第三乳 おっぱいを見つめる視線はきっと

「導師さま。どうでしたか?その……デッカさまは」


 謁見を終え、トルテちゃんのおっぱいがおずおずと尋ねてきた。


「うん、あのおっ……いや、あの人はとても素晴らしい人だ。優しくておおらかで。それでいて全ての人を赦し、挟み込む……じゃなくて、包み込む程の大きさを感じた。だから大丈夫、ちゃんと聞こえていたよ」


「ええ、とても素晴らしいお方なんです。デッカさまの魂は、きっと導師様も伝わると信じていました」ぽよんっ!


 俺はあくまでも、彼女のおっぱいの感想を言っているだけ。

 しかしそれでも何とかなるものだ。



 そして、酒場へ。


 女王の城からほど近い、街の中心の大きな酒場には、大勢の乱れ影と、たくさんのおっぱいがひしめいていた。


 俺とトルテちゃんが店内に歩み入るや否や、影とおっぱいの群れが一斉に群がって来る。ギーギーザーザーというノイズが耳に痛く、眩暈がする。


 思わず耳を押さえ、よろよろとふらつくと。


「退がれッ!無礼者ども!不遜な魂の喚きは導師さまにとって苦痛!それ以上近づくことはこの私、トルテシア=ボウウィングが許さないっ!」

 ひゅぱブルン! という剣を抜く音と、決然としたおっぱいの音が混じった。


 ありがとうトルテちゃん。その解釈、グッド!



 伝説の勇者の出現の噂はすっかり国内に広まっていたらしい。

 我こそは、という腕自慢が集まって、魔王討伐のパーテイに入ろうと躍起になっていた。だけど悪いね。腕じゃなくておっぱいで選ぶから。それしか判断材料がないから。


 俺は酒場の奥のソファに座り、じーっと店内を見回していた。

 当然、男は論外だ。おっぱいも三割程度は居るし、そのどれもがそれぞれの魅力をもつバリエーション豊かな乳だったが、これぞ!というおっぱいはなかなか見つけられなかい。


 真剣な眼差しでおっぱいを吟味している俺の横顔を、トルテちゃんはすこし惚れ惚れした感じで見ていることには気付いていた。かっこよく見えてるのだろうか。まあ、男がおっぱいを見てる時と、数学の方程式を解いてる時の顔は全く一緒だという話もある。ウソだと思うなら両方を自撮りしてみると良い。



 で。結構な時間が経ったみたものの。

「……ダメだっ。俺が理想とするものを持つ者は、ここには居ない……!」

 俺は心の底から悔しがった。おっぱいなら何でも言いという訳じゃない……!


 しかし。


「ねえ、何事なの?皆してアホ面揃えて突っ立って……奥に誰かいるの?」

 よく通る、気が強そうな声がして。


 影たちを押し分けて進み出てきたおっぱいを見た瞬間、俺の時は、ゆっくりになった。


 黒革のハーネスに簡素な緑色の道着を羽織ったおっぱい。

 鍛えた体つきは浅黒く。筋肉質ではあるが二つの膨らみは絶対的な柔らかさに支配されていて。トルテちゃんよりも少し大きいくらいだろうか。小生意気に上を向いたトルテちゃんとは違い、丸くたわんだ曲線は洋ナシを思わせる。ただ立ち止まっただけなのに、自分はここに居る!と、強く主張する様にひと揺れして。


 そして。

 よ、よよ、よ、よこちちだぁ……。

 

 仰け反った俺はへなへなとソファに沈みこんだ。道着とハーネスの脇の部分に、明らかに、そしてくっきりと浮かぶ、乳と身体の境界線。俺のおっぱい論の中でもかなりの上位概念に入るものだった。これまで見てきたどんな横乳よりも乳横だった。


「なーに?こいつ?」ぎゅうっ。

 ああ、腕組まないで!腕組むと良い感じに歪むから!それは卑怯だぞ。それもとても良い!きっと顔は俺を訝しんでる表情を浮かべてるのだろう。でもそれ以上におっぱいが浮かんでる。訝しんでる。そんな蔑むようなおっぱいを向けられたら、俺は!


 身体中に電撃が走ったように動けずに居ると、更に。


「ご、ごめんなさいっ、ちょっと通してくださいっ……ごめんなさいっ、ねえっ、カーチェ!待ってよぉっ………きゃっ!?」


 影を掻き分けて、こぶりなおっぱいが足をひっかけ、つんのめった。



 あああ!それは!

 前屈みになった瞬間、ちらりと見えたそれはぁ!!


 決して大きくはない。世間では貧乳と呼ぶだろう。だが、何度も言うように体積の多寡は関係ない。あくまでもバランス……!


 小柄な身体にはちょっと大きすぎる黒いローブの胸元から垣間見えたのは、色白の僅かな膨らみ。そしてほんの一瞬、微かに見えた、薄いピンクの片鱗。


 勘違いするなよ。そのものが見えた訳じゃないし見たい訳じゃない。あくまでも肌との境界に浮かぶ僅かな変色の際。エッジ、地平線。青空と夕空の間。陸と海の狭間。その曖昧な深遠の縁が、一瞬だけ見えたんだ。

 

 体躯と衣服の面積の、奇跡的な比率が生み出す黄金比、その一瞬の美しさ。陽が沈む一瞬に空が緑色に染まるアレ。見えないからこそ「どうなんだろう」という好奇心と「想像したらダメだよな……」と思わざるを得ない年端。いや年齢は知らないけど。そんな背徳への誘いだ。想像させ、妄想してしまう罪の連鎖!!



「……ッきみたち、合格!!」


 俺は弾かれるように立ち上がり、びっしー!と恰好良く、二組のおっぱいに向けて人差し指を突き付けた。

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