるんぶるん言ってることだろう。しかし客車からはぼんやりした背中しか観えない。ちくしょう。
やがて草原の一本道の彼方に城下町が観えてきた。ごく普通のよくある中世ヨーロッパの街……でもなかった。
街を取り囲む石壁には煌びやかな飾りつけが取り付けられている。木版で作ったと思しき色とりどりの星や音符などと、そして紙で作ったリボン……どういうこと?
トルテちゃんに聞いてみたけど、「え?何かおかしいですか?」との返事。これがごく当たり前のようだ。どうやら魔除けの一種みたいだけど、それにしたって何処か幼稚で呑気。世界に危機が迫ってる感がない。
しかし一応、城壁の物見にのあちらこちらには、たぶん見張りらしき『影』がぽつぽつと立っており、草原を監視しているようだ。
やがて外門を抜け、城下町に入る。市街地の中央に、これまたオーソドックスな白城が判り易く建っているのが見えた。街のメインストリートはそのまま城へ続いている。何もかも変哲のない――。
「導師さま、ようこそオーパイ国へ!どうです、とても素敵な街でしょう。魔王が現れて他の国はみんな滅ぼされてしまいましたが、この国の者は恐れたりはしません。ほら、街の皆の顔を見てください。誇りと活気に満ちた……どうしました?」
「え?ああ、うん。そうだね……」
しかめっ面で、目を細めて『街の皆』を見比べていた俺に、心配そうにおっぱいが振り向いた。
「やはり判りますか、それも空元気だということが……さすが導師さま」
良い感じに解釈してくれたみたいだけど、勿論違う。
当然、街を行き交う半数の者は全員、影だ。
だからといって残り半分はおっぱい。という訳でもない。
小さい影……子供の場合は女児も、全員が影のようだ。ある程度の年齢になるとおっぱいとして認識できるようになるらしい。その切っ掛けは大体予想つくけど、まあ、膨らんできたらおっぱい、と呼んでいいんだろう。
トルテちゃんは活気に満ちている、というが、ザーザーガーガー、ノイズの塊の様な姿と影が街を行き交い、語り合ってる光景はホラー映画さながら。その中で大小様々のおっぱいだけが浮かんで揺れている。
というかこの事をトルテちゃんにはまだ告げてない。「やあボク君のおっぱいしか観えてないんだ!」って言える?言える気がしない。言い方次第?
何かこう、都合の良い説明を考えている間に、お城に着いてしまった。
「トルテシア=ボウウィング、ただいま帰還した」え、今ボインつった?
「―——!―——!」
思索に耽っていた所為で空耳したようだ。
迎えに出て来た衛兵らしき影たちが馬車に群がって来た。数名が荷台に積んでいた御者の死体を降ろし、その布をめくって中身を改める。影が影を取り囲んで何やらぎーぎー言ってる。近くで騒がれると頭いてえんだよな。
俺は馬車を降りると、同じく馬を降りて目の前で静かにふるふる震えているおっぱいに語り掛けた。神妙に。
「……トルテ、聞いてほしい。君に打ち明けないといけない事がある」
「実は、俺は目と耳が不自由なんだ。朧気には見聞きできるが、大抵のものは良く観えない」
「え?じゃあいったい、先程のは――」ぷるっ……。
「その代わり……その代わりに見えるのは、魂だ。それも高潔な精神を宿すものの魂。具体的にどういうものかは伝えにくいけど、とにかく、そういう、真に優れた魂の形だけが見えて、その声だけが聴こえる感じだ。その光は、世界が闇に包まれようとも、どんな暗闇の中でもあろうとも俺たちを導いてくれる。そして何を隠そう、君がそうなんだ。他の者が何を話しても、俺にはよく聴こえない……だから、もしそうでない相手と会う事になったら、俺の目と耳になってくれ」
「…………」ふるふる……っ。
「そんな、まさか私などめが、導師さまのお供に……!?」ふるふるぷるぷる、ぷるっ……!
ちょろい。
短時間で考えたにしては上出来じゃね?嘘はついてないし。
そんな訳で、ちょっとした驚きと誇りに弾むおっぱいを引き連れた俺は、女王との謁見に臨んだ。
衛兵の影の間を進み、豪華な広間に出る。
「ようこそ、予言の勇者さま。わたしはオーパイ国女王、デッ……」
でっっっっか!!
立ち上がって一礼すると、膨大な重みに撓んだ丸みがぐぐぐんと垂れ下がる。
身体を起こしてもなお、大地を名残惜しんでいるかのように、ずしりと鎮座する。
胸元ががっつり空いた豪華なレース的な黒ドレスが、その圧倒的な存在感を彩っている。なんという威圧感っ……っ!
あまりにも巨大なものを前にして、遠近感が狂う感覚に襲われ、立ち眩む。
思わず溜息を漏らしてしまった。
荘厳さと気品を兼ね備えたすばらしいおっぱいに感心してしまっていた。
俺は、修学旅行先で訪れた大仏を見上げた時の感覚を思い出した。巨大でありながらもその表情は穏やかで、あらゆるものへの赦しと慈悲を与える、優しさも兼ね備えている……。人は歴史上、大きさへの憧れを抱きつつ歩んできた。神話に残る巨人の伝説や、怪獣映画やロボットアニメなど……そして現実にも、とにかくおっきなものを作ってテンションを上げようという試みが世界各地に遺跡として残っているし、祭りとしても伝えられている。
バベルの塔。あれは別に天に届く様に作ろうとしたんじゃなくて、単におっきなものを作ってる間に、ハイになり過ぎた結果、ああなっただけなんじゃないだろうか。
「―—という事で、魔王討伐、頑張ってくださいね」あっごめん聞いてなかった。魔王?倒すのね?おっけー。
女王デッカはまた一礼した。膨大な重みにたわんだ丸みが以下略。
「街の酒場に戦士たちを集めてあります。皆、志願して集まった歴戦の
はいはい。その感じね。
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